日記138
母が、憧れだったピアノを始めた。
66歳。自分だけのために。
もともと小さい頃からピアノに憧れていた母だったが、生まれ育ったのは田舎町。ピアノなんてうるさい、女の子ならお琴とお茶、お花。という理由で、二つ上の姉と一緒にお琴を習わされた。
お琴〜?ちょっと違うんだけどなぁ…と思ったけど、怖〜い曽祖母(母の祖母)と同居していた母に、そんなことは言い出せる訳もなく。
ティーネイジャー時代は、洋映画好きだった祖母(母の母)と一緒に、映画館に行くのが楽しくて。何より好きだったのは、歌って踊るミュージカル。そして、夢見る夢子ちゃんだった母は、演劇にのめり込んで行った。
結婚すると、長女であるわたしが産まれた。
程なくして、母は4歳のわたしにピアノを習わせた。それは母の小さい頃叶えられなかった夢。ご近所さんの開いたガレージセールで見つけた茶色い中古のピアノが、わたしのピアノになった。
練習は大嫌いだったけど笑、ピアノを習わせてくれた母のおかげで、わたしの人生は母の想像をまたたくまに超えて、どこまでも豊かなものになったと思う。
わたしが結婚すると、家に置いてあるピアノは、あまり触られなくなった。実家に帰ってきたときには、必ず弾いていたけれど、いつの間にか普段は父の洋服が上にどさっと置かれるようになっていた。そんな状態ならウチに持って行きたいよ〜と母にお願いすることもあったけど、母はその度に、そうすると〜(わたしの名前)のピアノが聞けなくなるから、と言って首を縦には振らなかった。母にとっても、思い入れのあるピアノだったことを、わたしはその時初めて知った。母はこのピアノが好きだった。
そんなある日。
母からLINEがあった。
「なんと、ママは念願だったピアノをついに始めました〜!このピアノも置いてあるだけじゃ可哀想だからね。」
と。
びっくりした。そして同時に、すごくすごく、嬉しかった。
ママ、夢を叶えたじゃん😭♡ そう思った。
それから母は、毎日のようにピアノを弾いていると言う。楽しくて仕方がないらしい。
今日も、「ところで、ピアノ超楽しい!毎日欠かさず練習してるよ。やっぱり、音楽はいいね!」とまるで少女の様に生き生きとした母からのLINE。こんな母を、わたしは見たことがあっただろうか。
「ママが周りや社会的にとか一切関係なく、自分の本心からのめり込んでるって、もしかしたら初めてなんじゃない??」と思わず聞くと、
「〜の言う通り、初めて純粋に自分の魂の喜ぶことをしてるみたい。何でも、チャレンジしてみないとわからないものだね。」と母。
なんだか涙が止まらなかった。
あーーわたしずっと、母のこんな姿を見たかった。
そして、今までわたしのやることは全て、どれも賛成してもらえなかったけど、わたしが自分らしく生きることで、わたしは母に、もっと自分の魂に正直に生きていいんだよと、そう生きてほしいと願い続けてきたことを思い出した。
母は、社会のためでなければならない、家族のためでなくてはならない、いつもいつも、何かのためでなくてはならない人だったから、それを取り払った時の、自由な母はどんな人なのかをずっとずっと知りたかった。
そして、わたしの願いはずっとずっと、そんな風に好きなことをして、軽く、柔らかく、魂を振るわせて喜んでる母を見ることだった気がする。
母の言うとおり、心に従って行動することに、年齢なんて関係ない。
自分の魂の喜ぶことをすることは、間違いなく周りの人をも幸せにする。幸せは伝染し、やがてゆっくりと、循環するだろう。
ママへ
最高の娘孝行だよ♡ありがとう♡
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