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江之浦測候所 ~アートと自然の融合~

第一に

冬至光遥拝隧道

単純にすごい場所だった。
ヤバかった。今までで一番好き。
全て見終わった後、すごいものを見たと直感した。
この後に書かれる小難しい話を抜きにしても、圧倒的な場所だと思う。

自分が受け取った杉本博司の考えがあまりに膨大だったので、記録のためにも文章でまとめておくことにします。
初めて書くのでお手柔らかに。

【概要】

 ①江之浦測候所とはどんな場所か

入口の石銘板と明月門

とても一言では説明しきれない。美術館でもあるし、ギャラリーでもあるし、俗世から離れた自然でもあるし、庭園でもあるし、公園でもある。お弁当食べれるし。

まず測候所って何?ってなった。
調べると、

気象の観測を行い、天気予報・暴風警報などを発したり、また地震や火山(噴火)などの観測を行う場所

Wikipedia

とWikiにあった。
訪れる前は、なんでアート系の場所にこんな名前つけてんだ?と理解できなかった(観終わって完全に納得したが)。

 ②アクセス

敷地内の森

『小田原文化財団 江之浦測候所』
神奈川県小田原市江之浦362番地1

かつて蜜柑畑だった小田原市江之浦の地に、現代美術作家・杉本博司が設計した壮大なランドスケープ。美術品鑑賞の為のギャラリー棟、石舞台、光学硝子舞台、茶室、庭園、門、待合棟などから構成される。

小田原文化財団 HP


最寄駅の根府川駅から無料シャトルバスで10分ほど。午前と午後それぞれ3回しかバスはない。

チケットは事前の予約が必須。当日券を朝9時に電話で確認したら空いているとのことで予約できた。

入場料は1人3300円。相場よりかなり高いと思う。お昼を食べられるところもないです。

以上のように、利便性については他の美術館と比べるとだいぶ劣る。ただ、これに関しても意図があったので後述します。

 ③設立者

設立者は杉本博司。

現代美術作家、建築家、演出家とか色々やっていて、美術とか化石とかの収集家でもある人。この人と建築家の榊田倫之が主宰する「新素材研究所」が、江之浦測候所の設計を担っている。

本人の幼少の記憶を元に、小田原の地にアートスペースを10年かけ構想、その後10年の工事を経て、2017年にオープンしたと聞きました。

【一貫したテーマ、感じたこと】

 ①「美しさ」とは

竹林エリア

何がアートなのか?
自然のものは美しいけどアートじゃないのか?
この辺を考えるきっかけになった。

杉山博司はアートか否かは置いておき、まず美を発見しているのではと自分には映った。その後、自然の美しさをアートというツールを通して表現して、作品を作り出しているのかなと。

今までは、アート的な美しさと自然の美しさを違うジャンルだと考えてた。今回で両者は地続きなものであるという考え方に変わった。違いは裏に文脈やテーマがあるかないかだけ。
自然の物体に文脈はない。ただ綺麗で、そこにある物。アートは裏に文脈があって、なんでこれを作ったか的なことが読み取れる。こんな理解をしました。

 ②宇宙と時間について

円形石舞台

時間を意識している作品が多い。時間=天体の動き(これも宇宙に関係してる)だから、宇宙への関心も作品から読み取れる。

太陽の動きを考慮した作品、設計がいっぱい。トンネルやギャラリーが、太陽の上る位置を考慮した設計になっているのが最たる例。これらは時間について考えるきっかけを与える効果があると思う。

場所の名前が江之浦測候所なのは、天体、気候などを観測することで、時間を意識してもらいたいからなのかなと受け取りました。
でも、時計は1個もなかった気がする(数字の時計はなく、日時計のみあった)。

杉本博司の宇宙への憧れもすごく感じた。
作品を見た時はわからなかったが、後にインタビューを見て、本人が想像しているイメージが合致した。数理模型の彫刻は、鑑賞者が視点を宇宙に向けさせるための作品なのかなと。
感じた理由は後述します。

 ③素材そのものの美

工学硝子舞台と金属製のトンネル

園内の作成物は、木、石、鉄、ガラスなど新旧問わず、様々な種類を意図的に使っていた。

メインの素材は石。遺跡として最も残るものを採用してる。この美術館が遠い先に遺跡になってるとき、他の素材は朽ち石のみが残る。変な形の石たちが残って掘り起こされた時、なんだこれってなるところまで想像して設計してた。時間の経過という意味では、「②時間について」にも絡んでくる。

木製のロッカーだったり、伝統的な木組みを採用した作品だったり、樹齢1000年の木を使ったテーブルだったり、茶室だったり。木という素材ももちろん多く活用されていた。

