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一票の格差と「合区」を考える。【あらい淳志】

石川1区(金沢市)のあらい淳志です。今日もお疲れ様です。

今年7月の参院選に関して、ここ最近、日本各地で、一票の格差に関する高裁判決が出てきています。

「違憲状態」との判断も示されていますが、最終的な判決はこれから出てくるとしても、この「一票の格差」の問題は、長い間、抜本的な解決ができていないのが現状です。

いずれにせよ、なんらかの対応は必要なわけで、この課題を避けて通ることは、与野党ともにできません。

憲法審で議論

自民、合区解消優先を 立民は改憲不要を主張 参院憲法審: 日本経済新聞 (nikkei.com)

↑ 今日は参議院の憲法審で、この問題が議論されたそうです。

合区の解消は、私も必要だと考えています。

「都道府県」という行政区分は、多くの国民にとってなじみの深いものですし、これを合わせて一つの選挙区にすることは、そうした地方のあり方や民意を軽視することにもなりかねません。

やはり、各都道府県を一つの選挙区として、その地域から自分たちの代表を選ぶのだという感覚は、国民の政治に対する当事者意識にも関わってきます。

ちなみにですが、私が暮らす石川県は、お隣の福井県とともに、次なる合区の対象地域だと言われているわけで、もちろん他人事ではありません。

さはさりとて、地域によって、1票の重みに違いが出てしまってもいけません。
判例でも示されている通り、それは憲法の要請でもあります。

1票の価値は、全ての国民に、等しく与えられなければいけません。

改革の方向性

では、このジレンマはどうすれば解消できるのでしょうか。

参院憲法審での議論は、すなわち、こういう趣旨のことだと思います。

自民「憲法上に、参議院を『地方の代表』機関と定める。それによって、各地方の民意が一票の価値に優先されることになる。」

立民「憲法を変えずとも、そうした対応は可能ではないか。地方問題に特化して議論する機能を、法改正で参議院に与えればよい。」

ここでの議論のポイントは、2つあります。
①両党ともに、参議院に「地方の民意」を代表する役割を与えることは共通している。「1票の価値の平等性」よりも、「地方の民意」を優先する。

②その方法として、憲法改正が必要か、法改正で対応できるかという点で、意見が異なる。

したがって、両党とも、参議院を「地方の代表」とすることは共通をしているわけです。

参議院の役割とは?

ここで重要なことは、法的に、「地方の民意」が「1票の価値の平等性」に優先することを認めるとして、その論理的な妥当性は一体どこにあるのだろうか、ということです。

「政治的な公正さ」、と言ってもいいでしょう。

なぜ、「1票の価値」の格差ができたとしても、「地方の民意」を優先することが許されるのか。

この論理に説得性をもたせるためには、「参議院の役割」そのものを見直さなければいけません。

衆議院と参議院

日本の国会は、二院制です。衆議院と参議院があります。

それぞれ定数や選挙制度などが異なります。

では、両院の間に、役割の違いはあるでしょうか?

