騙されてはいけない、モテたいだけのこんな男

気のある素振りを見せられて、すぐその気になってしまうのはなにも男の人ばかりではありません。
女性だって「彼、私のこと好きなのかな？」と感じたのをきっかけに、相手の男性に心を持っていかれてしまうことはあるのです。
それが、本当にあなたに気のある男性ならよいのですが、なかには“ちょっと気を引きたいだけ”とか“モテたいだけ”の男の人もいますから、注意してくださいね。
本日は、そんな“モテたいだけ”の男性のお話です。

あれは、5～6年前のこと。
ある活動をとおして、10～20人ほどの男女（既婚者ばかり）が何度か集まる機会がありました。
そのなかに、Dさんという私より3つほど年上の男性がいました。
年上なのですが、どこか少年っぽさを残したさわやかな雰囲気の男性で、しかも会社経営者。いかにもモテそう。
私とDさんはグループが違ったため、活動の最中は言葉を交わすこともありませんでしたが、なぜか懇親会になると彼は必ず私の隣に座ります。

あるとき、自宅の方向が同じ数人でタクシーに乗り合わせて帰ったのですが、タクシーを降りるのは私が最後。
最初に下りた男性がいくらかタクシー代を持たせてくれたのですが、Dさんもタクシーを降りるときに財布からお札を取り出しました。
その額が、実際のタクシー代より多かったので、翌日、最初にタクシー代を出してくれた男性に連絡を取りました。

「タクシー代が余ってしまったので、お返ししたいんですけど。あのあと、Dさんもタクシー代を出してくれたのでDさんにもお返ししたんですが、連絡先がわからなくて」

彼は、

「たいした金額じゃないからいいよ。Dさんにも連絡しておくね」

しばらくすると、その男性から返事がありました。

「Dさんも『女性にタクシー代を払わせるわけにはいきませんから』って言ってるから。気にしないで」

よくいえば紳士的。
だけど、言い回しの1つひとつがなんとなく芝居がかっているんですよね。

そして、このDさん。お酒の席になると、どうも紳士的な振る舞いを忘れてしまうようです。
とにかく距離が近いのです。
少しずつ少しずつ距離を詰めてきて、懇親会がスタートして1時間もたつころにはお互いの太ももがベッタリ密着しているといってもいいくらいの、距離感のなさ。
しかも、ベッタリ密着して話すことといえば、仕事での武勇伝、お金のかかる趣味の話、なぜかモテて困っている話。
そう、とにかく薄っぺらいのです。
そして、ときどき愛する妻の話も入れてきます。
自分がいかに愛妻家であるか、どれだけ夫婦仲がよいか。私にベッタリ密着しながら、そんな話をしてくるのです。

ある日のグループ活動のとき、そのDさんが同じグループのEさんというかわいらしい女性と話し込んでいる姿が目に飛び込んできました。
私より年齢はずっと若いけれど、Eさんも既婚者です。
パーソナルスペースを優に超えた距離の近さで、小柄なEさんの顔をのぞき込むように話しかけるDさん。
肩をすくめ、恥ずかしそうにうつむくEさん。時折Dさんの顔をチラッと見上げては頬をかすかに染めています。

（危ないな、あれは……）

他人事ながら、ちょっと不安になったのを覚えています。

その日も、活動のあとで懇親会がありました。
私は運営側ということで、懇親会には参加が基本です。
私の近くをとおりかかったDさんの、

「Eさんも一緒に行こうよ」

と、彼女を誘っている声が聞こえてきました。

「えー。どうしようかな…」

と迷っている素振りを見せながらも、どこかうれしそうなEさん。

早めに店に着いた私がいちばん端っこの席に座っていると、Eさんと仲良く連れ立って入ってきたDさんが、

「あれ、もう着いてたの？　早いね」

と言いながら、満面の笑顔で私の隣の席に座ります。
少し困惑した表情を見せつつも、Dさんの反対隣の席にちょこんと座る、かわいらしいEさん。
問題は、そのあとです。
自分で誘っておいて、DさんはEさんを完全放置。
身体ごとこちらを向いて、私と、その前に座っている男性とばかり話しているのです。
私との距離が近くなるにつれて、DさんとEさんの距離は開いていきます。
私はといえば、Dさんの向こうで寂しそうにしているEさんが気がかりでなりません。

やがて、Eさんはすっと席を立つと、

「私、先に帰ります」

DさんはハッとしたようにEさんを振り返ると、

「あ、ごめん！　ごめんね、オレのせいだよね！　寂しかったよね！　ほんとにゴメン！」

激しく謝られて、ますます顔を曇らせるEさん。
謝れば謝るほど、Dさんとの甘い時間を期待したEさんが惨めになることなど、この男はひとつもわかっていないのです。

以降、私はDさんが隣の席に座ってきたら、折を見て自分から席を移動し、Dさんと物理的な距離を置くように。
そんな私の姿を、最初のうちこそDさんは「え？」という感じで戸惑ったように目で追っていましたが、そんなことが続くうち私に会うと気まずそうに目を伏せるように。

きっと、フラれた経験というのがあまりないのでしょうね。こういう男性は。
あのときのEさんはちょっとかわいそうでしたけど、結果的には彼女が道ならぬ恋に足を踏み入れるのを防いだのですから、あれはあれでよかったのではないでしょうか。
というか、あんな男に簡単にだまされないでね。