四畳半神話大系トノ邂逅
大人になってから初めての読書感想文を書いてみようと思う。
小学生ぶりではなかろうか。ちょっとワクワクする。選んだのは課題図書の中で1番好きな森見登美彦さんの『四畳半神話大系』。
▼四畳半神話大系ノ概要
私は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実は程遠い。悪友の小津には振り回され、謎の自由人・樋口師匠には無理な要求をされ、孤高の乙女・明石さんとは、なかなかお近づきになれない。いっそのこと、ぴかぴかの1回生に戻って大学生活をやり直したい!さ迷い込んだ4つの並行世界で繰り広げられる、滅法おかしくて、ちょっぴりほろ苦い青春ストーリー。(解説・佐藤哲也)
この本を読んで思ったことがある。
主
人
公
は
誰
だ 。
早急に、可及的速やかに、短兵急に、作者に問いただす必要がある。
▼主人公ハ誰カ・其ノ壱
四畳半神話大系の主人公は「私」である。それは分かるが私とは果たして一体誰なのか。なぜこんなことをいうのかと言うと、作中に一切主人公の名前が出てこないのだ。苗字も下の名前もさらには手掛かりになりそうなあだ名すらわからないのである。物語は主人公の私を軸にして進んでいくし、私の心に声が至る所に述べられているので、私がどんな容姿で性格で話し方をするのかよくわかる。が、その実、私が誰なのかさっぱりわからないのである。奇っ怪なことこの上ない。有名な夏目漱石先生の「吾輩は猫である」や「こころ」と同じやり口、、こ、これは、ナカメ作戦ならぬナツメ作戦!!
名前を呼ばれないのならばどうやって他の人物と会話しているのか。そう、名前を呼ばれないだけで呼びかけられてはいるのだ。小津からは「あなた」、樋口師匠からは「貴君」、明石さんからは「先輩」、城ヶ崎さんからは「おまえ」、相島先輩からは「君」、羽貫さんに関しては二人で飲みに行ったにもかかわらず1度も私の名を呼んでいない。可能ならば私に問いたいものである。君の名は?
アニメ版の四畳半神話大系でも、四畳半タイムマシンブルースも確認してみたが一切明かされていなかった。いったい彼は誰なのか。
責任者に問いただす必要がある。責任者はどこか。
▼主人公ハ誰カ・其ノ弐
何度も言うが主人公はご存知の通り私。しかしこの物語、恐るべきことに登場人物全員が主人公に負けず劣らずへんてこで魅力的なキャラ立ちっぷりである。
野菜嫌いで即席ものばかり食べているからなんだか月の裏側から来た人のような顔色で夜道で会えば十人中八人が妖怪と間違う容姿の悪友、小津。そんな小津の師匠でナイヤガラ瀑布が逆流するような迫力で麺をすすれる男、樋口師匠。歯に衣着せぬ物言いで理知的だが蛾を目の前にすると「ぎょえええ」と叫び顔面蒼白になってがたがた震えてしまう黒髪の乙女、明石さん。映画サークル「みそぎ」で独裁体制を敷きながら興味があるのは乳ばかりのラブドール香織さんの持ち主、城ヶ崎さん。酒を飲むと人の顔を舐めようとする窪塚歯科医院に勤める歯科衛生士、羽貫さん。物腰は柔らかいがどことなく慇懃無礼な印象を受ける秘密組織福猫飯店の下部組織図書館警察幹部、相島先輩。これは各キャラクターのほんの一部の紹介に過ぎない。彼らはだれもが主人公になり得るくらいの魅力を持つ愛すべき変人たちなのである。
▼猫ラーメンヘ参ル
四畳半神話大系を読んだ誰もが思うはずだ。
猫 ラ ー メ ン
を
喰
べ
た
い
猫ラーメンは、猫から出汁を取っているという噂の屋台ラーメンであり、真偽はともかくとして、その味は無類である。出没場所をここで明らかにするには何かとさしさわりがあろうと思うので、細かくは書かない。しかし下鴨神社の界隈であるとだけ述べておく。(四畳半恋ノ邪魔者より引用)
今年発売された『四畳半タイムマシンブルース』。四畳半神話大系の仲間たちが10年以上の時を超えタイムマシンでひと騒動おこす物語。田村君は彼の時代ではなくなってしまった銭湯「オアシス」を見に行って感動したといっていたが、もう一カ所行くべき場所があるではないか!そう我らが猫ラーメン!!
というわけで四畳半神話大系の続篇(?)の四畳半タイムマシンブルースを読んで、森見登美彦さん、上田誠さん、中村佑介さんへの敬意をはらい、田村くんが「オアシス」ではなく「猫ラーメン」に行っていたら?勝手な続篇の続篇展開妄想篇スタート!