藤棚は、工事現場の単管を組んで作成されていた。急に手抜き感あるなって思ったけど、普通は竹とか木で作られるはず(近くに竹林あるし)。敢えて工事の時の素材をそのまま使う意図があったと思う。

茶室「雨聴天」

日本文化の茶室の前に置いてある石段は、光学ガラスで作られている。屋根は錆びたトタン(みかん畑の道具小屋残骸を再利用)で作られていて、雨の時は雨音が響く。
だから茶室の名前は"雨聴天"。おしゃれ。

工事現場の骨組みで作られた藤棚。
茶室に光学ガラスと錆びたトタン。
石垣と一面ガラス張りで左右を覆われたギャラリー。
伝統的な木組みの上に敷き詰められるガラスの舞台。
ガラスの社で祀られた縄文時代の石棒。
竹林に急に現れる金属素材の彫刻。

ここまで素材そのものに意識させられる理由は、違和感を感じさせる素材の組み合わせがいっぱいあったからだと思う。作品を観て、気付いたら素材そのものについて意識させられてた。

伝統的な石と木のみを使った展覧だったら、古い美術だけの懐古趣味的な展示に思えたかも。ガラスや金属などの現代の素材が、伝統的な素材と同等に扱われていることで、現代からの視点も含まれる展示なんだと感じ、めちゃ興味を惹かれた。(現代を見捨ててない感)。

逆にデジタルに関するものはほぼなかった。実態のないものへの関心はあんまりないのかなと。

 ④全体の統一感、雰囲気

光学硝子舞台と古代ローマ円形劇場写し観客席

杉本氏の収集物や作品が集まる江之浦測候所だが、それぞれの年代や生まれの場所はバラバラ
古代ローマをテーマにした、円形観覧席の周りには枯山水や木組み、現代アートのオブジェがあった。
でも、全体のまとまってる感は過去一だった。「素材」というテーマで統一されてるから?

看板の少なさも統一性に一役買ってると思う。
地図を見ないと道はわからない。順路はもちろんなし。立ち入り禁止は看板ではなく、止め石(丸い石に紐をくくりつけたもの)。止め石の存在は知らなかったけど、なんとなくここは立ち入っちゃダメな雰囲気を感じたのが不思議。舞台とか枯山水とか止め石すらない場所もあったが、みんな立ち入っていなかった。荘厳な雰囲気をそれぞれが感じてルールが統一されていたのかなと。
標識さえも作品と捉えて行われた全体のデザインだと思う。

入場できる人数を敢えて少なくしているのも、この統一感のため。この雰囲気は混雑した場所では作れない。アクセスを必要以上に改善していなかったのは、人が増えすぎないようにするためだと思った。2〜3時間で鑑賞者が退場するようにデザインされていて、人でごった返さないよう、配慮していた。

 ⑤現代の感覚の反映

トイレ。中は最新式

現代に通ずる、バリアフリーの視点をすごく感じた。

枯山水の庭園に、車椅子用スロープを石畳で作成していたり、最新式のトイレを採用したり。
個人による体力差を考慮したベンチの数の多さ。英語の対応。
自動販売機を複数箇所に設置(ただし景観を損ねないよう工夫)。
消火栓の設置の仕方の工夫(ぱっと見では見えないが、光れば場所がすぐわかる)。

普段考えているわけでもないのに、こんなにも視界に入ってきたのは、こだわりがすごいからかなと。

 ⑥季節、天気の変化

夏景色と甘橘山 春日社

「②時間について」とも通じる内容だが、時間の経過による環境の変化も楽しめると思う。
春には桜や菜の花が咲くし、秋には紅葉が見れる。
季節によって陽が昇る方向が変わるところまで考慮された建築の設計など、他の季節にも見に行きたくなるこだわりが多くあった。

杉本博司は、雨の日がおすすめだと言っていたが、その通りだと感じた。
自分の時は曇り/晴れだったが、雨による効果はめちゃあると思う。雨の日に観に行きたい展示は初めて(しかも外なのに)。光井戸の設計もすごい。晴れの日は天井から太陽光が入ってくる。雨の日は上から雨粒が降ってきて水面に当たる。雨音を聞ける茶室もあったし、雨の時しか得ることができない体験がたくさんある気がする。

 ⑦本歌取りの自意識

茶室「雨聴天」と庭と蝶

測候所には、過去の建築を模して再作成した作品が多く展示されていた。過去の素晴らしいものを現代版に作り変えるこの行為は、芸術の様々な分野で見られる行為。音楽の分野で言えば、HIPHOPのサンプリングだし、和歌の世界でいえば本歌取り。杉本氏はこの行為を自覚的に行なっているのではと感じた。

