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極貧詩 172           形のないお墓

中3受験学年の夏
8月13日お盆の先祖迎え
父、母、俺、弟でお墓参り

先祖の墓は「ただの石」
草に埋もれて見えない
立派な墓石が並ぶ一番奥

草を刈ると積み重なった平石
その上に大きめの石が並ぶ
ここでも見える貧困の象徴

線香に火をつけ、横に並べる
父と母を真似て両手を合わせる
母に先祖のことを聞く

「ここがうちのお墓なんかい?」
「そうだよ、じいちゃん、ばあちゃんが入ってるよ
 それとその前の人たちもな」
「母ちゃん、じいちゃん知ってるんかい?」
「母ちゃんがここへきてすぐ死んじゃったよ」
「静かな人だったことを覚えてるよ」
「ばあちゃんは意地悪だったよね」
「ずいぶん悪口言われたけどね」
「俺もばあちゃんが死ぬまで家のばあちゃんって知らなかったよ」
「でも死んじゃえばみんな仏様だからな」
「お墓、ずっとこれでいいんかい?」
「いつかちゃんとしたの作んなきゃね」
「これじゃ先祖が浮かばれないよな」
「いつか絶対作んなきゃあダメだよな」

父は無言で「火を持ち帰る」作業
父の顔ににじむ無念の表情
虚空を見つめてジッと動かない

父がこの家に生まれたのは運命
生まれてきたのは貧困にあえぐ小作農
長男として家に残る運命も受け入れる

兄と姉が家を出て働きに出る
大学の2部と定時制高校でも学ぶ
思いもつかなかった母の定職決定

言葉少なに家に戻る
簡易仏壇をお盆用にしつらえる

仏壇の前で父が手を合わせる
心なしか両目が少し濡れている

母、俺、弟、父の様子に感じるものあり
今年のお盆が何かの転機になればと願う



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