▼ふたたび八月十二日のつづき
空間が歪み、目映い閃光が廊下を充たし、猛烈な渦巻く旋風が渦とともに「タイムマシン」が現れた。
あたりを見回し念のため誰もいないのを確認してふぅ、と一息つきタイムマシンから降りる。さすがに立て続けに2回もここへ戻ってきたのがバレたら呆れられるだろう、いや怒られるかな、あの城ヶ崎さんって人すごい怒ってたし。以前ここから戻るとき部屋にあったカレンダーには「打ち上げ!!」と太いマッキーペンで書いてあったのを確認済みだから誰もいないとは思うんだけど、、、きっと今夜はみんな出町柳の中華料理店にでも行っているんだろうなあ。そう思ったのは「打ち上げ!!」の文字の下に赤字で「真夏の焼き飯!」さらにその上から「麦酒!麦酒!麦酒!」と書き足されていたからだ。焼き飯と麦酒がしばしば出会う地点はきっとあそこだろう。今でも美味しいんだよね、僕はあそこの天津飯好きだなあ、、あ!この炒飯って書いたのはきっと師匠だな。それに羽貫さんも行くならきっとだれも朝まで帰ってくるまい。なんせ羽貫さんのお酒にうっかり付き合うと地獄のエンドレスナイトへ引きずりこまれ、珈琲焼酎で半死半生にされるって、、おおっとこれは極秘情報だった。誰から聞いたかって?そんなの教えられるわけないよ。しかし僕もこんなところで油を売っているわけにはいかない。とっとと行かなくちゃ。
下鴨幽水荘をでて下鴨神社に向けて歩き始める。寮の近くって言ってたからすぐに見つかると思いあまり下調べもせずに来てしまった。一応お父さんに場所を聞いてはみたが下鴨神社界隈ということしか教えてくれなかった。出没場所を明らかにするとなにかと差し障ると言っていたが昔自分が通っていた今は亡きラーメン屋の場所を息子に教えることの一体何が差し障るのかちゃんちゃら謎である。1度だけ「いいか、空腹に耳を傾ければ猫ラーメンの風鈴の音が聞こえてくる」と答えてくれたが今考えると全然答えになっていない。僕のお父さんってそういうところあるんだよなあ。
〇
詳しい場所は知らないが猫ラーメンがどれだけ美味しいかは知っている。なぜなら「猫ラーメンは猫から出汁を取っている噂の屋台ラーメンでな、ことの真偽はともかくその味は無類なんだ。いいか、夜中にふと思い立って猫ラーメンを喰いに行ける世界、こういうのを極楽と言うんだ」と耳にたこができるほど聞かされてきた。それに師匠だって時々思い出したように猫ラーメンが食べたいと言っている。前に猫ラーメンを所望されたときだって、、寮にいる全員を巻き込みラーメン騒動と化したことある。味噌ラーメン、塩ラーメン、醤油ラーメン、豚骨ラーメン、鶏白湯ラーメン、それにつけ麺や油そば、坦々麺、中国人留学生が作った拉麺、その後はミーゴレン、ミークワ、ラクサ、フォー、パッタイ、クイティアオ、サイミン、クスクス、インディアッパ、フォデウワ、コシャリ、アーシュレシュテ、ユベチ、ありとあらゆる麺を用意してみたが師匠が満足することはなかった、が、ナイヤガラ瀑布が逆流するような迫力で麺をすすれる師匠も麺がグローバル化してきたところで「諸君、もうけっこうだ」とはち切れそうなお腹をさすりながら諦めてくれた。さすがにお腹いっぱいになったのだろう。でもラーメン騒動を起こすくらい猫ラーメンを欲していたには違いない。
お父さんもお母さんも自分たちの色恋沙汰については一切口を割らないしお父さんは「成熟した恋ほど語るに値しないものはない」の一点張りだけど、先に述べた通り猫ラーメンの話だけは僕に繰り返し聞かせた。きっとふたりの大事な思い出の場所なのだろう。大事な思い出がなにかって?うーん、例えば初デートとか?さすがに初デートでラーメン屋はないか、そんなのカッコ悪すぎる。男友達と出かけるんじゃないんだから。ここは学生らしく定番の五山送り火とかかな。あー、ちょっとくらい教えてくれたっていいのに。
そんなことを考えながらしばらく歩いた。すぐに見つかると思っていた猫ラーメンはなかなか見つからないもんだ。うーん。ふと鞄を見るとひとり暮らしを始めるときにお母さんから押しつけられたもちぐまがいない。慌てて鞄の中を覗いたがそれらしきものは入っていない。大変なことになった。僕がここで落とすとこの時代に2つのもつぐまが存在することになる。タイムトラベラーとしての責任とか言っちゃった手前必ず探し出さなければ。それに元の時代に戻った時にもちぐまを持っていなかったらお母さん悲しむだろうな。うわあ、どこで落としたんだろう。はあ、、仕方ない、今まで歩いてきた道を引き返そう。
注意深く探してみたがもちぐまはどこにも落ちていない。引き返した道にも落ちておらず途方に暮れていると黒猫が僕の足元を通り抜けていった。何の気なしに黒猫が歩いていったたほうに顔をあげると明かりが見える。なんだか良い匂いもしてきた。もしやと思い、少しずつ近づいてみる。白地の暖簾に黒猫が描かれ顔部分は白く抜かれているラーメン屋台。これは間違いなく猫から出汁をとっているという噂の猫ラーメン!猫ラーメンに出会えた嬉しさですっかり元気を取り戻しもちぐま探しを一時中断し腹ごなしをすることにした。僕ってそういうところあるんだよね。そういえばさっきの黒猫はどこに行ったのかと思い、あたりを見回したが猫の姿はどこにも見えなかった。よく見ると暖簾の猫とそっくりである。とにかく猫ラーメンを食べよう。今回やってきた最大の目的を果たさねば!
