ARTMANIA
70年前に建てられたという古い邸宅。私を招いた友人はトラブルで足止めを食らっているらしい。執事が煎れた紅茶の香りを楽しみながら、友人の到着を待つことにした。
壁に絵が掛かっている。肖像画か、誰のだろうか。
近づいてまじまじと見る。端正な顔の若い男性だ。きらびやかな、どこかの民族衣装にも見える出で立ちに、きりりとした眉が人柄をおもわせる。
――どこかの国の王子だろうか。
人々からの信頼が厚く、また彼もそれに応える使命を負っている。だが成熟しきらない、未熟さも持ち合わせるような。
だから、王ではなく王子。
絵画を眺めながら、勝手な妄想を膨らませる。
執事を呼んできいてみるか。呼び鈴を鳴らして執事を呼び付けた。
「この絵、ですか。私がこちらで勤めだした頃にはもうありましたね。詳しい事は存じ上げませんが。ああ、確か『平沢進』様です。先代様が、仰ってました。」
「どういう方なんですか?」
執事は首を捻って少し考えるとぱっ、と顔を上げて答えた。
「音楽家です!楽器の演奏をしたり歌ったり、そういう方だと聞いた覚えがあります。私にはそれくらいしかお答え出来ません。」
そう告げると深深と頭を下げて、執事は部屋を出た。
――これは謎が深まるだけだな。
見てるだけで何がわかるでもない、それでも魅了されて絵から目を離せない。
柔らかく繊細なタッチのライン、憂いを含んだ瞳。金属的な装飾。彼は実在するのなら、いまは……
おや?
まつ毛を伏せた?
頬がピンク色?
「――はぁ〜」
???ため息??
「そんなに見つめられると私の顔に穴が空いてしまいます。」
!!!
しゃべった!!!
急に恐ろしくなり絵から離れた。が、
絵の中からにゅうっ、と腕が伸びた。
まるで「引っ張り出せ」とでも言うように。
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