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ゲーム実況者・KUNはなぜ炎上しないのか

YouTuberで元プロゲーマーのKUNは登録者130万人を誇り2021年上半期の再生数ランキングで11位につけている超大手配信者である。そのランキングを見てみよう。

【2021年上半期 チャンネル総再生数TOP20】
1位 9億1511万 Junya.じゅんや
2位 5億6527万 まいぜんシスターズ
3位 4億4264万 東海オンエア
4位 3億5903万 コムドット
5位 3億154万 Fischer's-フィッシャーズ-
6位 2億5464万 48-フォーエイト
7位 2億4785万 CANACANA family
8位 2億3460万 ひろゆきの部屋【切り抜き】
9位 2億3256万 もちまる日記
10位 2億1118万 HikakinTV
11位 2億1010万 KUN
12位 2億569万 佐伯ポインティのwaidanTV
13位 1億9965万 ヒカル(Hikaru)
14位 1億9703万 キヨ。
15位 1億9362万 ウォーターチャレンジ
16位 1億9047万 ひろゆきのマインド【#ひろゆき #hiroyuki】《切り抜き》
17位 1億8964万 THE FIRST TAKE
18位 1億8445万 ジェルちゃんねる
19位 1億8407万 HikakinGames
20位 1億8006万 外務省 / MOFA
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000215.000015232.html

おそらくこれをご覧になってほとんど知らないよという方も多いと思うので、トップ10に入っているチャンネルを解説すると、1位2位は広告の付かないショート動画がメインのJunyaとまいぜんシスターズで、7位のCANACANA familyも含めてこの辺はTiktok的需要を取り込んでいるため再生数が高めに出ている。

また東海オンエア及びFischer'sという鉄板人気のワイワイグループ系とその後続であるコムドットもランクインしている。48-フォーエイトはTiktok発で音楽系グループチャンネルなので両者のいいとこ取りをしているイメージだ。ショート動画系は今年に入って機能が拡充されたため、追い風が吹いている。

コムドットは水溜りボンドらと共に自粛破りのどんちゃん騒ぎで炎上したばかりだ。ひろゆきも論点ずらしが祟ってバッシングの対象になったし、Hikaruはだいぶ前にValue騒動で謝罪に追い込まれている。これらを除けば基本的に他の上位YouTuberはクリーンな内容でやっている。

では再生数ではHikaruを凌駕しHikakinTVやひろゆきの切り抜きに迫っているKUNは何者なのか。基本的な動画スタイルは視聴者参加型のマインクラフト実況プレイ「50人クラフト」である。noteでの言及はほとんどなかったが以下の記事を引用する。

「50人クラフト」は必ずしもマインクラフトの真髄の楽しみ方を提供しておらず、そこで繰り広げられる人間ドラマが最大の見所となっています。YouTube内でケンカをした二人はその後、SNSでどういうやりとりをするのだろう?新人に対して古参の参加勢はどのように接触を図るのだろう?と、様々な見方で楽しむことができ、まるで、群像劇のようです。
 KUNが裁判長となり、トラブルの原因となった参加勢を配信中に呼び出し、取り調べ、裁判、さらには追放(BAN)までを全て垂れ流すことでトラブルすらもコンテンツ化させてしまうのです。これも「KUN」と言う絶対的な存在が参加勢にとっての「憲法」であり「神」であること、いつでもBANされてしまうことを承知で参加していること、さらには、その参加勢をBANしてもまた新たな参加希望者が大量に順番待ちしているため、出演者確保に困らない、という余裕がKUNにあることが理由です。

視聴者参加型であることによってローコストでバラエティ番組やリアリティーショーのようなコンテンツを量産できているという的確な分析である。このようなシステム的な側面についてはこの記事を読んでいただければいいだろう。今回は動画のネタの内容に触れた上で、KUNコンテンツのガラパゴスな生態系を俯瞰していきたいと思う。

視聴者参加型のメリットは延々とネタが供給され、参加勢のSNSを追うことによってリアリティーショー的な裏側も楽しめるといった部分だが、デメリットは芸人やプロではないために奇行に走ることによって面白さを演出しようとするところにある。これはKUNの動画内容に如実に表れており、随所に差別や偏見をネタとして扱う加藤純一的な不謹慎さが垣間見える。