大きく深呼吸をしすこしドキドキしながら猫ラーメンの暖簾を潜った。
「あのう、すみません。ラーメン1つお願いします」そういってカウンターに腰かけた。店主は顔を上げ「あいよ」と一言返しラーメンを作り始めた。ずいぶん年季が入っている屋台だから綺麗ではないがそこがまた味があってかっこいい。うーん、お父さんも師匠も夜な夜なアパートを抜けてはここへきていたのか。待つこと数分、「お待ち」そう言って店主は僕の前に1杯のラーメンを出してくれた。チャーシューに白髪ねぎ、海苔ときくらげがトッピングされたシンプルなラーメン。ズズズツ、もぐもぐ、ズズッ。なるほど、これがみんなから愛された猫ラーメンか。
〇
「あ!!!」黙々とラーメンを食べていたが突然大声をあげて立ち上がった。「あの!あのクマのぬいぐるみはどこで?」質問してくる僕を店主は怪訝そうな顔で見つめていた。なんと僕が落としたもちぐまが店内につるされていたのだ。「さっき猫が拾ってきたんだ」間違い無くあれは僕がさっき落としたもちぐまである。僕のだと言って信じてくれるだろうか。なんと言えば、、、いやここは正直に「あのう、実はそのぬいぐるみ僕のなんです!落としちゃってさっきまでこの辺りを探してて」店主は「そうか」と言ってあっさりもちぐまを渡してくれた。一安心である。変に思われたかもしれないがなんにせよこれで落としたもちぐまは帰ってきてずっと憧れてた猫ラーメンも食べることができた。心配事もなくなったおかげでさっきより数段美味しく感じる猫ラーメンを一気に喰べ「ごちそうさまでした。それからこのぬいぐるみありがとうございました。」お礼を言いお店を出た。
〇
「ん?」元の時代に帰るため下鴨幽水荘にもどりタイムマシンの操縦席に座るとなにやら柔らかいものをお尻で踏みつぶした。確認しようと手に取るとよく知った感触で目で見ても自分の知っているものだった。知っているどころじゃない。これは僕が落としたとばかり思っていたもちぐまである。じゃあさっきのは、、と思い鞄の中を確認すると猫ラーメンでもらったもちぐまがいる。つまり僕の手元に2匹のもちぐまがいることになる。2匹を比較してみると猫ラーメンでもらったもちぐまの方がすこし綺麗でタイムマシンから出てきたものはかなり年季が入っている。もともと年季が入っているものだったが比較することによってよりわかる。どうしよう、これもしかしてこの時代のお母さんのものじゃ、、、今から違いましたって店主に返しに行くのも不自然だしなにより道中だれかにあってしまうとよくないだろう。かといって未来へ持ち帰るのもおかしい。うーん、、、あ!うん、そうしよう。僕は209号室の蛍光灯にそっともちぐまを吊るした。
「よし、これで本当にサヨナラ」うまくやれよという意味を込めギュッと片目をつぶってもちぐまにウインクをしタイムマシンのレバーを引いた。閃光そして旋風、タイムマシンは消え去った。
〇
とき同じくして出町柳の中華料理店では以下のような会話が行われていた。
「実はモチグマンを1匹なくしてしまって」
「心配するな、どうせ地球は丸いのだ。いつかまた会える。なんなら私が探してあげてもいい」