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D4DJとは何だったのか ~Merm4idのライブ活動を中心に~

D4DJプロジェクトの着地点を見据えて

2024年3月時点で、D4DJはプロジェクトとしてどう着地すべきかを見定めるフェーズに入っている。というのは私の下世話な勘ぐりであるが、たぶんブシロードの経営層はおそらく2年前ぐらいからそういうことは当然考えていると思う。

ここでは、2020年からMerm4idのライブ活動を追いかけてきた立場から、D4DJとは何だったのかについて考察する。

前日譚

2017年4月、私はある情報に心を動かされていた。
”転校少女歌撃団の濃厚接触チェキがすごいらしい”

※URL埋め込みではなく画像で表示している。投稿内のURLは管理人放置によりドメインが失効し、その後に別業者が買っており、現在は詐欺ページになっているので注意

このときは、転校少女歌撃団が新体制となってシングル曲「この世界にサヨナラして」をリリースするタイミング。2016年に解散したGALETTeの元メンバー古森結衣の加入とともに、GALETTeの代表曲「じゃじゃ馬と呼ばないで」も持ち曲に加わっていた。新曲の雰囲気に惹かれた私は、2017年4月27日、AKIBAカルチャーズ劇場の定期公演に足を運んだ。そこでルックスの良さ、歌唱力の高さ、特典会の熱量に感じるものがあり、その後約1年間、転校少女歌撃団のライブに足繁く通うようになった。

いろんなメンバーとそれなりにチェキも撮った。サインチェキ3000円と、このクラスのアイドルグループとしては強気な価格設定だったけど。徐々に売れていくにつれて、チェキ撮影時のレギュレーションが「握手に準じる接触まで」となったが、それでも全然構わなかった。

2018年4月28日のライブで古森結衣、松本香穂、栗田恵美の3人が卒業した。グループの名前も転校少女*に変わった。この時点で、区切りにしようと思った。1年前に感じた「この場所から何か起こるかもしれない」というワクワク感は薄れていた。その後は1年に数回ライブを見る程度になった。

2019年4月30日の渚まおの最後のライブは見にいった。
2019年11月16日の岡田夢以の最後のライブは見なかった。

Merm4idとの出会い

2020年2月、スマートフォン用リズムゲーム「D4DJ Groovy Mix」(以下、グルミクと呼ぶ)の体験版が配信され、それに合わせて様々な宣伝活動が展開された。岡田夢以が声優活動をしているのはうっすらとツイッターで見ていたものの、ほとんど気も止めずにいたのだが、「実は大型コンテンツで役をもらってたんじゃん」ということに気づき、注目するようになった。グルミクの体験版は彼女が演じるキャラクターである水島茉莉花のスクショを撮ったあと、数回プレイしてアンインストールした。

4月にはD4DJ 1st Album「Direct Drive!」の発売があり、それにあわせて供給された映像を見ていく中で「これは・・・なかなか・・・刺激されるものがあるな・・・」と、気持ちが高まっていった。

その後は、配信ライブをみたり、メンバー4人が出演した水着イメージビデオ(実写)を買ったりしていたが、2020年10月11日に東京ガーデンシアターで開催された「D4DJ D4 FES LOVE!HUG!GROOVY!!」で初めてMerm4idを見て、それ以降ライブにマメに通うようになった。

この間、若干複雑な気持ちもあった。それは「岡田がアイドルグループを辞めたのはブシロードに引き抜かれたからじゃん」という背景がぼんやりと見えてきたからであった。

ただ、転校少女*は2019年以降、新メンバーが入ってはすぐに辞める、ということを繰り返した後、2022年1月に解散している(この時のライブは見に行った)。グループのリーダーであった岡田が抜けたことがグループ内のバランスに影響した面もあるかもしれないが、結果論としては、アイドルを続けていてもその先が開けていなかった。2019年に辞める決断をしたのは彼女の芸能人生を考えるうえで間違いではなかったと思う。彼女はその後、元の芸能事務所に籍を残しつつ、業務提携という形でブシロードグループ会社の事務所に所属することになった。

ちなみに、転校少女*が解散した時点のメンバー構成は2014年結成時からの塩川莉世、松井さやかの2人と、2020年に加入した成島有咲、佐々木美紅の2人の合計4人。その後、2022年3月から転校少女*の曲を引き継いだ後継グループとして「Girl's Time」が始動した。成島、佐々木と3人の新規メンバーを加えた5人構成。しかし、2022年8月に2人辞め、2022年9月には残る3人も辞めてグループは活動休止となった。


D4DJの歴史的文脈

D4DJのコンセプトは、2017年にブシロード会長(当時)の木谷高明がシンガポールでDJプレイを見て思いつき、都田和志にプロジェクトを進めるよう指示した、ということになっている。ただ、アニメ系企業のメディアミックス展開として、「美少女キャラ+アイドル活動」、「美少女キャラ+ロックバンド」、「美少女キャラ+ミュージカル」などと組み合わせてきたら、次はDJプレイの領域を攻めるのは自然な流れであったと思う。

