トラウマ消し(ショートショート)

「俺、働くことにしたから、」
まーくんはこう言うと、彼女は、キョトンした顔で目を見開き「本当に、」と尋ねた。

「うん、本当だよ、今まで働かずに、養ってもらってごめん」
彼女は、すこし笑みを浮かべて、「どこで働くことになったの」と質問する。

まーくんは、トラウマを抱えている人がいるところに、行く仕事をしようと思っているので、「うん全国どこへでも働きに行くよ」と答える。

彼女は、意味のわからないことを言いやがって、腹が立つという顔をして、「どんな仕事をするつもりなの」と言うと、まーくんは、自分が得た能力について語ることにした。

「へー、トラウマが消せるんだすごいねぇ、なんて、言うと思った。」
彼女は、まーくんの話を真剣に聞いたことを、後悔して、喜んでいたことが馬鹿馬鹿しく感じてしまい「ちゃんとした仕事をいい加減にして」と怒ってしまった。

「わかった。探してくるよ」
まーくんはそう言うとドアを開け、マンションの2階から下へと降りっていった。
「なぁ、そこの坊主、俺のことどう思う」
階段を降りた先にあるコンクリートの段差に腰掛けている男がまーくんに声をかけた。

「どうって、ただの隣人かなぁ」
まーくんはこう答えると、男は、「あぁそうだなぁ、俺にとってもあんたは隣人だよ。そう言うことを聞いてるんじゃないなんで、こんな段差になぜ私が座っているか気にならないのか」と言ってきた。

まーくんは、そう言われたら、確かにそうだと思い「どうして、ここにいるんですか」と聞いてみることにした。
「この段差に座るとあの日のことを思い出すんだ。20年前私には彼女がいた。でも色々あって結局別れることにしたんだ。それ以来俺は女に対してトラウマができて、恋愛に一歩踏み込むことができなくなってしまった。」

男は悲しそうな目でそう言うと、まーくんは肩を叩いて、「そのトラウマ消せますよ」と自信満々に言う。
「トラウマを消せるって、そんなことができるというのか。」
男は驚いた顔で言うと、まーくんは「その段差に座らなければ、思い出すことはありません」とドヤ顔で呟いた。

男はまーくんのその呟きに微笑んで、「なんか、もうどーでもよくなったわぁ、ありがとう。そうだ最後に一言だけ、彼女は、大切にするんだぞ、この後、お前は、ろくに仕事を見つけずに、パチンコに行き彼女に見限られて、別れることになってしまう」と言って去っていった。

まーくんはそんなことで、彼女が離れるわけないだろふざけるなと思って、特に気に留めることもなくパチンコをうちに行く

「はぁ、毎日球の音を聞くのも飽きてきたか。球をじゃりじゃりして、何が面白いんだろうな」
まーくんは、ぽろっと呟いて、驚いた。

結局遊んでしまったこんなんだったら、彼女に合わせる顔がない。酒を飲んで、高揚した気分にでもなったら、怖くないか。

まーくんは居酒屋で、酒を飲みまくって酔っ払って家に帰ったら、彼女の怒りはヒートアップし、
「もう、同棲しない。家に帰って、わかれるから」と言われて、冗談だと思ったら、本当だった。

荷物をまとめて、出て行き実家に帰って、また奮起してみるも失敗、この後彼女ができることはなかった。

やれやれと思って、いたある日、トラウマ消せますと言う看板に連れられて、薄く暗い店の中に入ってしまう。
「あなたが消したいというトラウマを見つけました」その声とともに目を覚ましたら、20年前のあの日に戻っていた。


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