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ミレ二アル世代とK-Pop

子がB1A4に続きBTSにハマりだしたのは2014年位からの事でした。あれよあれよと言うまに北米のスターダムを駆け上った彼らは2017年には全米ツアー敢行、アナハイムのホンダセンターの周りを取り巻いた若者たちの数に驚愕したのも記憶に新しいです。2018年のツアーではチケットが驚異の売れ行き、あまりの金額の高騰に子は購入断念しました。TVにも出演ラッシュ。バイラルな人気を得たものの単発だったPsyとは違い継続的にアルバムも売れ、もはやアイドルとしての彼らの人気は例えばジャスティン・ビーバーなんかも超えてしまった。こうしてあれほど厚かった北米市場の壁はK-Popに対して遂に侵入を許した形になりました。

東方神起のペンの皆さまもBTSが気になって気になってしかたが無いようで、どうしてここまでになったのか比較しながら考察するブログ等何本か見かけましたが、そのなかでPsyの成功は変なおじさんとしての成功であって憧れられる性的な対象になっていないがBTSはアジア人として初めてそうなった、というのも有りました。確かに、普通はポップスターというものは性的なファンタジーの対象でもありますが、Psyは自分でもK-popの王道ではないと認めていましたね。要するに変な(アジア人の)おじさんが意味不明な歌詞をわめきながらテンション高くおどる、それが面白かった。オリエンタリズムがそこになかったとは思えない。

Psyの成功は北米のアジア人への差別意識が下敷きになってる事はもう何年か前に自分もはてなとか、別の媒体で言ってきてるのでそこは下に貼った記事などを参照して頂くといいかもしれません。でも如何に厚く、大きな壁であったか。北米市場の差別的マインドはBIGBANGすら単なるファッションアイコンとして散発的な人気に留めてしまっていた感が有りますし、ブログにも書いてますが北米の美男基準はruggedly handsomeなのでとりあえず「美少年系」は受け入れられまい、的なことも書きました。

それでも、私はある予想をしてました。それは私の子ども世代が20代に入り消費者として影響力を持ち始める時にこれは変わるのではないか。ブログを始めたのが2011年からですが、その時中学生の我が子はアメリカのミレニアル世代。この層は子ども時代をほぼ日本製のアニメやマンガで埋め尽くされた世代です。そしてKーPopが市場として乗り込んだSNSも幼い頃から使っている。彼らが今や大学生や社会人になり、自力でお金を稼いでファン活出来る年齢となった。少年ジャンプや少女マンガの英語版、グラフィックノベルなどを読んで育っているこの世代は女の子のように綺麗な顔をした男性に何の抵抗も無い。そう、花のような顔をしたまるで漫画の主人公のようなK-Popのボーイズグループをメインストリームに押し上げたのはBTSと同世代のミレ二アル達と言っていいと思います。

Flower boy masculinity

花と言えば2016年から2017年にかけて放送された韓国ドラマ『花郎』は、まさに韓国版イケパラでした。時代考証そっちのけの竹どい使ったシャワーシーンとか、目が点になるような演出がてんこ盛りのこのドラマは北米西海岸の韓国語チャンネルでも週遅れで放送されていましたし、出演者にBTSのVやSHINeeミンホなどアイドル俳優を使ったことでかなり話題でした。ところで、この「花郎」、実は私もブログを書き出した当初に『花郎の末裔』という記事を書いていました。以下ご参照ください。

ところで「花郎(ファラン)」は新羅王朝の男子集会で、王に仕える貴族の子弟しかも武芸にも教養にも秀でた精鋭の若者たちという通説の他に、新羅仏教(弥勒菩薩信仰セクト)との深い関わりも指摘されています。また、この古代男子集会ファランに古代の男性同性愛の形態、ホモエロティックな要素を見る研究もあります。また現代男性K-Popアイドル達の傍目にかなり濃密(?)なスキンシップのルーツがそこにはあるのかもしれませんし、現代韓国は非常にホモフォビックな社会でもあるのになぜか男性アイドルの美しい顔は度外視されているのです。

