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【未完】崇めよ我はステルス也【不遜】

(閲覧注意です。)

心地よいドビュッシー曲が流れ柔らかい陽の光が暖かい。
が、少々ドビュッシーの音量が大きいので苦情を貰わないうちに、ボリュームを下げようとする。だがしかし。
ここはどこだ?
床に寝転がってたせいか節々が痛む。それに身体が冷えてアタマも回らない。ガラステーブルの上でスマホが振動するのを見つけ咄嗟に出ようとするが、見たことないスマホ。
ビデオ通話だ。
「おい、いつまで寝てるんだ?オマエ、誰だ?」
イライラした声の私の顔がスマホの画面の中にある。咄嗟に私はこう、応えた。
「アンタ、誰?」

「・・・鏡を見てみろ」
鏡なんかどこに。なんか見覚えある手すり無しの階段。大きな窓ガラスに映る姿はーー

――ぎいやああああああああああああぁぁぁ!!!

うそうそうそ!なに?ヒラサワ?私ヒラサワなの?は?
パニックで意味不明な事を叫び、わあわあ泣いてるとスマホからも声が。
「おい!落ち着け!・・・ぁあ、その顔で泣くな。涙と 鼻水とヨダレでぐちゃぐちゃじゃないか、顔を洗ってきなさい。」
顔洗え、たってどこで洗うのか。とりあえずトイレの隣のドアを開けると洗面所だったので顔を洗った。もう、鏡は見ない、というか見れない。タオルで顔をふくがいい匂いがしてめまい起こして倒れそうになる。またスマホから声が聞こえるので慌てて応答する。

「おちついたか?」
「・・・おちつけません。」
「キミは、私を知ってるか?」
思わず赤べこのようにブンブンと頭を上下する。
「私のリスナーなんだな?」
声も出せず、ブンブンを繰り返すばかり。
「よく聞きなさい、目を閉じて。」諭すような優しい口調。
「そこはあろるの館という私の住まいだ。分かるな?」
月締メのときみたいにハッキリしてるけど、柔らかい話し方。
はい、と声を絞り出して答える。
「私は今日の予定をキャンセルしなければならない。相手に電話して『水道工事があるので出られなくなった』とだけ言えばいい。やって貰えますか?」
なんで急に敬語ですか。私は目を開けてはい、と答えた。
スマホの通話履歴の中から指定された相手にドキドキしながら電話をかけ、それっぽい口調で指示通りの言葉を伝えた。

「まあ、上出来です。」
ほっ、と一安心したけど大事な用だったのではないか、とチクリと胸が傷んだ。
「さて、私の番です。貴方は学生ですか?OLさんですか?」
オーエルさん、て昭和っぽいなんてボケてたら突然現実を思い出した。
「ああっ!授業始まっちゃう!」
「キミ!落ち着いて、返事して帰るくらいなら出来るとおもうが。」
「すいません、今そのシステムじゃないんです。」
「着替えて登校した方がいいのか。」
なにその冷静な判断。まて、タンスを開けるな!
「ちょ、師匠!ワタシ、女ですので!」
「そんなことは分かってる。だいたい女人の身体如き何も感じないので」
「じゃなくて、師匠ブラジャーって着けた事あります?」
タンスから適当なスカートとシャツを取り出し着替えかけた師匠は突然動きをとめた。
「・・・!ぶっ!ら・・・あー、ごめんなさい気が動転してたようです。」
だから、なぜ敬語なの。
「分かりました、私は着替えません。ここから一歩も動きません、でもお休みするという連絡はした方がいいですね。」
「あ、だったらLINEで済みます。『ドンキーコアラ』って名前の奴に今日は休む、とだけ送って貰えますか?」
「オーケイ、任せなさい。」
返事、軽いな。大丈夫かな。
「・・・あった、えーと?どんきー」
あー、横向いて吹き出しちゃったよ。沸点低いってホントだな。すいませんね、おかしな友人で。
「うわっ、なにこのキーボード使いづら」
なんて言いながらもさかさか打って素早く送信する。
「はい、どう?」
どう、と聞かれても画面が見えないのでどうにもならない。不安なので読み上げてもらった。