EDMの市場規模は2010年代前半に急成長し、Forbesの記事によると、2013年に最も伸びた。日本ではULTRA JAPANとelectroxがともに2014年に初開催され、EDC JAPAN が2017年に開催されるなど、2010年代後半にかけて各地でDJプレイで音楽を楽しむEDMフェスが開催されるようになった。

女性地下アイドル業界においても、2015年ごろからDJ+多人数MCスタイルのグループが一定のファンを獲得した。また、アニメソングを専門にかけるクラブイベント、通称アニクラも2010年代を通して徐々に市民権を得てきた。

当時も現在も山ほど作られているであろう「美少女キャラ+◯◯」の企画書のなかにも、おそらくDJをテーマにしたものもいくつかあっただろう。

D4DJは、このようなDJイベント/EDMが日本へ浸透していった背景のもとに生まれてきたといえる。

社運をかけた戦い

ブシロードは、D4DJの広告宣伝費用として巨額を投じてきた。駅貼りのポスターやラジオ局のレギュラー番組枠を買うといった施策に加えて、一番印象に残っているのは、2020年10月28日にTBS系列で20時から2時間スペシャルで放送された
「D4DJ presents CDTV特別編 みんな歌える!神プレイリスト音楽祭」
である。

ゴールデンタイムの時間帯に、いわゆるテレビタレントたちと声優ユニットの共演。「スポンサーが送り込んできた子たちだから扱い難しいなあ」という共演者の心の声が聞こえるような番組であった。

その次に思い出されるのは2021年1月1日22:00-翌10:00まで、TOKYO MXの枠を買って12時間の番組を流したことである。

社運をかけている以上、新日本プロレスや「BanG Dream!」(以下、バンドリ)といったブシロード自社イベントへのゲスト出演は当然に行うし、2021-2023年のAnimelo Summer Live(アニサマ)への出演(Merm4idは2022年に出演)も、ブシロードの協賛金の対価であろう。

ただ、広告宣伝の攻め方の問題なのか、ゲーム、アニメ作品の質の問題なのかはわからないが、というかその両方の結果なのかもしれないが、その後、D4DJは会社の売上の主力になるようなコンテンツにはならなかった。

Merm4idのライブパフォーマンス

歌って踊れる女性声優はなんぼあってもいいですからね~

と言った漫才師がいるわけではないが、大型コンテンツを展開するにあたっては、まとまった数のキャストが必要になる。D4DJには
・ブシロードのグループ会社の声優事務所に所属しているキャスト
・バンドリなどの既存のコンテンツで付き合いのあるキャスト
・新たに発掘したキャスト
がいる。
Merm4idについていうと、葉月ひまりは自社所属声優、平嶋夏海はプロデューサーの都田和志が直接声をかけ、根岸愛はプラチナムプロダクション所属タレントに向けて開催したオーディションで発掘した。岡田夢以については人づてに紹介されて、都田が転校少女*のライブを見に行ったことがきっかけと話している。(その後オーディションを経たかもしれない)

4人ともグループアイドル経験があり(平嶋[2005-2012]、根岸[2009-2018]、岡田[2014-2019]、葉月[2017-2018])、特にフロントの平嶋、根岸、岡田は歌や踊りといったスキルもさることながら、ステージ上から放射するエネルギーの強さが印象的である。

Merm4idの楽曲は深く考えないほうが楽しめるようにできているので、ライブの魅力については言葉を尽くして語るよりも「映像を見て感じたことがほぼ全て」である。

歌衣装は2020年1月-2021年8月はオレンジを基調とした衣装、2021年12月から2024年現在までは白と黒を基調にした衣装を使っているが、初代の衣装のほうがオススメ。岡田夢以の腰を使った振り付けの美しさが際立つ。アニサマに出演したのは2022年で、衣装切り替え後の時期ではあったが、オレンジ衣装で出演した。

歌詞から感じるコンテンツビジネス楽曲の限界

そんな中で私がモヤモヤしていることもある。
一言でいうと「オタクが傷つかない程度に制御された”奔放な女子大生"像がキモチワルイ」となる。

D4DJは大規模な美少女コンテンツであるからして、たくさんいる登場人物のキャラ付けが被らないように特徴をマッピングしていく。Merm4idの4人に設定された属性は「パリピ女子大生」

2020年発表の楽曲については歌詞に引っかかりを覚えることはなかったが、2021年以降、いくつかのワードとテーマについて「なんだかなー」と思っている。「クリぼっち」(『HOLY WORRY』)、「リセマラしたいよ おたおか激しめ リムしたい!」(『NO-NO』)、「(清潔+笑顔)xちょこっと露出÷あざとさ=lovely!!!」(『lovely!!!』)などの文字列から私が感じることは、中年男性の作詞家がちょっと無理して書いている姿である。