弥勒菩薩は女性的な美しい顔が特徴ですが、花郎達の花のかんばせ、は現代のK-Popアイドル戦士たちに明らかに受け継がれて居るように思われます。そして花のような顔、は日本の男性アイドルにも共通するものですが、韓国アイドルたちのもう一つの武器はその「身体性」でしょう。美しく割れた腹筋やかっちりとした二の腕。軽々と飛び跳ね、柔らかく踊るその肉体の身体性。それを花のかんばせにプラスした独特の男性性、マスキュリ二ティは、韓国のソフト・パワーと呼べる武器です。

しかし正直、これはBTSが初めて持ちえたマスキュリ二ティというわけではなく、Rainや東方神起も同じアピールを持っていました。日本の東方神起ファン達の彼らに対するファンタジーの在り方をずっと見てきて、ファンたちは彼らの持つジェンダーを行き交う様な男性性に惹きつけられているのは間違いないと思っています。香港の研究者のSun Jungは5人時代の東方神起のジェジュンを例に取り、ファンがどれほどYouTube上で「女らしい」「女子」とそのfemininityを騒ぎ立てるかを観察しており、そのフェミニンな魅力と鍛えた身体の一見相反する魅力を統合したものを、女性性にも男性性にもどちらにも受け取ることのできる[soft masculinity][Versatile Masculinity]と表現しています。

私はその源泉を花郎に見ることができると思いflower boy masculinityと英語化したいと思っていました。と同時にこれは芸能の伝統に近似性を持つアジア地域でしか受容されないのではないかとも感じていました。2011-2012年当時北米地域ではK-popの男性アイドルを「Pretty」と表現する人はいても、「セクシー」とはならなかった。そのうえK-popはGay-popと揶揄されていた。それがこの数年で一気に変わって来たのです。毎年末YouTubeで恒例となっている『世界で最もハンサムな顔』100人に2018年は夥しい数のK-popアイドルが選出されたのですが、これにギリシャの女性コメンテーターがテレビで「ハンサムじゃない」「これは絶対に女性」などとと評したためSNS上で袋叩きに会い、コメント撤回、自分の美意識が追いついていなかったと陳謝の運びになりました。

つまり、端的に言うとflower boy masculinityがやっとのことで北米に受け入れられるには、マスキュリ二ティのルールを書き換えるミレニアル世代の成熟を待たなければならなかった、ということなのだと思います。同じような男性性の魅力を持ちながら東方神起は北米を手中にするには早すぎた、というわけです。アジアの神という点では名が体を表してはいますが。

ただ、同世代だったというにしても、漫画やアニメに抵抗がないとしても、そのミレニアル世代にとってなぜBTSが他のアイドル達に抜きん出て訴求したのか?という疑問は残るでしょう。そのかたわら東方神起はなにを成し遂げ、なにを成し遂げられなかったのか?。。。それはまた別に書きたいと思います。

追記:

この記事を書いてから自分の書いたことに非常に似ている記事(引用元まで似ている)をBBCで見つけてしまいました。ここ数年本を読み、メモを作って温めていたネタでしたが書くのが遅すぎた(苦)。そうそう自分だけのオリジナルなんてことはやはりないものです。よろしければご参照ください。花郎については言及がないところと、私がポイントにしたい「男性アイドルに見る女性性」はこの筆者は否定されているようですが、それでも着眼点は非常に近いと思います。BBC News, Asia. ”Flowerboys and the appeal of 'soft masculinity' in South Korea” Sept 5 2018. https://www.bbc.com/news/world-asia-42499809

References

Huat, Chua Beng, and Sun Jung. 2014. Social media and cross-border cultural transmissions in asia: States, industries, audiences. International Journal of Cultural Studies 17 (5) (09): 417-22

Jung, Sun. 2009. The shared imagination of bishonen, pan-east asian soft masculinity: Reading DBSK, youtube.com and transcultural new media consumption. Intersections: Gender & Sexuality in Asia & the Pacific(20) (04): 8.

McBride, Richard D. 2010. Silla buddhism and the hwarang. Center for Korean Studies University of Hawaii.

Young-Gwan Kim, and Sook-Ja Hahn. 2006. Homosexuality in ancient and modern Korea. Routledge Journals, Taylor & Francis Group Ltd.

Soompi.com.”Greek TV Show Host Apologizes For Making Negative Comments Towards Male K-Pop Idols”. Jan.7, 2019. https://www.soompi.com/article/1288917wpp/greek-tv-show-host-apologizes-making-negative-comments-towards-male-k-pop-idols

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