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都合のいい女なの?

海の見える公園の駐車場に着いたものの、私がしゃくりあげていたので、そのまま車の中で話をすることになった。
先日、高校近くの公園の駐車場でこの車と同じタイプの車を見たこと。
その車にはカップルがいて、同級生たちがキスをしていたと騒いでいたこと。
そしてさっき、この車から女性が降りていったところを目撃したこと。
あの女性は、先生の彼女なのか・・・

海空先生は、私の右手を握りしめながら私の頭を撫でたり、背中を擦ったりしながら、最後まで話を聞いてくれた。
体育の授業中に見た車は、自分ではないと否定した。
その日は、大学院で講義を受けていた時間だったから、絶対に違うとのこと。
しかし車から降りてきた女性は付き合っている人だと認めた。

じゃあ、私は海空先生にとってナニ?
私は将来、海空先生との赤ちゃんが欲しいと思ったらダメ?
海空先生のお嫁さんになりたいの!
いつも“特別な存在”って言ってたのは、“都合のいい女”ってこと?

私は海空先生の胸を叩きながら泣き叫び続けた。
海空先生は、私のことは“特別な大事な存在”だと何度も言う。
あの女性とは大学で知り合って、2年くらい付き合ったが、もうすぐ別れるつもりだと説明してくれた。
しかし私の記憶を辿れば、いつも曖昧な表現で、好きだとか愛してるとは1度も言われたことがなかった。
「なんで私には、“好き”とか“愛してる”って
 言ってくれないの?
 いつも“特別な存在”って言うだけなの?」

黙って何も答えなくなった海空先生。
かなり長い沈黙の後、やっと話し始めた。
「俺は、稀琳のことを本当に大事に思っている。
 本当に俺にとって“特別な存在”なんだよ。
 でも、今の時点で5年先とかの将来は考えられない。
 このままの関係が5年先も続いていたら、
 結婚を意識し始めるかもしれない。
 本当に今は、稀琳のことを大事にしたいだけなんだ。
 それが“好き”とか“愛してる”という表現に
 当てはまらないんだよ。」

いつもの海空流の哲学に流される。
そして海空先生に抱き締められると、全てを許してしまう自分がいる。

この日もホテルへ行き、海空先生に抱かれた。
やはり私は、海空先生にとっては、身体だけの都合のいい女だったのだろう。
それでも、私の心は満たされかけていた。
今でも理由はわからないが、愛している人の腕の中でなら自分に自信が持てた。
最後には必ず私を選んでくれると思い込んでいた。

これは1993年6月のエピソード。
この頃から、私のメンタルが音を立てて崩壊していった。
海空先生を自分だけのモノにしたいと、躍起になり始めていた。

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