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サード・キッチン

多分タイトルに惹かれて。
サードプレイス的な、そういう空間の話なのかと思ったら小説だった。
小説を読むのは久しぶりだったんじゃないかな。

はじめ、手に取るようにわかる留学生の窮屈さ、焦り。

思い描かれ、みんなに応援されたようなキラキラの毎日なんかじゃなくて、
自分がちっぽけに思え、縮こまって、卑屈になりながらもなんとか生きる日々で。
そんな中での人との関わりが、たとえそれが小さくても本当に暖かくて、涙が出るくらい嬉しくて。

留学時代をたくさん思い出しながら、
私だけじゃなかったんだ、と受け止めてくれるような、そんな話で。

でもどう展開するのだろうと思っていたら。
意外にもDiversity & Inclusionみたいな、差別とは、みんな違ってみんな良い、受け止めようぜ、みたいな話に繋がっていき。

私が留学先で感じたのも、「結局人は自分と違うものは怖い。
その、怖いという感情が無くならない限り、多様な人々が打ち解けあって混じり合っているような街にはならない」ということだった。

だけど私の思考はそこで止まってしまっていた。

この本で、この主人公の教授は、「それでも考え続けること」と言った。

この主人公の友達も、「学べる環境があるのに知ろうとしない人と、友達になろうとは思わない」と。

一応文化人類学的なものをかじった身として、
答えのない問題に対して考え続けるとか、自分とは違う文化に完全に身を置くとか、そういう姿勢を思い出させてくれるお話だった。

白尾悠(2020)『サード・キッチン』河出書房新社。

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