曲中の彼女たちはイイオトコに巡り合えず、ダメオトコの言動に不満を漏らす日々を過ごしながら、結局、女性同士でクラブで盛り上がっているのでオタクも安心である。「派手に見えるけど、オクテで王子様に見初められるのを夢見てるオンナノコ」にしないとユーザーからの支持は得られないんだろう。歌詞に使う言葉もコンプラ遵守なのも「大手企業はしっかりしてるなー」という印象。

私の性癖(※性的嗜好のほうの意味)の話ではあるが、「きのう寝たオトコはハズレだったな。次いってみよ」と言うぐらいのキャラクター造形のほうが刺さるので、これは残念な点であった。

そんな中、2023年以降は肉体の匂いを感じるような楽曲も出てきており、いい傾向もある。

ブシロードコンテンツとライブルールと観客

ブシロードは過去の様々なライブにおいて迷惑行為と戦ってきた歴史があり、ライブレギュレーションを整備してきた。ライブ前の注意事項アナウンスの中には「それぞれが高い意識を持ってコンサートに参加してください」というフレーズもある。

アニメ系コンテンツのコンサートの観客は
A 決まった動き・発声を忠実にこなそうとする層
B 自己顕示欲を爆発させてカマしてやろうとする層

のどちらかであり、それ以外が少ない。例えばロックフェスの観客のはっちゃけ具合をグラフにすると正規分布になるのに対して、アニソンフェスは山が2つできるような感じである。そして全体の平均点は高い。
大手のアニメ系企業が主催するライブイベントについてはBの層をなるべく抑えようとして各社試行錯誤している。

また、アニメ・声優ライブ(女性ボーカル)は、2000年代、10年代を通じて
1 アイドル風ポップソング
2 疾走感ロック
3 電波ソング

といった要素で主に構成されており、D4DJがターゲットとしている層の原体験にもこれらの音楽がある。

その状態でEDMを聞かせても、当初は「観客側の作法がわからない」という雰囲気を感じていた。さすがに数年もすると、ライブに来る人は音楽性に付いていける人ばかりである。ただ、自分たちが慣れ親しんできた文法に落としこんで参加意識を高める、という人が多いかなと思う。
具体的に言うとフリコピを頑張るとか、曲ごとに"適正な"ペンライトの色を覚えるとかである。観客側の"統制が取れている"ことに重きを置く価値観によるものもあるだろう。

もちろん、文化は現場にいる人で作りあげていくものだし、ソニマニにいるようなヤツらの真似をすべきということでは全くない。かくいう私も2012年頃は水樹奈々や田村ゆかりのライブブルーレイを家で流しながらペンライトの振り方とかコールのタイミングを何度も練習してからライブに臨んだ記憶があり、そのときの達成感は良い思い出である。

ただ、EDM/HIPHOPの文化もある程度輸入したり、自由な楽しみ方ができるような仕掛けをしたほうが私は楽しかったな、思った。その際には既存のレギュレーションとのすり合わせとかゾーニングも必要だったろうが。

以下は私の好きなライブ動画である

治安が悪いほう

治安が悪くないほう

DJユニットの必然性

これまでMerm4idのライブについて書いてきたが、D4DJ全体に関することとして、「DJユニットである意味がない」という問題がある。

意味をあげるとすれば、踊りの負担の少ない声優を各ユニット1人か2人おいておける、ぐらいであろう。
ライブ中に実際に楽器を演奏しているバンドリの声優と違って、D4DJのライブで使う楽曲はDJ卓においてあるCDJ-2000NXS2から流れてくるわけではない。USBメモリは刺さっているが、ライブ中の映像を見ると、DJM-900NXS2のインジケータは動いていない。曲をかけるのはPA卓にいる音響担当スタッフの仕事である。

もちろん、ほかの音楽ユニットでも、小さなクラブでライブするときにはDJ卓から音源を流していたのに、会場が大きくなるにしたがって音響スタッフが流すようになったグループもたくさんあるだろう。ただ、それぞれの音楽グループには何かしらの「DJがいる必然性」があるのに対して、D4DJにおいては、尽きるところ「DJを入れたユニットをたくさん作らなければいけない」という制約によって生まれたものゆえ、それ以上の意味合いを感じられない。(あくまで現実のライブの話としては、である。そもそもライブ中はキャラクターを演じているものであり、ゲーム内のストーリーやアニメ作品の中では意味があるのだろう)

D4DJのこれから

冒頭に書いたことと繋がるが、多くの予算をかけるフェーズは終わり、これからは”身の丈にあった”事業運営を模索していく、あるいはすでにしているものと思われる。2024年3月時点で、グルミクの開発体制の縮小やラジオ番組の終了が発表されている。私はライブ部分にしか興味がないが、そちらにも影響は出てくるはず。

たくさんいる出演声優の中には、「ブシロードが社運をかけて立ち上げたプロジェクトのオーディションにせっかく受かったのに思ったほど・・・」と思っている人もいるだろう。前述のとおり岡田夢以は芸能人生での勝負をかけてこの世界に飛び込んできた。もし、何らかの節目があるのなら、派手に花火を打ち上げてブチ上げよう