よく、参議院は「良識の府」だと言われることがあります。
反対に、「衆議院のカーボンコピー」と呼ばれ、不要論が叫ばれることもあります。

実際はどうなのか。

色々な学説や見方はあるわけですが、私の理解では、憲法上における両者の役割に、大きな違いはありません。

「一票の価値の平等」を前提に、どちらも「国権の最高機関」としての機能が与えられています。

もちろん、皆さんもよくご存じのように、一定の事柄については「衆議院の優越」があるわけで、衆議院の方が「より強く民意を反映している」と考えるのが自然です。

ですが、一定の条件下では、「参議院」が「衆議院」の動きを止めるだけの力を持つことがあります。

衆参で多数派を占める勢力が異なる「ねじれ国会」と呼ばれる状況は、その最たるものです。

衆議院の多数派が3分の2を超えていなければ、参議院が法案を否決した際には、これを再可決することができず、法案審議は立ちどころにストップしてしまいます。

また、参議院の「問責決議」も、「不信任決議」とは異なり法的な拘束力はありませんが、審議日程に影響を与えたり、あるいは民意に訴えかけたりする力は持っています。

参議院というのは、こうした衆議院の動きを止めるだけの「拒否力」を持っているのです。

その強さの源泉こそ、「1票の価値の平等」に求められるわけです。
衆議院と同じように、「1票の価値」が平等だからこそ、衆議院に比しうる力が与えられています。

政治の停滞

こうした「参議院の拒否力」は、色々な評価があるのでしょうが、「衆議院の民意」に対する阻害要因にもなるわけです。

平成の政治改革を経て、「政治主導」「政権交代可能な政治」が目指されたわけですが、参議院の存在は、こうした改革からは取り残された存在でもあります。

時代が大きく変化する中で、政治主導による大胆な社会変革が求められるのに、参議院がそうした改革の足かせになっている部分はないだろうか。

衆議院の信任に基づく「首相のリーダーシップ」が求められるのに、首相の選任に関わらない参議院がそのリーダーシップを止める力をもつ。

制度の目的としては、矛盾をしています。

民意に基づく大胆なリーダーシップを実現するためには、参議院の役割の見直しを欠かすことはできないのかもしれません。

「地方の代表」としての参議院

ここで、さきほどの、「地方の代表」としての「参議院」という見方が出てきます。

衆議院が「国権の最高機関」だとすれば、参議院の方は「地方の代表機関」として位置付けるわけです。

ここまで単純ではないのかもしれませんが、参議院の役割を、衆議院とは異なる形でこのように位置づけることができれば、「1票の格差」の問題はクリアできます。

また、「参議院の拒否力」を弱める理由にもなります。衆議院と比べて、1票の価値に違いがあるのだから、衆議院と同等の拒否力があってはいけないのです。

もちろん、「地方の代表」としての機能を与えるといっても、実際にはそう簡単なことではありません。

衆議院との関係で、参議院は「拒否力」以外に、いかなる役割を果たすべきか。

仮に参議院の強みである「拒否力」が奪われてしまったら、それこそ参議院の存在価値はなくなってしまうのではないか。

そうではないはずです。

「拒否力」よりも「法案審議能力」を

参議院は「良識の府」だと言われてきました。

衆議院に対して、参議院は議員の任期も長く、衆議院とは異なる形で民意を代表してきました。

全国比例では、業界別の代表者も専門家として集まっています。

生かすとすれば、この部分です。

各地方や業界の民意を表出し、熟議を通じて、衆議院とは異なる形で、深い政策論議を行っていく。

衆議院が国民に争点を示す場として、ときにポピュリズム的な議論に陥ったとしても、参議院はそれらと一線を画し、党派的な立場を超えて、政策的なアイデアを出し合う場として、存在感を発揮することができるはずです。

あるいは、政治的な不正や疑惑が生まれた際に、これもまさに「国会の良識」として、党派的な立場をこえて、真実を明らかにする「調査機能」を持つことで、衆議院とは異なる存在価値が生まれます。

法案審議を止める「拒否力」ではなく、衆議院とは異なる形で、政策論議を深める「審議・調査能力」を、参議院の役割に据えるというのが一つの考え方です。

まとめ

参議院の役割を見直し、衆議院を補う形で、「地方の代表」「法案審議を深めていく」。
これが、目指すべき一つの方向性なのではないでしょうか。

今回の憲法審では、こうした参議院の役割について、「地方の代表」という側面はクローズアップされても、その地方の代表が何をするのかという観点には踏み込んでいません。

この部分は、ようするに、日本の国会とは何なのか、日本の民主主義とはなんのなかに関わる、重大な問題です。

ぜひ、国会では、この部分の議論を深めていただきたいと思います。

こうした部分をおざなりにして、「憲法をいじれば全部解決だ」だという考え方には、組することはできません。

まだまだ、議論は始まったばかりです。

日本の政治をトータルにデザインする、実のある議論が展開されることを期待しています。そこに、与野党の別はありません。

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