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よくばりサン

当時は土曜日の午前中も授業があった。
部活はなかったが、合唱同好会の顧問の先生の好意で、音楽準備室でベートーベンのピアノ曲やモーツァルトを聴きながら時間を潰した。
顧問の先生は、事情を聞いてくることはなかった。

予定の時間が迫ってきたので、待ち合わせ場所のファーストフード店に向かった。
最寄り駅から歩いていると、後ろから
「稀琳!!」
と海空先生の声がした。
「あ、先生!!」
私は、とびっきりの甘えた声を出す。
ファーストフード店に着いて、海空先生はアイスコーヒー、私はアイスティーを持って3階の隅の席に座った。

「稀琳の制服姿、初めてだなぁ~」
「そうだね、中学の時も制服で来たことなかったもんね」
「なんだか新鮮だよなぁ~」
「ホント? 
 そんな風に言われると、ちょっと変な気分だよ~」

なんて照れながら答える私。
そして高校の授業について相談した。
「数学が得意だったのに、どうした?」
私は、高校の数学が全く理解できなくなっていた。
「最初の中学の復習くらいまでは、なんともなかったんだけどね。
 今は、全くわからないの。
 親に言ったら、予備校には絶対に行かせないって言われちゃってさ。
 どうやって勉強したらいいのかも、本当にわからなくて・・・」

海空先生は、またいつもの頭をポンポンとして
「仕方ないなぁ。
 俺が特別に教えてやるけど、期待するなよ!
 これは、塾にナイショだからな!」

って。
やっぱり優しい海空先生。
日程調整をして、1週間後の日曜日に朝から勉強を教えてもらうことになった。

海空先生は、塾の授業があるという事で1時間ほどのデート。
ファーストフード店を出て、人影のないところへ。
海空先生から
「頑張れってことでね」
と、額に軽くキスされた。
「これだけじゃ、頑張れないよ~」
と甘えてみると、いつもの濃厚なキスをしてくれた。
「欲張りさんだな、稀琳は」
と耳元で囁いた後、首を軽く噛まれた。
まるで身体に電気が走ったような感覚だった。
海空先生に耳もとで囁かれるだけで、腰が砕けてしまいそうになる。
それをわかっているのか、腰のあたりを支えてくれる。
「じゃあ、俺は授業に行ってくるからね。
 稀琳はイイコだからお家に帰るんだよ。」

と言い残し、海空先生は手を振りながら塾へ向かって行ってしまった。
私は、イイコになるために、言われたとおりに帰宅した。

これは、1993年5月中旬頃のエピソード。
この頃はホントに本当にHappyだったと記憶している。

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