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【技術読み物】細か過ぎる彫金図案に潜む罠

指環の彫金加工を請けていると、ときに「やたらと細か過ぎる図案」を提示されることがあります。
「これは線が細く浅くなるので、使っているとすぐに消えてしまいますよ」というのですが、「それであれば細く『深く』彫ってください」と返されることが多く、そこで「それはダメです」とストップを掛けます。

何故「細く深い線」がダメなのか?
明確な理由があります。

「細く深い線」は輝かない

細く深い線を図で示すとこの様になりますが、仮にこのV字の様に「鏡」が置いてあったら、それは輝くと思いますか?
そうです。深すぎる線はどれだけピカピカの鏡面であっても、光が反射しないのです。

口が閉じてくる

指環の使用と共に何かにぶつけたりすると、表面に傷が付いたり凹んだりします。彫りが深ければそれが浅くなることこそありませんが、上図の様に次第に口が閉じてきてしまい、彫模様はどんどん見え難くなります。

この様に、細か過ぎる彫金図案は、納品後の長期的な品質を維持できないのです。
彫金は基本的にグラフィックですから、色々な図案を描くことができますけれども、「彫金に向いている」のと「彫金に向いていない」図案があり、効果的な仕上がりを求めるのであれば、こういったことを理解した上で図案を作る必要があります。

※この向き不向きは、和彫りか洋彫りかによる違いもあり、僕は自分の仕事上和彫りに限定した話ではあります。
和彫りに向いているのは、イメージとしては筆で描く水墨画の様な図案で、ペンで描く細密画ではありません。

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