特に印象的な、【金森】と【中嶋】に関するいくつかの記憶の記録(2/2)

このテキストは (1/2) から続く

双方とも敬意を払うべき友人だが、敬称は略す。
 趣味のサイクリングに於ける、特に印象的な2名に関する話だ 

 【中嶋】

 話は遡る、ついでに荒川も遡るとその場所に至る

 河川敷で無賃乗車する輩を、1分毎にスプロケットを一段ずつアウター側に変速して置き去る事が出来た頃の話だが、感嘆符と括弧書きの注釈は省く

【中嶋】とは共通のウェブサイトに出入りしており、やがてオフラインでも交流を持つようになった。長身痩躯で登りにのみフォーカスした、きわめて爽やかな、謙遜がちな人物に見えた

当時の僕は非常に良く走り、よく登った。【中嶋】とはその後回数を重ねて走ったが、彼より前を走るのはたいてい僕であった。加減せずやってやったのだ

その日までは 

【中嶋】は次第に登りだけでなく、平坦でも速く走ろうという意欲を示すようになった。そうする為にどうするべきかを互いに思案し、休憩を挟んだ川島町のコンビニエンスストア(だったと思う)で気付いた事を彼に伝えた

伝えたことをしたたか後悔するほどに、その平坦な土地での休憩を分水嶺に。【中嶋】は僕の前ばかりを走るようになった。些細な気付きで、人間は大きな変化を果たす

変化でなく、個の進化の瞬間に立ち会ったのだなとも思う。その後、僕は舗装路以外を訥々と走るようになり、【中嶋】は舗装路を粛々と走り続けた

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【中嶋】と久々に邂逅したのは冬の昼の時間帯だった。彼は早朝から走り、僕は空気がやや温まってから走る。取り返しのつかない時差が生じたが故に再開を果たしたのだ。久しぶりに会う彼は破顔とともに、「あんなところから這い出てくる人間は他にいない」と告げた
(僕は荒川の土手下から這い上がるようなサイクリングばかりを為すのだが、その様子に確信を以ての事だ)

【中嶋】の近況は粛々と走り続けた結果そのものだった。広く知られるヒルクライムレースでは、上から数えてすぐのリザルトに名を連ねていた

【中嶋】と会うたびに話すのは件の分水嶺の事だ。彼は下ハンドルを握る際に肘を曲げずに走る癖があり、僕は肘を曲げて前傾を取るのが良いと伝えた。それだけの事だ

あれがターニングポイントであったと【中嶋】は言う

それは、真っ先に後塵を拝した僕が良く知る事実と一致している

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