音はその手に掴むことはできない

ごきげんよう、青の半纏です。

昨今話題のMusicFMにまつわるお気持ちスクショツイートは、ボク個人としては興味がないんですが、周りが吹き上がっているのでイヤでもチラチラ視界に入ってきます。

そんな折、自分は極めてタイムリーな読書をしていました。

誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち (ハヤカワ文庫 NF) https://www.amazon.co.jp/dp/4150505187/ref=cm_sw_r_cp_apa_i_SRH8Cb4XF15QT
文庫版もあるし、Kindleなら73Pまではタダで読めるそうです。(ここでタダの話をするのも皮肉めいてますけど、そういうわけではない)

この本はタイトルの通り、音楽がタダになった有り様を描いているわけなんですが、話の主軸としてはmp3がその中心にあります。

当初mp3は抜群に優れていたものの不遇の形式で、旧来型のmp2に技術の浸透を阻まれ、大した利益もあげませんでした。

CD全盛期の1990年代にあってmp3はとあるところで使われるようになったそうです。
それはインターネット上の海賊版です。

mp3は今まではありえないレベルでの音質と容量圧縮に成功したがゆえに最終的には世界全土に広まっているわけですが、それに大きく貢献したのは皮肉にも海賊版です。

もちろんmp3の製作者はそれを意図しておらず、「音楽を盗むな」と言及したと描かれています。
皮肉なことに海賊版が広がったことで、利用者が増え、莫大な収入を得ています。

さらなる皮肉としてそういった状況を覆す意味でAACという新規格を供給しようとしたapple、そしてitunesをベースに置いたipodですら海賊版音楽の入れ物として、それに貢献してしまう構図になったのです。

mp3とP2P(読みはピアツーピア。ファイル共有ソフトに使われる技術のことで一昔前に世間を騒がせたWinny、身近で合法的なところだとLINEに使われている技術)のふたつが音楽の市場を一変させました。

CD工場に勤めている人間ですら、新譜をリークして承認欲求や懐を満たしていく。2000年代はそんな時代で、CDの売上もピーク時の半分まで減ります。

ダグ・モリスは音楽会社のプロデューサーから音楽業界最強のエグゼクティブへ登り詰めた人物で、その2000年代は自分だけが高給を受け取り続けながら、リストラや事業再編をしている状況で批判を集めていましたが、孫と見たYouTubeに着想を得てある事業を作ります。

過去40年で作った4万を越えるMVを起点に広告収入を得るVevoという動画サービスです。
これは逆に容量圧縮が可能になったからこそのビジネスモデルで、一気にいままでの悪評を帳消しにしてみせました。

という音楽とインターネットの関係性に肉薄した本なんですが、ここでもう一冊ご紹介。

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略 https://www.amazon.co.jp/dp/4140814047/ref=cm_sw_r_cp_apa_i_HR68Cb2W1XADW

こちらはクリス・アンダーソンという人が書いたフリーという本。この著者で有名なのはメイカーズという3Dプリンターの在り方とビジネスモデルについて書いた本です。

他にもロングテールという本もあり、ロングテール→フリー→メイカーズの流れなので興味があれば是非。
名著なので十中八九近所の図書館にもあります。

この本のなかに印象的なフレーズがあります。原文だとこうです。

"Information wants to be free"

情報は自由になりたがる、と訳すのがここでは適切だと思いますが、タダになりたがるとも訳せます。

スチュアート・ブランドという人の発言の引用で、とても示唆的です。『なりたがる』というのがキモです。

さも情報に自由意思があるかのような発言なのですが、まさにそんなような有り様です。

先に紹介した本のなかでも海賊版の音楽をアップしている人間のなかには金儲けでなく、ただただ素晴らしいものを世に広めよう、アーカイブして整理しようという一種の使命感からやっていて、それがどれだけ莫大な被害をもたらすのかについて頓着していない人間が多く登場します。

どれだけ倫理観を説法したところで情報は羽が生えたようにあちらこちらへ移動する。

ボクは「だから海賊版を黙認しろ」という気はさらさらありません。「情報はフリーになりたがる。それを前提において行動したり、発言する方が建設的なのではないか」と言いたいのです。

もはや情報をある一ヶ所に留めておくのは不可能に近い。
ここだけの話がここだけにはならず、NDAは破られ、人の口に戸はたてられない。意図的に奪い取ろうとする人間もいる。

インターネットの登場でボクらは抗えない蜘蛛の糸が発生したわけです。
それは重力と同じです。

この地球上において、重力にケチをつける人はあまりいません。(ケチをつける人もいるかもしれないのでこういう言い方をします)

重力にケチをつけても、リンゴは木から落ちる。
落として傷付けたくなければ、袋をかける他ない。

音楽もそうです。
若者は目の前にある音楽をただ摂取するだけで、それが安く手にはいるなら、その方法を是とするのも正直無理からん話だと思います。

公園に落ちたエロ本をむさぼり読むのと大差がないのです。
大人がそれはいかん! いろんな人が困るんだ! といったところで、口うるさい大人の戯れ言程度にしか受け止められるわけもないようにボクは思います。

それなら新しいビジネスモデルを提示しようと生まれたのがVevoだったり、Spotifyに代表されるサブスクのサービスでしょう。実はmp3が作られるよりも前、この手のサービスは特許申請されているものの、当時の技術ではそもそも不可能と撥ね付けられたりしてるのです。

これらのサービスは革新的ではあっても、海賊を駆逐するほどにはスマートではない、というのが現状です。

そのスマートさを磨き上げる方が、中学生だかにお気持ち表明するより、前向きなのではという話です。

そんな話がちょうど本を読んでるところに転がり込んで来たので備忘的に書いたんですが、あなたのお考えはどうですかと問いを投げてこの文章は店じまいです。

音は掴んで閉じ込めておくができない、どこまでも自由なものなのかもしれないなとポエっておしまいおしまい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?