ミナシゴノシゴトの仕事│⑧善悪

▶ミナシゴというワード


ミナシゴというモチーフを使用することは早い段階で決まっていた。

理由は妄想の件から繋がって「人道支援」というコンセプトにも関わる。

これはユーザーの皆様に、「疑似的な善行をして、その欲求を満たしてほしい」という出発点からだった。

難しく言ってるが、「ファンタジー作品の中で悪い魔王を倒す勇者になって楽しんでほしい」というものと何ら変わらない。

またこの点、「設定上の義理の娘と恋仲になる」という現実世界では物議を醸しだす設定を通らければいけない。ここに関しては長くなるので今後お伝えする。

結果としてはそもそも成人男性用のコンテンツ企画という前提と、ライターチームの頑張りによって、フィクションとしてこれが成り立つ世界観に仕上げてくれた。

話を戻して、ミナシゴというワードに関して。僕がクリエイトする上では、根底として僕が惹かれる「虐げられた存在が、それでも立ち上がり、巨悪に立ち向かう」というカタルシスが最も大きなチョイスの理由になる。

もちろん敢えて「悪い行い」の描写でそういう欲求を満たすやり方もある。過激でハードな漫画でもよくあるし、奴隷区という作品もこの系統だ。

また例えば、映画の「スーサイドスクワッド」(2016)を知ってる方なら話は早いが、僕はこの映画を観た時、(どんな悪いヴィランが悪いことをしてヒーローを倒すのかな)と期待して観た。

しかし最終的には、悪人が仲間を助けるためにさらに悪い敵と戦う流れになっている。

手の内を話すと、小悪が大悪を倒して善になる手法を前提に、「作品を手に取るためのフック」としてこのピカレスクな要素を使用する場合がエンタメ作品には散見される。

(ちなみに世間の評価はいろいろあるが、僕個人、スーサイドスクワッドは大好きな映画のシリーズでもある。結局はそのほうが気持ちよく観れると思う。)

もちろんこのミナシゴというワードを使うことにも細心の注意をはらった。

これは結果として、ダブルミーニングである「皆死後」というワードにも大きく関わり、また同時に解決の糸口になる。これはまた今後どこかで、機会があれば少し語ろうと思う。

▶過去作から学んだこと


過去作の「奴隷区」という作品は、奴隷というワードを使用したために、当時公開していた携帯小説サイトでも若干の指摘を受けた。

要は「こんな不謹慎なワードを使用してけしからん!」や「使用していいのかなー? ねーねー、先生に言っちゃおうかなー?」という意見だ。

奴隷区においては、書く前から「奴隷の歴史」を作中に挿入することを決めていた。

奴隷というテーマを描くからには、史実にある凄惨な歴史を紐解き、読者に伝える義務があると考え、逆にこれがないまま、このテーマを使用することは、それこそ書き手として無責任であると考えたからだ。

奴隷区は、ありがたいことに実写映画、テレビアニメ、漫画、とメディア化したが、実は、そこにはほとんどこの部分は描かれていない。(当然かもしれないが)

しかし原作小説には「ジャマイカ」というキーワードを散りばめ、その歴史を紹介する重要なシーンもあり、それが物語の根底に大きく関わっている。

これは「奴隷はいけないんだよ」という道徳心・思想の押し付けではなく、まずは情報をそこにそっと置き、読者に委ねる方式を取っている。

ストーリー作品で筆者の思想を押し付けて喜ぶ読者はあまりいないからだ。これはさらに過去に書いた「少年と老婆」という作品から学んだ手法だった。

だが物語を描く上で、テーマや思想を避けると、その作品の寿命に関わる。読者は押し付けを嫌う一方で、「何が言いたいんだ?」も嫌う。

僕個人は書き手の知識以上に、思想・哲学こそ本当に大切だと考えている。教養とは知識の応用であり、その応用の方向性は思想・哲学で決まるからだ。

ここでいう思想は道徳心や信仰の部分であり、哲学は物事を深く思慮する様として言っている。作品の品位に関わり、長く愛されるかどうかに関わる。

これだけで相当な文字数が必要になるジレンマであり話題だが、総じて、少年と老婆という作品の執筆や、自分自身が読んだり観た映画などで学んだことは、

筆者が言いたいことは魅力的なストーリーという付加価値の上で、作品の全体にフレーバーあるいは骨子として存在することが、より多くの人の楽しみと得るものがあることに繋がる。

当然、それは読んだ人の感動や前向きな生き方、あるいは読書から得る息抜きや安心できる居場所に繋がるべきだと思う。

要は「何のためにこの作品を書いたか」「何のためにこの設定を設置したか」という、理由にこそ価値が生まれる

余談だが奴隷区をリリースしてから、それまでなかった奴隷というワードを使用する漫画や小説のエンタメ作品を書店で見かけるようになった。

「あっ、使っていいんだ」と思う人もいたのかもしれない。

つづく

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