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これは国名当てゲームをした際に、参加勢(マイクラに参加している視聴者)の一人 kono_a(以下この)が「名前(国名)知らないからとりあえず黒人作った」として二人の男女の像をマインクラフト内で表現し、これを見て macyakari_5 が「タイ」とボケを重ねて解答するシーンだ。このがお題として与えられたのは「ソマリア」だが、エスニックジョークとしてはかなり酷いものだし、現実で厚い唇がポリコレに抵触してキャンセルされた例も枚挙にいとまがないことを鑑みればアウトであることは間違いない。

これは決して悪意ある切り抜きではなく、KUNの動画にはこの手の差別や偏見に満ちたネタは無数に散りばめられている。他に私が気になったものは、落ち着きがない動きを頻繁に「ADHD」と表現したり、「新興宗教」いじり、最近だと「ゲーム内に再現されたイスラエルの街をアイアンドームで爆撃する」ネタ等である。「反ワク」ネタは広告が剥がされるため自重しているようだ。やりたい放題に思えるが一方であるある系YouTuberちくわと同様政治系には配慮しており、独自のバランス感覚を見せている。あるサイトにKUNをよく知る視聴者によってこんな意見が投稿されていた。

エストロゲン太郎 ( 男性 / 20代 ) 
”kunのブラックユーモアは絶妙なバランス感覚があり、まず一線を越えることはなかったが、それを履き違えた参加勢は過激であれば良いと思っている方も多いらしい。結果、見ていてハラハラするだけで不快な笑いの取り方が増えた。その笑いの中には何かイデオロギーのようなものを感じることもなく、差別的なものも多い。さらにタチが悪いのは最近の50人クラフトから見始めたファンたちはそういった下品な笑いを「過激で面白い。これがkunコンテンツの面白さだ」と本気で考えている層が一定数いることだ。差別的なことを面白いことと捉えている層の存在はおぞましいことだし、それに何の見解も注意も与えないkun自身にも非常に問題がある。”
https://tuber-review.com/youtubers/509?page=1

まったくその通りだ。130万人登録者で再生回数日本11位のチャンネルとは信じがたい倫理観である。普通、これほど大手になった配信者は前述の通り何らかの炎上によって洗礼を受け、方向性の修正を余儀なくされる。しかしながらKUNは、その「影響力が高まればその責任もまた増大する」という炎上の論理の埒外にあるのだ。それはなぜか。

まずひとつが①内輪ノリに徹しているという点だ。実は10人以上の動画編集者を抱え毎日20分程度の動画を4本以上投稿しているため1本辺りの再生数は他トップチャンネルに劣る。ここで少数のコアな視聴者がカウンターを回しているという構図が浮かび上がってくるだろう。参加勢同士の人間関係などハイコンテクストな面白さが売りでもあるため、本当に好きな人しか追っていない、もしくは追えない。

つい最近、視聴者の一人がコレコレにKUN界隈の不祥事をタレコミするという事件があった。その内容は「参加勢の一人このがタクシー代わりに救急車を呼んだ」という旨のものであったが、界隈内では大問題として取り沙汰されていた一方で、コレコレの反応は冷ややかであり、「ゲーム界隈の人ってムーヴとかGGとかなんやねん気持ち悪い」と一蹴した。私たちの見ている世界とKUNワールドはリアルと二次元くらい価値観が違うため、カルチャーギャップによって界隈内の炎上が延焼しにくく、逆に発見されづらいのだろう。

もうひとつが②生配信と動画配信のプラットフォームが違うことである。KUNのスタイルはMildom(Twitchのような配信サイト)の生配信で撮影したものを編集してYouTubeにアップするのが基本だ。マインクラフト配信者のふたばチャンネルも全く同じ方法を取っている。これによって生配信での完全アウトな内容を編集によってある程度マイルドにして提供していると考えられる。ここに炎上ばかりの加藤純一との差がある。自ら切り抜きを行うことによって、悪意ある切り抜きが介在する余地を潰せている。

KUNコンテンツがポリコレによって漂白されていく世界で表現とコミュニティーの最前線にあることは聡明な読者ならば気づいたことだろう。あえて内輪ネタとハイコンテクストに特化することで、YouTubeの中でさえ見つからずにギリギリのネタを提供できている。

しかしKUNがこれからリアルYouTuberとして参加勢のリアル売りを加速させていくのならば話は違ってくる。ちょうど今月、このとよしこちゃんが参加勢として初めてチャンネル登録者数10万人を突破したところだ。両者ともにKUNと同様に顔出しをしており、そんな参加勢の存在感が大きくなればなるほど、みんなゲームの中のキャラクターではいられなくなっていくし、KUNの不謹慎なブラックジョークも許されなくなっていくはずだ。今後の展開に注目したい。


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