今日という日を思い返した時にまず「暑い」しか出てこないなんて、どうして僕の記憶はそんなに貧しいのだ。

昨日からAmazonの配達が来るのを待っていて、いや待ってはいなくて、どうせ家にいる時間には来てくれないだろうと思っているからとっとと家を出たし、帰ってから再配達を頼みたいのだけど、そこで本を受け取れるのを楽しみにしている。5冊くらい買ったうちの1冊はもう届いていて、ヴァージニア・ウルフの『灯台へ』で、渡部直己が必読だと言っていたから読もうと思って買ったのだけど、中古で買った割にとても綺麗な本で、岩波文庫にあった古臭いイメージが刷新される感じがあった。昔は講談社文庫の装丁が好きだったけど、だんだん新潮文庫のほうが洒落てると思うようになってきて、岩波文庫もこのことではっきり好きになった。装丁がいい本はそれだけでいい。なんたって本はテキストデータじゃなくて「物」なのだから。

岩波文庫を好きになってきたのは、まえにゴーゴリの『外套』を読み終わって、いまカフカの『審判』を読んでいて、それらが岩波文庫だからというのもあるかもしれない。ベケットに次いで不条理文学を読みたくて、保坂和志がベケットとカフカを並べていたから、カフカはいいなと思ってカフカにした。ベケットとカフカは、どちらも不条理文学と呼ばれるジャンルのものだけど、ずいぶん手触りが違っている。ベケットは掴むものの空虚さを感じる文章だが、カフカはとてもごつごつした文章だ。細部を描写することで遠景に巨大な怪物の影を朧げに投射するのがカフカだ。

昨日もカフカを読んでいたのだけど、昨日は炎天下の高円寺をふらついていて、古着屋だのなんだの見て良いなあと思いつつ、手持ちのお金がなくて買うまでに至らず、欲求不満のまま喫茶店を探していたのだが見当たらなくて、最終的にはサンマルクカフェに入った。暑かったのでスムージーを頼んで、しかし空いている席に座ったら、そこが空調の風が当たる席だったのか異様に寒くて、でも本を読もうと思って入ったものだからなんとか粘って本を読んでいたのだけど、さすがに身体が冷え切ってしまって耐えられなくなって、1時間くらいで店を出てしまった。

昔は冷房が強かろうが寒いなんて思うことはなかったのだけど、近頃は寒暖差に身体が堪えられない。18歳くらいからそうした「もう若くなさ」みたいなのを徐々に突きつけられてきたが、これもそのひとつだ。これが死ぬまで続くのかと思うと嫌になってしまう。とまれ、店を出たものの、やっぱりもうちょっと本を読む場所みたいなのが欲しくて、しぶしぶネットで検索したりして見つけたのがアール座読書館だった。

「静寂を楽しむ空間」とのことで、静かにしましょうということだとは思っていたけれど、満席で、店員さんの「空き次第連絡するので名前と電話番号を書いてください」というのを、まさか小声で言われるとは思わなくてびっくりした。とりあえず名前を書いて外へ出てふらふらして、しばらくして電話がかかってきたが、電話まで小声だったものだから驚きの徹底ぶり。ただし何を言っているのかまったく聞こえなかった。推測で「いまから向かいます」と言った。席についてからは『審判』を読み進めて、たまに漫画を読んだりするだけの時間だったが、注文したカルダモンココアがハイパー美味しかった。