「おはー♡きょうはお熱で一日お休みぽょ♡先生によろ(*ˊ꒳​ˋ*)੭♡」

・・・・・・発熱で如何にも体調悪いのが伝わったと思いたい。因みに最後の顔文字は「キュンです」だそうだ。案の定速攻でリプ来たが無視してもらった。

「えー、さて。」
私の姿で私の部屋をキョロキョロ見回すヒラサワさん。それをスマホ越しにながめるのは、自分の外に自分の感覚があるようで気が変になりそうだ。
「ここはアパートの部屋?一人暮らしですか?」
「あ、はい。そうです。ワンDKです。狭くてすいません。」

「・・・・・・トイレはどこですか。」

!?Σ(|||▽||| )
「玄関横のドアですけどえ、まって」
気が動転してる間にも師匠(ワタシ)の姿は画面から消えた。ええい、こうなったらこのタイミングでこっちも用を足すしかない。大丈夫。昔、弟に伝授された「バンザイ発射法」で切り抜ける。ズボンを下ろしバンザイして腰を前に突き出すだけだ。目を瞑ってれば何も見ないで済むし何処も触れずにすむ。失敗したらその時はその時。女の身でこれをやって相当怒られたことがあるが、今となってはいい思い出だ。
計画は成功。やり遂げた満足感に余裕も生まれて手を洗う縋ら鏡にほほ笑みかける。
スマホのまえに戻ると、ぐったりしたワタシ(師匠)がそこに居た。
「え?師匠?どうしました?」

「――たいへんもうしわけない」
ゆっくりと深深と頭を下げる姿に色々想像を逞しくするが、まあ、致し方ない。膀胱破裂されずに済んだと感謝の意を伝えるが顔を覆って恥ずかしがる。
さっき意気揚々とスカートを履こうとしてた同じ人だろうか。
「ところで師匠、手、洗いました?」
ガバッと顔を上げバタバタと走り去りまた息を切らせて戻ってきた。
「か、顔も洗いました。次はなにしましょうか。」
ダメ、笑いそう。ちょっと眉間にシワを寄せてみせる。
「うん、そうですね。朝ごはんどうしましょうか。」
「その身体で雑食はできませんよ、今ココにいる私は精神が私である以上、雑食をする気はありません。」
急に冷静に語り出す。そうだよね、師匠の生活で食事は常に重大事だ。

「えーっと、シリアルがあったので水でふやかすかして、食べてもらっていいですか?」
あーー!!ワタシの馬鹿!
師匠の口に合うような気の利いたものを何で常備してない?もう、これを機会に完全なヴィーガン目指すぞ。(いや絶対ムリ)(お肉美味しい)
「ワタシの方は食べていいものありますか?」
互いにぐう〜、という腹の虫の演奏会をスマホ越しに披露している。
「そっちもシリアルがあるので、適当に食べといてください。あるものしかありません。」

そこからスマホの充電を気にしながらお互いのキッチンを漁りめぼしい食糧を探し、しばしのブランチタイムとなる。
時計はお昼前を示し窓からサンサンと陽が差し込んでいる。
おかしなものだ。スマホに写る自分の姿を見ながら豆乳でふやかしたシリアルを食べている。鏡かな、という錯覚に陥る。スマホの向こうのワタシも同じようなものを食べている。そうか、そっちにも豆乳があった。
「師匠、味はどうですか」
「甘いなぁ、お菓子ですね。」
「すいません、師匠のシリアル、思ったより美味しいです。もっと犬のエサみたいな感じかと思ってました。」
ぐっ!
といってむせた後胸を叩いている。
「だ、大丈夫ですか!?」
「エサ、エサって、まあそうですね。人間のエサですね。」
しきりに咳払いをして笑いを堪えてるようだ。

「師匠、今、他人の体なんですよ。ぜんぜん笑っていいし、なんならオナラもゲップもしたっていいんですよ。」
ワタシの顔が真顔になる。
「先程も言いましたが、体は貴方でも中身は私なんです。 」
と、言うくせに顔を顰めて見せる。
「あ!ワタシの顔そんなに歪めないでくださいよ!シワになったらどうするんですか」
「あーただってね、さっきから私の顔で百面相みたいにヘンな顔して、ごっ、こっちの身にもなれってもんですよ、ふぇっ、」
いや、笑ってるな、うん。

「さて、助っ人を呼ぼうと思うのですが。」
「はい、」
平野さんに助けてもらうことになった。師匠に乗っ取られたワタシをあろるの館に連れてきてもらい、三人で対策を練ろう、ということになった。

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