過去のものを参照した作品には、参照した本人の特徴を追加することが必須である。この手順を飛ばせば、「パクリ」だとジャッジされてしまう。杉本博司は、

江之浦測候所という集合アートを作ること
最新の素材に取り替え再構築すること

で、作品に独自性を持たせていたように見えた。

【好きな作品】

 ①冬至光遥拝隧道

端から先を見た写真。奥には海が見える

一番好きな作品。
丘を貫く70mの鉄の長方形筒で、端から覗くと奥に太陽の光がみえる。筒の真ん中に空間があり、そこにガラスが敷き詰められた井戸がある。その上は筒抜けになっており、空から光が降りてきてガラスに反射する構造。

反対側まで歩くと、丘から突き出し浮いている端ギリギリまで近づくことができる。見えるのは海と木々だけ。筒が額縁のように作用していて、動く絵を見ているみたいだった。見える画角を制限することで、こんなに景色をしっかりと「鑑賞」できるのかと驚いた。

トンネルは、冬至の日の出とぴったり合うように設置されている。太陽が朝上がる時、光がトンネルを貫通するようにできている。日の出を見るイベントもあるそう。

隧道の上

このトンネルの上は歩くことができる。地面に埋め込まれているので、鉄板を歩ける感じ。先端まで行くと、地面から10mくらいの高さで180°全て海と森の景色が見れる。さっき見た景色と同じものを見てるのに印象が違いすぎる。

 ②夏至光遥拝100メートルギャラリー

海へ伸びるギャラリー

唯一の完全室内の展示(建物は受付とここだけ)。海抜100m地点に建てられた、長さ100mの縦長ギャラリーで海に向かって伸びて作られている。

室内には杉山博司の作品「海景」が7枚等間隔に飾られる。室内の作品はこれだけ。贅沢な空間の使い方。世界中の海をモノクロで撮った写真群で、スクリーン上には海と空だけが映されている。くっきり撮られたものや、モヤがかったりしているものなど写し方もそれぞれ。7枚目を見終わり、ギャラリーの端に着くと丘から12メートル突き出したテラスへの扉がある。

ギャラリー端
ギャラリーからの眺め

外に出ると一面の海。8枚目の海景として、小田原の海を「観る」ことができる。ギャラリーは縦長で、①隧道とX型で交差している。トンネルがギャラリーの下を潜っている感じ。ギャラリーの伸びる方向は、夏至の日の出と合うように設計されており、夏至の日の出の光が真っ直ぐギャラリーを貫くようになっている。

 ③化石窟

みかん畑の道具小屋を改築した化石窟

先ほどの隧道やギャラリーは、海抜の高いところにある。そこから海側に近づき降りることができ、崖下のみかん畑とその道具小屋を観ることができる。

小屋を改築し、杉本博司が所蔵している化石や青銅器などの歴史的なものをジャンルレスに展示している。それぞれの時代はバラバラだが、不思議と統一感がある。時間というテーマで統一されているから?それぞれの物の当時の時代を思い出させる感じ。

暑かったから、ベンチで休憩しながら座って見た。

 ④光学硝子舞台

下から見た隧道とガラス舞台

懸造りという組み方で作られたヒノキの木組みの上に光学ガラスが敷き詰められた舞台。高さ10mくらいある。透明だから下の木組みが透けて見える。 

これを取り囲むのは古代ローマの円形劇場を模した観客席。実際にこの席で舞台を見れるようで、席に番号が振られていて面白い違和感。日本伝統の舞台を古代ローマの席が取り囲むのが不思議。

この舞台で歌舞伎役者が踊ったり、嵐がパンフレットの撮影したりしているみたい。杉本氏の演劇への関心も感じる。イベントも見てみたいと思った。

 ⑤数理模型

数理模型 0010 負の定曲率回転面

最も奥にあった彫刻。

$${x=\frac{\cos u}{\cosh\nu}}$$
$${y=\frac{\sin u}{\cosh\nu}}$$
$${(0 \le u<2\pi, 0 \le \nu<∞)}$$


の式の双曲線の回転体を彫刻化している。第一章限と第二章限のグラフが交わる点は、y軸の無限遠。これは宇宙まで伸ばせる。交わる点を想像する=宇宙を想像させる作品。無限とは人間の頭の中にしかない想像上の場所で、そこを宇宙と絡めることで空想した世界が宇宙と繋がる感じ。

数理模型 0004
オンデュロイド:平均曲率が0でない定数となる回転面


竹林の中にもオンデュロイドという回転面のオブジェがある。竹が上に伸びているなかに突然ある不思議な形のオブジェがよかった。

【まとめ】

最高でした。ぜひ見に行ってください。

ここまで読んでくれてありがとうございます🙇‍♂️

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