思いを繋ぐ
去る7/12にVol.1として行われた「Goodbye IDOL, Hello IDOL」。15年のキャリアで来年4月に解散が決まっているまなみのりさが「Goodbye」側、そして第1回の「Hello」側には、デビュー3か月目のキャリアにもかかわらずTikTokで持ち歌がバズって単独ライブがソールドアウトするなど話題のFRUITS ZIPPERをゲストに迎えて行われた。
カワイイを前面に出しているデビュー3か月目のアイドルと、かたやデビュー15年を迎えるベテランアイドル。最初は一見すると交わるところもなく水と油みたいな組み合わせだと思ってたけど、意外と面白い対バンだった。
そもそもこのイベントに先立って、FRUITS ZIPPERメンバーの櫻井優衣ちゃんとりっちゃんが対談をしていた記事が公開されたんだけど、これを読んで当初の感想を思い改めて意外と面白くなるんじゃないか、という期待はあったのだよな。
対談相手の櫻井優衣ちゃんは若干22歳にしてアイドル歴は9年目。調べてみるとFRUITS ZIPPERが5組目の所属グループで、ソロ活動を行っていた時期もあるという、実は「苦労人」でもある。そして最初に所属していたグループが「ピンク・ベイビーズ」。
ピンク・レディーの楽曲をカヴァーするアイドルとして、ピンク・レディーの作曲家である都倉俊一プロデュースとして生まれたこのグループ。実は今を遡ること7年前、まなみのりさが「アイドルお宝くじ」で戦った相手でもある。さらにいうとFLUITS ZIPPERのプロデューサである木村ミサさんも元「むすびズム」のリーダーで、これまたむずびズム時代にまみりと「アイドルお宝くじ」で対戦した相手でもある。
「アイドルお宝くじ」での活躍は、活動拠点を東京に移して初めてのまみりの成果とも言える。この番組を通じてたくさんのアイドルとの交流ができ、「お宝くじきっかけ」で戦った「戦友」たちとそれこそ2マンライブや対バンライブを沢山実施してきた。当時のピンク・ベイビーズやむすびズムとは当時はそういう機会がなかった訳だけど、7年の時を経て、形は違えどこうやってまた「戦友」たちと巡り合うご縁があってステージを一緒に作る、というのはエモいよね。
実際「アイドルお宝くじ」の収録に行った身としては、実は「ピンク・ベイビーズ」はパフォーマンス力にも一目置いていたグループでもあったんだよね。当日披露したのはこれもピンク・レディーの名曲である「ウォンテッド(指名手配)」。単なるカヴァーアイドルと予備知識なしに観てみたらキレッキレのダンスで驚かされたのを鮮明に覚えている。しかもメンバー全員中学生くらいじゃなかったっけ?優衣ちゃんも当時14~5歳くらいのはずだ。
さらに対談でもこのようなことを語っていたので、パフォーマンスには期待していたのだが、実際にライブを観てみるとダンスもガッツリ踊っている印象。TikTokでバズった「わたしの一番かわいいところ」が代表曲のように扱われているが、披露した曲の中には割と「ダンスヴォーカルグループ」と言われるようなアイドルがやりそうなダンスパフォーマンスもあったりして、予想以上にパフォーマンスがしっかりしている。
それもそのはずで、調べてみると7人中4人がアイドル経験者。さらに「かわいい」を前面に出しているのでもっと年齢も若いのかと思ったが、生年を公表しているメンバーのうち十代は1名のみであとは20代。今回、ライブ中にマイクの音が出ないというトラブルもありながら、(おそらく経験者メンバーが、だと思うのだが)うまい具合にマイクリレーを行っていた。この辺のこなし方もとても結成3か月弱のグループとは思えなかった。
