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能登半島地震と中部経済界の動き~求められる現場力と人・地域の底力

 2024年は、元日に能登半島地震が起こる中で迎えました。被災地関係者の皆様にお見舞い申し上げます。
 日本農業新聞の元日号に、国内初の世界農業遺産に認定された石川県の「能登の里山里海」の特集が掲載されています。なかでも27年前から取り組む農家民宿群「春蘭の里」には、国内外から年間約1万2000人が訪れることを知りました。現在は被災地の珠洲市、輪島市、穴水町、能登町で60軒以上になっています。
 ■水とエネルギーの地産地消
 被災後の続報で知ったのは、能登町の農家民宿には井戸が備えてあり、小水力発電が働き、太陽光発電や蓄電池が活躍していることでした。水とエネルギーの地産地消ができているのです。都会も田舎も、井戸水や自前の電力の必要性を痛感させられた能登半島地震。防災減災の取り組みとして地域コミュニティの底力とともに広げていきたいものです。
 ■ジャーナリスト通信「信州と名古屋」
 ジャーナリスト通信「信州と名古屋」第9号は防災減災と地域強靭化に照準を合わせて年初の中部経済界の動きを報告いたします。(PDF紙面は最後に掲載しています)
 
4日に中部財界人新春サロン
地産地消エネルギーに関心
 
 CBCテレビ(名古屋市)が生中継する恒例の「第65回中部財界人新春サロン」が1月4日、名古屋観光ホテルで開かれました。被災者へのお見舞いの言葉の後、中部財界のリーダーのみなさんが今年の課題や抱負について語りました。
 防災の視点で参考になったのは、日本ガイシ(名古屋市)の小林茂社長の発言です。能登半島では電気の復旧が遅れていますが、同社は世界で初めてメガワット級の電力貯蔵ができるNAS(ナス)電池を実用化しています。
 岐阜県恵那市にソーラパネルとNAS電池を生かした地域新電力「恵那電力」を設立。2023年6月の発表では、恵那電力の災害時機能として避難所へ電力を供給することで「金額価値(便益)1.4億~5.5億(20年間)」と試算しています。 

写真右端が日本ガイシの小林社長(CBCテレビ提供)

 小林社長は「太陽光の恵みをNAS電池に貯めることでエネルギーの地産地消に取り組む」と意欲を示しました。
 実はNAS電池を北陸エリアに導入する矢先でした。ホテルロビーで小林社長に伺うと、「蓄電池だけでは限界もあるため、ソーラー発電とリンクさせた仕組みにしていきたい」と話していました。
 
中部経済4団体年頭記者会見
南海トラフ地震への備えは
 

(写真左から天野、大島、水野、嶋尾各氏、名古屋観光ホテルで©arataamakimihide)


 中部経済4団体のトップは1月10日、名古屋観光ホテルで年頭記者会見に臨みました。能登半島地震に関連して南海トラフ巨大地震への中部経済圏の「備え」について聞きました。
◆中部経済連合会の水野明久会長
 「中部圏の経済活動が止まってしまうと、国内ばかりでなく、世界経済まで影響が及ぶ。企業には改めて防災減災に向けた取り組みを自分ごととしてとらえて、耐震工事やBCP(事業継続計画)を今一度検討し、企業活動の早期回復を目指す準備をしていただきたい」 
 「インフラが非常に重要だ。道路、工業用水、河川・堤防、港湾の災害整備状況を定常的に把握して必要な措置について国や自治体に積極的に働きかけていくことが経済団体に求められている」

(2019年5月の中経連提言書)

◆愛知県経営者協会の大島卓会長
 「南海トラフに関して各会員企業がどのように災害への対応をやっていくのか、また平時に準備しておくべきことをもう一度確認していきたい」
◆名古屋商工会議所の嶋尾正会頭
 「地震翌日に起こった羽田空港の事故もそうだが、ことが起こったときの現場力が非常に重要だ。現場力をどうやって維持していくか、常に意識していく。個々の企業も公(国や自治体)も実はそこが一番大事なこと」
◆中部経済同友会の天野源之代表幹事
 「当会では2015年から企業の防災力向上委員会という啓発活動を継続している。南海トラフ地震に備えて、日頃から防災訓練やBCPの確定など危機管理意識をもって対策を講じることが不可欠」 
 「能登半島地震で、名古屋の震度は4だった。企業によっては震度5から安否確認をするところが多いが、震度4の地震でどんな対応をしていくのか、今一度見直す必要があると考えている」  賀詞交歓会4年ぶり正常化「未来拓く若者に期待する」  

