Skipping Stones 歌詞解釈
みなさん、石の水切りはご存知ですか?
おそらくやったことのある人も何人かいると思います。
石の水切りとは、川や湖の穏やかな水面に向かって薄い石を並行に投げ入れ、うまくいくと水面で石が何度か跳ね、波紋を描くことです。跳ねる回数を競ったりもします。
この曲の名前は물수제비(石の水切り)
しかしただ単にこの遊びについてを語っている訳ではありません。
この冒頭の歌詞で曲の登場人物は「君」と「僕」
そして二人は水切りが好きであることが分かります。
しかし、好きだと言っておきながら石の水切りをする時間を「辛い時間」だと語ります。さらに、辛いにも関わらず君は一つ、また一つと石を握るのはなぜなのでしょう。
このあたりで曲が語っている石の水切りはただの遊びを指している訳ではないことが見えてきます。
「感情」という言葉が出てきたことで、穏やかな水面が水切りによって荒らされる、つまり水面の状態は君の「心」を隠喩しているのではないかと分かりました。
それを踏まえて先程からの歌詞を振り返ってみると、新しいことに気が付きそうです。
水面=心
であるのならば、新たな石を手に取るのは、「君」は日ごろか辛い感情を抱えていることが多く、辛い気持ちが癒える前にまた次の辛い感情が押し寄せてきているのではないでしょうか。
サビの部分ではやはり傷を飲み込んで(傷が付いた)荒れた心と水切りによって波打つ水面を並列させています。
水切りによって波打った水面もいずれ静まるように、傷付き荒れた心もそのうち癒えていくよという優しいメッセージを持っています。
「君と僕」はよく水切りをしているようです。歌詞から読み取るに、「君と僕」にとって水切りは日常で消化しきれなかったモヤモヤとした感情を発散するものにもなっているようですね。
しかし、自ら水面を波打たせるなんて、一種の自傷行為だとも思いませんか?
それを普段から行っている「君と僕」の不安定な心模様が垣間見えます。
二番に入り、君と僕の心はやはり毎日不安定で、心の奥には痛みが沈んでいると言っています。
心に残る未練は投げ捨てているつもりでも奥深くには残っていて、その未練が二人を暗い気持ちにさせているようです。
しかしそんな状況でも二人は生きることを止めず、お互い息をして海へと向かうようです。
ここでいう「あの海」って何でしょうか。私も最初ピンと来なくてずいぶん考えました。
海には波があって、水切りができないですよね。つまり海に着いてしまうと彼らの心を支えていた水切りという行為ができなくなってしまう。しかし、彼らが水切りをしている川というものはいずれ海へと流れます。
海へと向かうということは水切りをしなくてもいい世界、水切りをしなくても自分の心を保てるようになる、つまり「成長」を表すのではないでしょうか。
この部分は私が本当に好きな歌詞です。
「胸がいっぱいになる」って感動したときとかに使いますよね。そこでちょっと調べてみました。
喜びだけじゃなく、悲しみでいっぱいの場面でも使うようです。今回はそっちの意味が近そうです。
悲しみでいっぱいになった今日の君を、僕は抱きしめて慰めてあげたいと思っているようです。
歌詞からも読み取れますが、傷つきやすく不安定な「君」のことをずっとそばで見ていたのは「僕」ですよね。きっと僕は君のことが大切で、大好きで、君の苦しみ、痛みを背負いたいと思うほどに優しい人物なのだと思います。
波の上に触れる と言っているのでどうやら君と僕は海に着いたようです。
先程、海に向かうことは成長を表していると述べました。その上で解釈します。
成長にはとても勇気が必要です。
そして成長する時期の心とはとても繊細なものです。「君」はたった今、成長しようとし、それを前にして恐怖や不安で震えています。
「僕」はそんな君の手を握ってあげるから、と君を安心させようとしています。
やはり「君と僕」はおたがいにとってかけがえのない存在なのですね。
そしてラスサビです。
ここまでの歌詞を振り返ってから聞くと、なんだか二人は自分たち自身に言い聞かせている気がしませんか?
2人は日常のやりきれない出来事や感情を、一緒に水切りをして収めようとしているんです。実際はそんなことをしても収まることなんてないし、現実は変わらないのに。
でも二人は「いつもそうだったように いつもそうしてきたように」と何度も言い聞かせて、水切りをします。
一種の自己防衛なのかもしれないですね。
曲としては成長という前向きな内容を歌っていますが、果たしてこの二人は今後幸せなのでしょうか。
TXTの曲には前向きに見えて実はそうでないものがあります。この曲もそうなのでは?
決して2人が救われるとは思えない歌詞がより、切なさを感じます。
こんな素敵な歌詞を書けるHanroroさんはもちろん、インディーズロックの雰囲気を壊さず歌い上げるTXTの表現力の高さに圧倒されて、聴くたびに涙があふれそうになります。
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