細胞増殖と老化

iPS細胞は成熟細胞から人工的につくられた未分化細胞である。そのためiPS細胞を応用すれば免疫拒絶反応なしに損傷をうけた組織の移植に利用できると考えられる。
しかし、実際には成熟細胞はすでに遺伝子レベルでかなり損傷をうけている場合が多い。つまりある種の突然変異体と化しているといっていい。
たしかに成熟細胞を人工的に未分化細胞に戻す技術を獲得した功績は大きいと思う。
しかしながらその未分化細胞がなぜ癌化したり細胞死(アポトーシス)を誘導してしまうのか不明である。
つまり、たとえば細胞が癌化するとは細胞が無限増殖性を獲得したことになる。つまり細胞に分裂回数の制限はない。そう考えると老化現象はあらかじめプログラムされていると結論づけられる。
このプログラムを作動させるのがウイルスや活性酸素を含む環境因子、炎症反応など複数の原因が相互に関係している。
細胞が無限増殖性をもっているとするなら、その集団のなかに幹細胞が存在することが推測されている。
つまり、すべての臓器や組織に一定の割合で幹細胞が存在しているという意味になる。
最近、それは癌細胞にも当てはまると考えられるようになっている。
つまり、老化を止めて不老長寿への架け橋になるのは、まず、この幹細胞の状態が重要になる。

将来、といっても遠い未来になるかもしれないが幹細胞の突然変異を遺伝子レベルで修正もしくは修復する技術はとても重要であると考える。
そうすれば、癌の無限増殖性と不老不死化との整合性が成り立つからだ。
癌細胞自体は細胞分裂回数に限界があると考えられる。
癌細胞が無限に増えているようにみえるのは、実は癌幹細胞が癌細胞を無限につくっているからなのかもしれない。
また幹細胞は生殖細胞以外に最初から存在しておらず、成体のあらゆる細胞からあたらしく作り出される可能性も否定できない。
それは、iPS細胞のように何らかの外的因子により細胞が未分化細胞に変わることが明らかになったからだ。
そう考えると幹細胞自体も成体のもつ成熟細胞の老化とともに既にかかなり損傷をうけていると考えられる。
細胞が破壊されるとは細胞が突然変異を起こし異物となり免疫系の反応が動因されるほか、一般にアポトーシス(細胞死)と呼ばれる現象が関係している。

端的にいえば、細胞あるいは幹細胞が癌化するかアポトーシスにより自滅するかは細胞の変異の場所により確率論的に決まる。
長く生きている老人にがん患者が多いのはそうした理由になる。
最近になり、仮説としての幹細胞の存在があらゆる組織や臓器に存在していることが指摘されているが、以前から老化に関係する要因として細胞間マトリックスの微小空間の分子レベルでの不可逆的な変化も老化の原因になっている。
まとめると、現在の技術では老化は止められない。

現在でも癌については癌幹細胞がなんであるのか単離もされておらず、その存在ですら不明である。しかし癌幹細胞説が正しいのならその幹細胞に特異的な抗がん剤を開発しさえできれば癌を撲滅できる。


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