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日記150

かれこれ40年ほど生きているが、いまだに自分に似合う服がよく分からない。




もちろん好みはある。


色味でいうと、赤や青や紫などの原色に、白黒グレーにカーキなど。
形は、シャープなものも、ちょっとラフなのも好き。
テイストはスポーティやアウトドアにシンプルモノトーン、トラッドや、ちょっと個性的なものまで…と守備範囲ヒロシ。

一方で、昔からフェミニンやエレガントなスタイルは、きっと自分には似合わないだろうな〜と敬遠してきた。



わたしの体型は、背が高く、なで肩で、細めの骨格に対して、中年のお肉が程よく(?笑)乗っている。そして、第一印象はいつも、おっとりしているね、だ。

…なので、正反対のタイプに、憧れているのかもしれない。



わたしの描く理想の姿は、
凛としていて、クール。
その理想を体現してるのが、見た目は似ているのに、雰囲気も中身も、わたしとは正反対の6歳離れた妹だ。


彼女のイメージは宝塚の男役。
ショートカットで、首が長く、パンツスーツがよく似合って、どこにいても目を惹く。
昔から男性女性問わず人気があり、いまや大都会で真っ赤なジャガーを乗り回すバリキャリだ。


そう、彼女はまさに女に憧れられる女。
わたしに無いもの全てを兼ね備えてる彼女のスタイルに、恥ずかしいかなちょっと憧れてる姉は笑、格好だけでも寄せて、自分の思い描く理想の女性を、演じてみたいのかもしれない。
まるでコスプレをするかのように、自分にはない、こうだったらいいなの願望を、服によって叶えたいのかもしれない。



でも、現実はもっとリアルだ。笑


子育て中の母であるわたしが、
現実的に、洋服を買うときに真っ先に探すのは、お洒落なデート服でもなく、友達とのお出かけ服でもない。
それは、幼稚園や近所のスーパーにママチャリを漕いで、着て行くことができる普段着。
余った生活費から捻出するため、予算は限られている。
ときたら、何よりも動きやすさ重視になるのが、現実中の現実なのだ。


服を買うのは専らネットで、
試着してから買えるお店を利用することが多い。
その中で、ボーイズの160cmなら着れることが最近分かり、嬉しくて、ついついこないだスウェットを2着も買ってしまった。


寒くなったし。
裏起毛のスウェットなかったし。
ニットより洗濯しやすいし。
だって、だってかわいいと思ったから。


だがそれに対して、夫は容赦なく、


それ部屋着じゃん。


と笑った。


今回に限らず、夫はいつもわたしの服をこっぴどくdisる。


またそんなん買ったの?
ぜんぜん似合ってないよ
ダサい
ほんとセンスない



毎回の散々な言われように、spark joy(by こんまり)して買って舞い上がった花火は、ジュッと音を立てて一瞬にして消える。


悲しい。
毎度おなじみ悲しい。


いつもは言われっぱなしで、傷ついて
しゅん…。となっていたわたしだったが、
今回は、そんなことを平気で言う夫が何故か、どうしても許せなかった。


なんでそんなことを言うの?
そう言われるたびに、せっかく買った服も、色褪せて見えて、自分に自信がなくなるじゃない。
そりゃあ、限られた中で探してるわけだから、一番似合う訳じゃないかもしれないけど、そんな言い方ないじゃん。
わたしの選んだものが、そんなに似合ってない
って言うんなら、何が似合うのか教えてよ。

と、怒り玉をぶつけた。
そしてビックリしてる夫に、勢いにまかせて、いまから買い物に連れてって。と訴えた。

夫は、頭いたいのに…とか、俺寝てないんだけど…とかブツブツ言いながらも、しぶしぶ重い腰を上げてくれた。







外はすっかり冬模様。
久しぶりの街までのドライビング中、モヤモヤしていたわたしは、さっきの話を切り出した。


すると夫は、

伝え方が悪かったし、そんな風に言う権利はないのに、いつもそう言ってしまうのは、悪かった。

と、最近の色々な話し合いの中で、よい方向へ向かってることもあってか、素直に謝ってくれた。


そして続けて、

分かって欲しいのはそこじゃなくて、
モノを見ずに、ネットで買うということ。
そして、本当に似合うものを買っていないということ。
そしてそれを見つけるまで待てないこと。
それが嫌だった。
そう上手く伝えられずに、毎回イライラとなって、そういう表現になってしまったのは、悪かった。ごめんね。



と、話してくれた。




バチェラーとは対極の位置にいるけど笑、彼の性格上そういう表現になること、そしてある意味?わたしが酷評だと思ってきた言葉たちは、実は褒め言葉だったのか…。
もっと素敵に似合う服があるよ、と。
彼なりの最上級の婉曲表現だったのか、と気がついた。
(分かりにくいわ〜笑)



夫の気持ちが分かって、少し心に穏やかさが戻ってきた頃、お目当てのお店に到着。

早速、自分ではとても買えないけど、素敵だなぁ…と思いながらiPhone上で眺めていたセーターを探した。



店員さんにサイズを持ってきてもらい、試着してみることに。



夢にまで見たセーター…!!


