青春の欠片


約二年ぶりに母校の門をくぐった。 


 校舎は全然変わっていなくて、でも私たちが使っていたロッカーや教室の配置なんかは変わっていて。ずっと変わっていなかった制服も少しだけ変わったし、職員室に書かれた名前も多くが知らない人になってしまっていた。

 懐かしい教室。走り回った廊下や、階段。暗くなってからみんなで寝そべって眺めた吹き抜け。私たちが過ごした時間は確かにそこに残っているけれど、それは思い出の残滓でしかない。その場所や時間は、もう顔も知らない後輩達のものなのだ。

 時々すれ違う後輩達の顔、校舎に響く様々な部活の音。もう戻らない日々が悲しくて痛くて、それでも変わらない場所が嬉しくて慰められるようで、不思議な心地がした。代々夏休みに来てくださっていた先輩方も、こんな気持ちを抱えていたのだろうか。



 それなりに裕福な子達が通い、外部生をほとんど採らない中高一貫女子校という温室で過ごしたゆるゆるとした時間。あの時こうしていれば。もっとこれをすれば。もっと、もっと毎日を噛み締めて大切にしていけば。そんな後悔は尽きない。でも、確かにいつか終わってしまう温室暮らしであることを忘れていたけれど、それでもその瞬間の私は間違えなく辛かったり嬉しかったりした日々を精一杯生きていた。 

 きっと今こうしている瞬間の私も、未来の私にとって懐かしさや後悔を生む時間になるんだろう。それはきっと、どんなに頑張ってもそうなってしまう。振り返って眺めて後悔することは簡単で、渦中にそれに気づいて断つことは難しい。そしてそれすら含めて、未来の私が抱く懐古の一つになる。

 そうやって、時間を一つ一つ積み上げて、ぽろぽろと忘れて、きっとこれからも私は生きていくんんだろう。

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