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短編小説「花火師」

「小っせくなったなぁ」

立花清は、打ち上げられた花火を見て呟いた。
細く黒い腕にはいくつも火傷の跡と共に、汗が光っていた。

昔の花火は、もっと大きかった。
音も光も、今よりも何倍も大きく、厳かで、荘厳で、轟轟としていた。星の粒が何億も同時に光ったと思えば、心臓を撃つような衝撃と共に、破裂音が響いたのだ。
今や花火は、街のビルや車が放つ光ですっかり目立たなくなった。音も街に溢れ、花火の威厳は失われた。

立花は花火師として、最後の仕事をこなそうとしていた。

立花の生まれ育った村では、昔から花火作りが盛んだった。小さい頃から大人達を真似て材料のくずからおもちゃの花火をこさえ、火薬に親しみ、火傷と共に育った。
春になると、夏祭りの依頼に応えるため一気に村中が忙しくなる。
花火は湿気てしまうとダメになるため、作り置きはできないのだ。

立花の親もまた、花火師であった。名人と呼ばれる作り手も珍しくない中、村では目立たぬ作り手であったが、失敗のない丁寧な花火を確実に作るとして顧客から重宝されていた。

立花は当然のように親の跡を継ぎ、花火師となった。しかし、時代と共に花火は人々の目から薄れていった。小さな祭りは減り、祈りの祭典は廃れ、有名な祭りが生き残った。花火もまた、同じ運命を辿っていた。

立花は弟子を取らなかった。そして、村に残る花火師は立花を残すのみとなった。その立花が、最後の仕事を迎える。



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