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私が好きなボーカルミックスについて

私が好きなボーカルミックスとはどんなものなのか、について考えてみたいと思います。

私の趣味趣向を明らかにして、ご依頼の参考にしてもらいたい目的のほか、自分自身でも改めて好みのボーカルミックスについて考えることで、今後の技術向上に役立てたい目的も兼ねています。


私の音楽の好み


私が普段、ここ最近特に好んで聞くものとして、大まかに言えばジャズやR&B・ソウルといった音楽ジャンル、またはそれらの流れを汲むような音楽を好む傾向にあります。

また、音楽を好きになったきっかけである1990年代~2000年代の邦楽については、自身のバンド活動やソロ活動(アコギを用いた弾き語り)、作編曲に強く影響を受けています。




好み1:質感


かっこいい歌声や力強い歌声よりも、優しい、柔らかい、切ない、透明感がある、可愛らしい、艶がある、美しい、のような歌声に惹かれることもあり、生っぽい歌声、目の前でその歌手の歌を聞いているような質感を好んでいます。

Melody Gardot, Philippe Powell - À La Tour Eiffel

(メロディーガルドーの歌声はトップクラスに好きです)


ただし、楽曲やアレンジによっては歌がオケに埋もれてしまったり、歌詞が聞き取りにくくなってしまうことがある(特に日本語歌詞は注意しなければならない)ため、いかに良いとこ取りの調整が出来るかが重要になると考えています。

安藤裕子 - さみしがり屋の言葉達

(音量は全体的に均されながらも収録時のダイナミクスが適度に残されている印象です)


歌手の歌声や楽曲の方向性、歌詞の言語や内容によって適切な調整が変わるのですが、逆にコンプ一発でガツンと均す、といった調整のほうが格好良くなることも多分にあります。

また、特に宅録で活動しているアマチュア歌手の場合には、収録環境や機材にも影響される部分であり、生歌の質感を保持することが正解とは一概には言えません。調整して調整してなんとかなんとか自然な雰囲気に…というケースはままあります。

可能な限り品質良く録音された生歌の良さを損なわずに、そのまま届けるようなボーカルミックスに惹かれる傾向にあります。




好み2:補正


ピッチ補正は大きく2つに、レコーディング時のミスなどを修正する工程楽曲に合ったピッチ感とする工程に分けることが出来ると考えています。

なお、リズム補正は主に前者の考え方に含まれており、楽曲に合ったリズム感(グルーヴ感など)を補正で作り上げるということはほぼ行われないはずです。

このうち、前半の工程は楽曲の音楽性や歌手のスキルにあまり関係なく、本来であればこうするべきだったという必要最低限な修正作業を行うことが基本となるため、誤った操作さえ行わなければおおよそ似たような結果になると考えています。


後半の工程「楽曲にあったピッチ感」について、楽曲に使用されている楽器(生楽器中心かそうでないか)、洋楽っぽさ邦楽っぽさ(メロディの作りを含む)、そのほか楽曲・アーティスト・リスナーの時代や世代など様々な視点から、その楽曲に対してどれだけピッチ感を整える必要があるかが微妙に異なってくるものと考えています。


星野源 - 喜劇

(2022年4月8日リリース、特にサビ部分において表現としての強めの補正・加工がされている、と思う…実際のところは分かんないんですけれど…)


星野源 - くだらないの中に

(2011年3月2日リリース、補正の印象はほぼなく、楽曲のアコースティック質感に良く合っている)


楽曲や歌声に応じて補正の内容や度合いは変化するものの、基本的には、音質の劣化を避ける目的としても違和感防止としても、ミスを修正する工程を極力行わないこと、また、多少の声の揺れやぶれも愛嬌であると見過ごすようなボーカルミックスに惹かれる傾向にあります。




好み3:加工


リバーブやディレイなどの質感としては、昨今かなりドライな雰囲気(エフェクト感が薄く、歌が前面に張り付くような印象)の楽曲が多いと思いますが、私はふわっと楽曲と歌を繋ぎ合わせて、隙間を埋め、歌に広がりや暖かさを加える加工がされているボーカルミックスを好む傾向にあります。

Peach&Apricot - Watching Over You

(エフェクト感としては0:41のサビ前が特に分かりやすいですが、フレーズとフレーズの間をよく聞くとわずかに空間を埋めるような残響音が聞こえます)

※ドライな雰囲気が楽曲や歌声に対して適切かつ効果的である場合も多いですが、特にアマチュア制作の音源においては、リバーブやディレイについての扱い方や考え方が適切ではなく、効果的とはいえない状態(全く空間系エフェクトが適用されていないなど)となっている音源も少なくありません。すっぴんとナチュラルメイクの違い、に似たものがあると考えています。


また、「楽曲に合ったピッチ感」を作り上げるのも一つのボーカル加工と言えますが、ボーカルにもっと思い切った質感の変化を加えることも可能です。

左右にどれくらい広げるのか、ローやハイはどれくらいカットするのか、同じフレーズを2回歌唱したものを重ねたり、オクターブ違いなどの異なる素材をどのように重ねるのかであったり、ラジオボイスなどに代表されるように音質を大きく加工するなど、歌の印象を変化させる手法は様々です。

adieu - 旅立ち

(カバー作品においてもこの楽曲のように、イントロや間奏などで口笛やハミングを重ねてみたり、おいしい箇所にオクターブやダブルを重ねるアイデアを取り入れることが可能です)


これについては、アーティストやプロデューサーといった目線に近いものでありますが、カバー作品では数少ない個性やアイデアを出せるポイントであること、また、重ねる素材がなくともボーカルミックス時の加工で別の印象を作り上げられることも多いため、依頼時の相談や打ち合わせを適切に行えればより理想的な作品とできる可能性が高まります。

私個人の好みとしては、人の声を重ねる(またはそれに近い加工)といったアイデアが盛り込まれているボーカルミックスに惹かれる傾向にあります。




おわりに


音楽性が様々であるように、ボーカルミックスの内容や質感、方向性も様々です。基本的には楽曲や歌声から判断してボーカルミックスを行うこととなりますが、誰がやっても同じ結果になるということは絶対にありません。

エンジニアの技術はもちろんですが、ボーカリストの技術や収録環境、ボーカリストとエンジニアの音楽性(知識・好み)の違い、またミックスを行う作品の用途や目的によっても異なってくる場合があります。


マスタリングが出来るだけ多くの人に理想的なバランスで音源を聞いてもらうための工程と捉えていますが、それに対して、ボーカルミックスの工程は表現やアイデアを盛り込むスペースが多くあり、カバー活動であっても同様(むしろより重要)であると考えています。


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