のはずだった。


けど、、
あれ。。
なんだか、あまりしっくり来ない。
あんなに素敵に見えたのに。。


先ほど夫が言ってた言葉が思い浮かぶ。


そっか。
物を見ずに買うと、こうなるんだよね。
夫が伝えたかったことは、コレだったのかも。試着できて良かったな…


残念だけど、セーターは店員さんにお返しして、せっかくだからと、色々他のも見てみることにした。



はぁ…やっぱり素敵。
このお店スキ。
ここにいるだけで幸せな、贅沢な気持ちになるよ。。


と思いながら店内を歩いていると、
すぐに本日の試着室行き2点目が見つかった。

お目当てはざっくりセーターだったけど、、
それはスウェット。
けれど、わたしの買ったボーイズもの160cmのフーディとは明らかに違う。
カットも色味も、めちゃくちゃツボ。
丁寧な仕事ぶりに、欠点が見つからない。



興奮しながら試着すると、、思わず胸がときめいた。



やばい。 

めちゃくちゃかわいい。。。。。♡
わたしの大好きなスポーティ、原色、ラフにちょっとシャープさも加わってる。

思わず目がハートになりながら、夫に向き直ると、さすがの夫も、



いいね。
かっこいい。

と。


あれだけダサいと言われていただけに、
改めて、二人で同じものをかっこいいと思えたことが純粋に嬉しい♡
…と舞い上がるわたしに、




もう少し見てみよう、と制す夫。
夫の顔には、まだ早い、と書いてある。
そして、となりの棚からおもむろに、ハイネックの超ざっくりセーターを取り出し、


これ着てみて。
と差し出した。


たしかに、今日探しに来たのはセーターで。
しかも、ざっくり目のもので。
けどね、ちょっと、ちょっとイメージが違うのよ。


夫の好みは知っている。
王道、かつエレガントなのが好きなのだ。


分かるよ、うん、好きだよね。
この感じ、プレゼントしてもらったこともあったけど、結局着こなせずに、箪笥の肥やしになってしまったんだよ。
その罪悪感たるや…。



しかし夫は、譲らない。

いや、いいから着てみて。



……はい。


気は進まなかったけど、一応求めに応じて、
鏡に映った自分を見た。



やっぱりな、



と思った。


そう、知ってる、この感じ。
たしかに物はすごく素敵なのは分かるんだけど、やっぱりわたしには似合わないんじゃないかな…


とおよび腰で、
恐る恐るカーテンを開けると…


外で待ち構えてた夫の顔が、パッと明るくなった。


うん。
いい!
似合うじゃん。


続けて、さっきまで傍から黙って見ていた店員さんも、一歩前へ出たかと思うと、突然の沈黙を破った。


わたしもそう思います。
あの、先ほどのトレーナー、めちゃくちゃお客さまが好いてらっしゃるのは分かるんですが、、わたしもご主人さまの言われること、わかります。まるで、お客さまが初めから着てこられたかの様に、似合ってるんですよ。そしてね…



ちょっ…店員さん。
めちゃくちゃ喋るやん。笑
しかも、夫とめちゃくちゃ共感し合ってるし。
なんなら、店員さんがちょっと前へ出たことによって、横並びになってて、
軽くパートナー感出てるし、、
騙されへんで〜!(バカ)


などと、関西人ではないのに思いながら…


ほ、ほんとですか?笑
ともう一度鏡にうつる自分を見た。


…分からない。笑笑


どうやら、みんなに見えてるものが、わたしには見えてないらしい。


ここまで見えないと、さすがに自分の方が間違ってるような気がしてくる。
わたしの目の前だけ、ごっつい霧でもかかってるのだろうか。


よし。落ち着こう。
そして、もう一度スウェット着てみよう。


と思い、再度試着室へ。


あ、やっぱり可愛い。


よし、ではお次はセーターを。


…なるほど。


では、スウェットを。


ならば、セーターを。


…と繰り返すこと数回ののち。



相変わらず、スウェットは素敵だけど、
セーターを着るたびに、
嬉しい反応をしてくれる夫(と一応店員さん笑)を信じてみようかな、という気持ちが芽生えてきた。


スウェットより、絶対セーターの方が着回せるよ。と言われて、なんとなくその気になれたのも良かったのかもしれない。


何か新しいドアを開くような感覚を、微かに感じられたからなのかもしれない。



ずっと敬遠してきた、エレガントな王道スタイル。


それは、わたしにとっては冒険だった。



わたしは夫に、こっちにしようかな、
とセーターを指差した。
夫は、嬉しそうに、そうしようよと言って、レジへ向かった。





その夜。

夫が、子ども達の前で、

ママ、今日の服着て見せてよ。

と言った。




わたしはセーターを着た。

すると…


ママ可愛い〜〜〜〜!!!!


8歳の娘が抱きついてきた。


めちゃくちゃ可愛いよ♡
いままでで一番!
なんていうか、
真実のママって感じ!
優しい!



娘は目をキラキラさせて、熱を帯びた声でそう言った。


真実のママ。
優しい。



その瞬間。
ストンと何かが腑に落ちた。


…そっか。
わたし、そのままで良かったのかな。
クールでも、サバサバでもなく、わたしはホンワカした穏やかなスタイルを、本当は持っていたのかな。
それを、夫は知っていたのかな。
ずっと、そのままでいて、と言ってくれてたのかな。


自分の良さに気づいていないのは、自分だったんだ。


そう思った時、わたしの目の前の霧が、さー…っと晴れて行くのが分かった。


改めて、鏡を見た。



わ。
優しいな。
うん、わたしらしいかも。


夫に向き直ったとき、


夫は嬉しそうだった。



ありがとう。
プレゼント、大切にします。
そして、何よりも今日もらったこの気持ちを。




値札……取ろっかな。笑


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