中部経済4団体の新春賀詞交歓会であいさつする中経連の水野会長©aratamakimihide

 記者会見後の新春賀詞交換会は、4年ぶりに制限なしで開催されました。能登半島地震の犠牲者に配慮して会場前に金屏風は立てませんでしたが、経営者ら600人が参加する盛会でした。
 幹事団体の中部経済連合会の水野明久会長は、冒頭あいさつの締めくくりに「未来を拓くのはやはり若者だと思います」とエールを送りました。メジャーリーグの大谷翔平選手やJリーグ30年を支えてきた欧州トップリーグで戦える人材がいるからです。
 「実業界も若者がどんどん国内外で挑戦できる環境を作っていく責任が我々にある。より良い日本を築くため、若者がどんどん育ってもらいたいと思っています」と訴えたのが印象的でした。

中部経済4団体賀詞交歓会であいさつする来賓の大村愛知県知事©aratamakimihide

 ■大村知事が震災支援の報告
 まず中部が支え大部隊を待つ
 愛知県の大村秀章知事は、賀詞交歓会の来賓あいさつで、能登半島地震への愛知県の救援状況(10日現在)を報告しました。
 「愛知県は直ちに緊急消防援助隊などを招集・編成して、元旦夜9時には第一隊が出発。今日(10日)までに延べ第4次1300人を送ています。災害派遣医療チームDMATは49チーム送らせていただきました。ドクターヘリも1月2日と5日に飛んでいます。行政の職員も建築の危険判定から下水管復旧に出ており、保健師、薬剤師などあらゆる職種の皆さんに行っていただいております。現段階で県市全体で1000人を超え、県別では最大の支援体制を敷いております。何といっても中部圏の仲間ですから、まず中部の我々が全力で支え、あわせて東京はじめ関東の大部隊が後にやって来るまで、しっかりと支援をしていきたいと思っております」 

 ■寺村中部経産局長現地入り
 2月1日に復興推進室設置へ
 中部経済産業局は東海3県と石川と富山両県を所管しています。経産局で1月18日、寺村英信局長の定例記者会見がありました。
 寺村局長は元日は東京にいましたが、能登半島地震の発災を受けて新幹線で名古屋に戻り、午後5時にオンラインで対策本部を設置し、職員の安否と被災地の情報収集を開始しました。2日から石川県庁と北陸電力へ富山支所から職員を派遣。局長は3日に金沢に入り、知事、副知事に会って、必要な支援について打ち合わせをしています。7日の日曜日には富山県氷見市などで被害を視察し、市長と意見交換をしました。 
 ■産業への影響を注視
 サプライチェーンについて、自動車関連は1月8日からほぼ稼動。ただ、1~2か月では復旧が難しいという企業もあり、生産の停止が長引くと調達先の変更などの影響も懸念されます。半導体はサプライチェーンの被害がないものの、水道が止まっていて創業再開ができないところも。インフラの復旧が喫緊の課題で、2月1日に中部経産局内に復興推進室を立ち上げるといいます。 

天野代表幹事㊧と内定した永井氏©aratamakimihide

 ■中部経産同友会新代表幹事
  新東工業の永井淳社長内定  
 中部経済同友会は1月18日、幹事会を開き、3人の代表幹事の1人に新東工業の永井淳社長を内定したと発表しました。4月22日開催の定時総会の決議を経て正式就任します。 3年間の任期を終える天野源之代表幹事は「15の国と地域に拠点持ち、海外展開をしている企業。人柄は明るく、どんな方とも打ち解けて話ができる人」と説明しました。
 ■サプライチェーンにも着目 永井氏は現在、同友会で「安全保障から経営を考える委員会」の委員長として報告書を取りまとめ中です。サイバーセキュリティとサプライチェーンに絞って、主に中堅企業に向けメッセージを発信したいと抱負を述べています。
 私からは能登半島地震に関連して同友会内の「企業の防災力向上委員会」との連携について質問しました。永井氏は「サプライチェーンをどうするかということは大事ですが、災害復興には順番があって、社員、それから地域の方、それから事業という順番を間違えないことが大事。そのうえで、機会があれば企業の防災力向上委員との連携も考えていきたい」と答えています。
 経済安保のベースには、災害からの復興力も含めた「人」と「地域」の底力が欠かせません。
(2024年1月24日)

PDFマガジン「信州と名古屋」⑨
PDFマガジン「信州と名古屋」⑨続

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