見出し画像

「オアシス」について

2、3日前、久しぶりにSpotifyの「大豆田とわ子と三人の元夫」のプレイリストを聞きました。このプレイリストを聴きながら「オアシス」の制作をしていたので、ぶわんとその時のことを思い出す。
「オアシス」とは、先月中旬から今月頭までnidi galleryで開催していた個展のこと。ほんの少し前なのに、すでに懐かしくなっていました。プレイリストは楽曲の制作秘話が、作曲家とプロデューサーの3人で語られていて、聴きながら、ものすごい後押しをされたのでした。制作者全員が自分の全て(センスや技術や才能や人脈や時間などなど。。)をつぎ込んで作られていることをひしひしと感じて、こんなすごい人たちもそうなのだから、私はもっともっとやらねば、というような気持ちになったのでした。
サウンドトラックだからいろんな感情に合う音楽があって、失敗しても、おかしくても、その時々に寄り添ってくれて、助かりました。

と、そのプレイリストに影響受けたのかも、と今となっては思いますが、今回の個展の時に「制作秘話」という読み物を用意しました。
いつも個展の時は何かしら文章を書いてきましたが、それはプロローグのような、私が絵を描けないため、スケッチの代わりのような役割でした。自分がその文章を制作中、常に頭に置いて、その文章の世界を目指して作品を仕上げていくような感じです。いつもは日常の些細な不満をネタに、それを非日常の物語に変えて消化する作業が、文章を書くことだったのですが、今回は日常そのままが非日常のようだったから、物語を書く必要がなかった。だけど、制作した背景が作品ごとにあったので「制作秘話」として言葉を添えました。
基本的にはこれを読まなくても、作品として成り立つようにはしていたけれど、読んでいただくとより嬉しい、というのが私の気持ちでした。ここにその「制作秘話」を作品の写真とともに載せたいと思います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「オアシス」制作秘話                    渡邉紘子

「オアシス」は、2020年の春分の日あたりから現在までの、実際に起きた出来事からヒントを得て制作をした作品で構成しています。この期間、コロナウィルスの蔓延はもちろんですが、長年住んだ場所からの引越し、事業を始めるなど、大きな環境の変化がありました。人生で最大級に落ち込み、落ち着き、感動し、思考した日々でもありました。未だに日常が非日常のようです。
花やハートなど幸福感のあるモチーフを選んで制作したことは、ふわふわした日常の中の精神的な安定剤となりました。

「オアシス」
昨年の最初の緊急事態宣言中、人生最大級に落ち込みました。あ、これはちょっとまずいかもしれない、と客観視した自分がいたことが少しだけ救いでした。結局数週間で取り戻し、むしろそれまで以上にとても健康になり、その頃の自分が今となっては羨ましく思うほどです。
その復活のきっかけは散歩でした。毎日心の赴くまま歩きまくっていました。幸い、近所には緑が溢れていたので、家から緑を伝って歩き、緑が途切れたら遠くに見える緑まで歩く、という様なルートでした。近所に小さな森を見つけ、そこには必ず立ち寄っていました。森に行くだけで、心の中の嫌なものが粉々になって解き放たれる様な感覚がありました。その経験から何か緑色のものを作りたいと考えたのが制作の素です。
最初のアイデアでは、小さな花が所々に咲いている草の群生を考えていました。草の表現を考えているうちに、チューリップの茎のようなものになり、このような形になりました。

画像1


「砂漠のチューリップ」
これはいただいたお仕事のボツ案です。とても気に入っているし、今の自分の気持ちに寄り添うような模様だったので、どうにか実現したいと思いました。あり得ない風景として思いついた「砂漠のチューリップ」でした。カラカラの砂漠で咲いているチューリップなんて存在したら、たくましくて可愛らしくて泣ける、だなんて。でも調べてみたら、チューリップの先祖は砂漠で発生したそう。固定観念とは怖いものです。色んなことを決め付けたくないと思って生きてきたのに、早速やってしまっていました。
今回は様々な形で「砂漠のチューリップ」を使っています。
砂漠を表す黒い点は、マジックで点描しています。この点描はとても時間がかかりましたが、花やハートを作るのと同様、メディテーションの様でもありました。

画像9

画像3

画像8


クッション、ティッシュは、怠け者で慢性的な鼻炎の私のおうち時間(笑)には必要不可欠の存在です。
一部「砂漠のコスモス&ひまわり」があります。これは散歩をしていて実際に見た風景です。砂漠ではないですが、コスモスの中にひまわりが咲いていて、季節が混ざっているようで驚きました。ただ、これもあちこちで存在する風景だそうです。

画像5

画像20


「tea time」
三色団子は最後にマスクをしないで人に会い、お茶をした時に食べたものです。西宮で出版記念展を開催した後、神戸の友人の家に呼ばれてお茶をしました。今思うと、一週間ずれていたら展示は開催できなかったと思います。そんな時期でした。でも、まだマスクをしている人はほとんどいませんでした。なんとなく気をつける感じで、新幹線の中ではマスクをした記憶があります。団子は展示の時に差し入れでいただいたもの。他にもテーブルには友人が用意してくれた神戸名物のりんごのチョコレートやパイやお惣菜、いろんなものが並んでいました。ただ楽しくて、疑いもなくこれからもこんな時間が続いていくだろうと思っていました。