そんな相手に敬意を表して、ということかはわからないけど、まみりのセトリも相手に寄せることなく、「今のまみり」のど真ん中。いきなり「風蝉の灯」でアカペラを響かせ、これぞ「三声のハモリ」を武器にしたベテランの技、というところを見せつけた。まみりの楽曲の幅からすれば、「waveびーと」「bye byeバイナリ」のような上げ曲を持ってきたり、あるいは「Twinkling Love」のようなカワイイ系の曲を持ってきて「相手に寄せる」ことだってできたはずだが、そうはしなかった。
だからこそ、逆に良い化学反応が出たのではないか、と思う。「bye byeバイナリ」「Twinkling Love」は実は縦の動きのダンスで、年齢的にだんだんキツくなってきたと吐露していたまみり。その部分をすべてFLUITS ZIPPERが引き受けるかのようになって、お互いがお互いを補完する形で、イベント全体としてパフォーマンスの幅を楽しめた。最初は懐疑的だったけど、結果的に正反対のグループだからこその「第1回」に相応しい化学反応があったんじゃないか、と思う。
それにしても「Goodbye IDOL, Hello IDOL」というタイトルはなかなかにキツイ。Goodbye側のファンとしては、傷口に塩を塗り込まれるような辛辣さがある(笑)。ここはりっちゃんも思うところがあったようで、対談でもこのように語っている。「ファンがどう感じるだろう」っていうところを慮るところがりっちゃんらしい、とも言えるよね。
自分たちがいた「アイドル界」という居場所が、自分たちが居なくなったとしても盛り上がっていて欲しい、そこにいる人たちがキラキラしていて欲しい、という思いなんだろうな、と思う。それが「思いを繋ぐ」ということなんだ。
これってスゴいことだよね。自分なんか学生時代に新聞配達(新聞奨学生)をしてたけど、生活のために仕方なくだったし、留年して5年間も続けたけどべつにその環境が良くなってほしいとか思わないし、今、新聞すら購読してないからね(笑)。
そんな自分のことはどうでもいいんだ(笑)。やっぱりまみりにとってアイドルという経験は大変なことも嫌なこともあった15年だと思うけど、それでもそこに居るアイドルたちにはキラキラ輝いていて欲しい、という願いなんだと思う。
この日のMCで、みのちゃんが「いくつものアイドルが解散したり、辞めていくのを見送ってきました」というのに続けて「同じように、いくつもの新しいグループが生まれるのも見てきました」と語っていた。これまでは解散したり辞めていく仲間を見送って、その思いも背負って15年間活動してきた3人が、今度は「バトンを渡す」側になる、ということだ。
バトンを渡すというのはまみりにとっては初めての体験だ。先の話で言えば、優衣ちゃんはグループを去ることも、母体であったグループが消滅することもすでに何回も経験している。
ちょうどこの週にはもうひとつ対バンがあって、まちだガールズ・クワイア主催ライブにMAPAとまなみのりさが出演した訳だが、まちだガールズ・クワイアも母体であったミラクルマーチ、リトルパレードは今はもうない。MAPAは初代BiS→Maison book girlを経験している古正寺恵巳サンが作ったグループ。ともにグループの終焉を経験している。まみりの3人はそういうことは15年間アイドルを続けてきて初めての体験な訳だ。
だからこそ、「まなみのりさを終わらせる」ということは一大プロジェクトであり、それこそ1年かけて終わらせるのは(もちろん彼女たちの優しさもあるとは思うけど)不器用な3人がきちんと終わらせるために必要な時間なのかもな、とも思う。
ちょうど共演したMAPAの曲に「アイドルを辞める日」という曲がある。実にタイムリーだが、この対バンでも披露されていた。
今回主催に呼んでくれたまちだガールズ・クワイアのメンバーは、それこそまみりをアイドルの先輩として慕ってくれて、ワンマンライブも観に来てくれたりする。そういった後輩たちにも、自分たちの背中を、生き様を見せていくために1年かける、というのが、思いを繋ぐバトンを渡す、ということなんだろうな。