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鴨長明の歌の地で思うブランド米「ミネアサヒ」の特A~荒玉note

  この記事は2021年3月にnoteに提稿した記事です。マガジン「農政ジャーナル~長靴をはいた記者」にも収録されています。

 日本穀物検定協会が毎年発表しているお米の食味ランキングで、愛知県の山あいで育てられている「ミネアサヒ」が、最高評価の「特A」を獲得しました。以前、コラムで「新ブランド米『愛ひとつぶ』~愛知で倍増計画」(2021年2月17日)に書きましたが、愛知県はこれまで、特Aのない数少ない県でした。1971年から始まった食味ランキング50回目にして、ようやく念願がかないました。
 ミネアサヒは、愛知県農業総合試験場が1980年に育成した品種です。コシヒカリの系統と秋晴、銀藤の系統を掛け合わせ、寒暖差のある山あいの気候に適した品種です。県園芸農産課に聞くと、ミネアサヒは豊田市、新城市、岡崎市の標高300~500メートルの山あい約1500ヘクタールで栽培されていますが、県全体の作付面積では5%程度です。このことから幻の米と呼ばれているようです。
 JAあいち経済連によると、ミネアサヒの特徴は、つややかで美しい炊き上がりで、食味は、ほのかな甘みと独特の風味にあるそうです。
 思い出します。2016年9月にJA愛知東(新城市)管内を視察したとき、地元のJA関係者から幻の米のことを伺いました。新城市の旧作手村あたりは、標高500メートルを越える高原にありました。「愛知県内では、特Aに最も近いお米です」と聞きました。

 このとき、比較的平らな田園地帯で見たのが、「分水点」の標識でした。地上に降った雨が二つに別れる地点です。一般社団法人奥三河観光協会によると、平地に分水点があるのは日本でも珍しいとのことです。南流は豊川水系の巴川へ、北流は矢作川水系の巴川へ分かれていきます。
 どちらも「巴川」ということですが、近くに看板(平成8年)が立っていました。

新城市作手にある分水点の標識©aratamakimihide

 「昔、この地には作手村で一番広い湿原(大野原湿原)がありました。両川とも同名の巴川であることから、その昔、相思相愛の男女が親の許しをもらえず。泣き別れたとの悲哀の伝説が残っています」とありました。看板の最後には、方丈記を書いた鴨長明が、この地を詠んだと思われる歌が記されていました。
 「花すゝき おほのゝ原のみだれ橋 秋のこころに たとえてぞ行く」
 豊かな水をいただいて育つ、ミネアサヒのふるさとです。地元では悲恋の伝説とされていますが、豊川も矢作川も、渥美半島や西三河の沃野を潤しながら、最後には三河湾に注がれ、一緒になっていきます。
 ブランド米を購入するときには、産地に思いをはせてみるのもいいでしょう。ミネアサヒのふるさとには、水の恵みとのどかな田園風景が広がっています。収穫の秋には、鴨長明の歌と分水点の風景が思い出されそうです。(2021年3月9日)
 

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