クエスチョンマークはテーブルの上にあった、リンゴのチョコレートを意識しています。ここ最近、私のテーブルの上には常にクエスチョンマークがいます。何が答えなのか、正しいのかわからない。だけど、自分なりに判断していかなくてはならない日常です。

団子の乗ったお皿は、昨年の秋にアトリエ兼スペースをオープンした時に、お祝いでいただいたものを模しています。もうすでにあるものをなぜ布で作るのか。私にとってはこれは静物画なのかもしれません。

ピンクの飲み物は、留学時代の象徴です。ベリーの甘酸っぱい薄い味のジュースは、喉にちょっとイガイガが残るような、独特の飲み口でした。北欧では冬も温かいピンクの飲み物がありました。(温かいものはもっと赤い)外国にとても行きたいです。

テーブルクロスは「砂漠のチューリップ」柄です。

画像7

画像22


「風」
新しい風が吹いてきた、換気、外国の風に吹かれたい、などいろんな意味が混ざっています。

画像8


「happy sad マーガレット」
先ほどの落ち込み期間から復活した頃、それまで経験したことのない、落ち着きがありました。もう一人の自分がいて、自分を見つめているような感覚でした。ほとんどの時間、心も体も忙しいような人間なので、ものすごく驚きました。その頃の自分を「悟り期」と呼んでいます。
「悟り期」に考えたことの一つが「そこにあるだけ」ということでした。全てのものはそこに全て存在している。だけど、表に見えているものがその時々で違う、というようなアイデアです。
感情もそうなのではないかな?と思いました。
このハートの形の花弁には、「happy」と「sad」が両方存在します。表に「happy」があれば裏に「sad」が、その逆もあります。両方が表にも裏にもなりうる。
花占いの「好き」「嫌い」みたいに、気軽に花弁をもいでいただけたら。
余談ですが、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いなのですが、この考え方から言うと好きも嫌いも表裏一体なんだと思うと、ちょっと救われる気もします。

画像10


画像11


「homemade rainbow」
SNSで虹が出てるよ、虹を見たよという投稿をよく見かけます。それを見るなり、そそくさと外に出てはみるものの、一度も虹に遭遇することはできませんでした。寂しいので、自分で虹を作りました。これでいつでも虹が見られます。箱の中に入っている小さな虹は、文房具屋でペンの試し書きを切り取ったものです。

画像14

画像13


「colorful beaded carrot」
人参とビーズが、自分の精神状態を図る材料となっています。調子が良い時は、人参を千切りにした塩もみストックを作ることができるし、この地球上にいる人のことをビーズみたいだって思うことができる。調子が良くなくても、頑張って千切りするとちょっとだけ自分のご機嫌が取れたりします。
ビーズに関しては、時たま頭に浮かぶ風景があります。白い布が広がっていて、そこにいろんな色のビーズが点々と存在する。白い布がこの世の中で、ビーズが人です。ビーズは人によって色が違うけど、どれもきれいです。(ってSMAPの歌みたいですが。)
両方が揃ったこの人参はとても調子が良いものなのです。

画像14


「手作りカード」
人と直接会えない期間、久しぶりに手紙をよく書きました。その時に手作りのカードを送ることにハマりました。可愛いカードを売っている店が近所にはなかったし、まず出かけられなかった。材料と時間はたっぷりあった。カードだと普段描かない絵を気軽に描くこともできました。

人間の形をしたカードは通称「ディーバ」です。昨年の12月に2人の作家さんと一緒に人形展を開催した時に生まれたフェルト人形が素です。どうしても野暮ったくて、家にあったスパンコールをつけてみたら、外国のディーバ(例:アリアナ・グランデ、クリスティーナ・アギレラなど)のように見えて、とても可愛くなりました。気に入ってカードまで作ってしまいました。

画像15

画像16


「透明な箱」
カード同様、贈り物のやりとりがよくありました。(配達員さん、本当にありがとうございました。)箱が届く嬉しさといったらないです。箱は何が入っているのか、中身が見えないことがワクワク感に繋がると思うのですが、これは全て透けて見えています。あけすけです。

画像21

画像22

金色のモチーフが入ったものは、お金のイメージです。今一番囚われているものがお金です。囚われているものをモチーフにすることで、解放したいというのが狙いです。(よくその様なきっかけで制作します。)蛇は金運の神様だそうです。ちょうど先日絵をプレゼントしていただいたのですが、それにピンク色の蛇が描かれてました。その蛇に登場してもらいました。神様のご利益があると良いです。

画像17

クマがついているものは、友人から実際にもらった箱をモチーフにしています。黄色の箱で、フタはクマの模様でした。クマの周りについているカラフルな針金は実は文字になっています。その友人と一緒に制作したプロジェクトのキーワードにしていたものの一部です。「soft power」「pink air」「a lot of greens」「la la la」です。

画像21

ピンク色で丸い、花模様がついているものは、思い切り見かけがかわいいものを作りたくて制作しました。中身はアンバランスに小石の入った重りです。かわいいけど、実は内面が重ための女の子のようになりました。

画像19

緑色の水玉がついたものは、ジャン・ポール・エヴァンやピエール・エルメ(大好きです)といった外国の有名パティシエが考える抹茶のお菓子のようなエスプリを目指して作りました。

画像22


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?