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すあまはコールド

いつから素甘を好んで食べるようになっただろうか、おそらく今でもわざわざすあまが食べたくて和菓子屋に行くことはないし、すあまを求めてスーパーの和菓子コーナーをうろうろすることもない、けど唐突に、その姿をみて、あ、すあま食べよう、と思うようになった。

今日は胃袋が重い日だ、それは馬鹿みたいに遅く寝てアホらしいくらい遅くに起きたせいで体の調子がおかしいのと、数日前まで卒論の苛立ちから暴食を続けていたのとが合わさったせいだと思う、しかも携帯は圏外病(圏外のまま使えなくなることらしい)でわざわざ携帯ショップに行かなくてはならない、面倒臭いが読みかけのエッセイと財布だけ鞄に入れて家を出る。

読んでいたのは江國香織さんのやわらかなレタスで、この人は、ほんの少し気取っているけど、心にたっぷり栄養のある親しげな庶民という感じがして、卒論の合間に息をつくにはとてもよかった。丁度読んだ部分がコールドミートについてで、しっとりしたパンとつめたい牛タンと出た瞬間、ああそれだ!と思った、なんというか胃袋を騒がせたくないのだ、だけどお腹が減ってないわけではなくて、たぶん出されたら割となんでも食べられるのだけど、でも時間が経つと後悔する、そんな自分はコールドミートが食べたかったんだ、熱々のケンタッキーのチキンがチラつくくせに納得いかなかったのは、冷えた味付きの鶏肉が食べたかったからだ、

そうと決まればスーパーに急ぐ、携帯はicチップの不具合で、タダで直してもらえた、通りがかりに中華やら唐揚げ屋やらミスドやらを見かけて一瞬立ち止まりそうになるけど頭で胃袋を説得する、ここじゃあないぞ私を信じろ。

スーパーについて、思い描いていたのは色の黒いパンと薄いチーズ、出来れば生ハムも欲しいけど少し贅沢かな、でもパンに向かって進む途中で目の端についたお値引きの素甘、アッと声が出そうになる、そうか、すあまだ、今度は胃袋が脳を説得にかかる、すあまだよ、冷たくて甘くて落ち着いていてそのまんま、でもエネルギーになる、きっとこれだ、コールドミート。

結局素甘を買った、2割引で67円、値段まで冷え切ったお財布に優しい、はしたないと思いつつも店を出てすぐに開けてたべた、くうっと歯が入る、かみ切る、もちもちと口の中が満ちていく、甘い、確かに甘い、けど誰も驚かない甘さだ、胃袋まで誰にも道を譲られず、そのままゆっくりと流れに沿って進む、そういえばこのカマボコみたいな見た目は誰が決めたんだろう、地味可愛いよなぁ。

一個食べると不思議な充足感がある、このまま何かあったかいご飯にも向かえるし、梅昆布茶でも飲んで〆る気にもなれる、コールドミートとは食への準備で、食の後片付けなんだろうな、こう思うとおせちって典型的なコールドミートなんじゃないだろうか、すあまの兄弟カマボコも入ってるし。なんだか急にお正月が楽しみになってきた、スーパーにならぶ正月食材を見たせいかもしれない、実家に帰ったら並んでいるだろう冬のつめたいごはんたちを思い浮かべて、食べ終わったすあまの包みを掌で丸めた。

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