カウントダウン(ショートショート)
博一は、夜遅く帰ってくる母親を待ち伏せしていた。
ガチャとドアが開く音とともに、「ただいま」と母の声が聞こえてきたので、スマホを持って駆け降りた。
博一は、「おかえり、今日は聞いてほしい相談があるんだ」と言ってみた。
すると母は、「お留守番ご苦労様、おかあさん何でも相談に乗るから大丈夫」と言い座布団に座った。
博一は、学校で今流行っているYouTuberについて語り、とあるお子様YouTuberの動画を母に見せた。
母は、「へー、こんなにもしっかりしてるんやね」と言って、視聴した。
博一は、お子様YouTuberに対する対抗心が母にはないんだと思って安心したのと同時に、覚悟を決めていた。
博一は、深く深呼吸をして、「お母さんYouTuberになりたい」と言った。
母は、正直言って、複雑な心境であった。
今活躍しているお子様YouTuberは、他人だから、割り切れたのだが、自分の子供が、YouTuberになるのは、なんだかとっても心苦しかったからだ。
母は、「博一いいか、よく聞いて、お母さんは、博一がYouTuberになるのは反対です。
YouTuberっていう職業がどういう職業が意味わかっているの、」と様子を伺いながら言ってみた。
すると博一は笑顔で「やりたいことをやる仕事」と答えた。
母は、眉間に皺を寄せて、「違います。そういうことを言ってるのではありません。あなたという人物が、娯楽物の一員としてみられる仕事だということです。」と言った。
博一は娯楽物の一員という単語がよく判らなかったので、口を開けて、数秒程唖然とした後「えっ、娯楽物の一員って何」と言いました。
母は、口から出まかせの言葉に、意味を求められ少し困惑したが、「YouTuberとして活躍すると娯楽物の一員としてみられてしまう。娯楽物の一員になってしまったら、下劣な人たちに、文句を言われたり、住所を特定されたりするから、やらない方がいいのわかった。」と8割ほど、脅しで言ってみた。
すると博一は、臆することなく、「それでもやりたい」と言って母を困らせてみることにした。
母は、あからさまに否定するのもよくないし、今の時代は、お子様YouTuberなんて、珍しいことでもないしなぁと思い唸り声を上げて、考え込んだ。
数秒程考えた後、「いいよ分かったやりたいようにやりなさい」と声をかけた。
どうせ、認めてもらいたいだけなんでしょうと思ったからだ。
案の定、博一は、「わかったやってみる」と答えたきり、なんの進展もない。
その頃博一は一人でYouTuberをやるのは心細いので友達を探しまわっていた。
博一「川西くん、一緒にYouTuberになろう」
川西くん「えっ、ひろくんどうしたの」
博一「僕、YouTuberになりたいんだ。だから一緒にやろうよ」
川西くん「いいけど、うちの親がなんて言うかきいてみないといけないし……」
博一「うん、わかった」
数日後
川西くん「ひろくん、学校に通いながらだったら、オッケーだって」
博一「やったー、どこで撮影する」
川西くん「ひろくん家がいい」
博一「えぇ…」
博一は、母がなんて言うだろうかと考えただけで、ゾッとしたが、物は試しだと思い川西くんと一緒に放課後家に向かった。
母に、川西くんとこの家で撮影することになったと、説明した。
母「二階のあんたの部屋で撮影したら、お母さんは、出たくないから」
博一は、「分かった」といい川西くんを、上に誘導する。
川西くんは、不機嫌そうな博一の母の態度に、不安を感じていた。
川西くん「大丈夫なの」
博一「あぁ、休みの日はいつもあんな感じだから大丈夫だよっ」と言って、部屋へと向かった。
川西くん「自撮り棒とスマホを一応持って来たんだけど」
博一「ありがとう、実はスマホを固定するスタンドは、買ってあるんだ。」
よし、動画を撮影しようと思って、録画ボタンを押した。
博一は、心の中でやっとYouTuberになれるのかと思って、3、2、1と数え録画ボタンを押した。
肝心の名前と挨拶が決まっていなくて、咄嗟に出たのが、「みなさんこんにちは、カウントダウンです」だった。
最初の撮影を終えて、ふぅーと深呼吸しながら、YouTubeに投稿した。
それから、数日後、1回目の投稿にもかかわらず、コメントが、いっぱいきた。
川西くんと博一くんは、どうせ小学生がやってるとかなんとかで注目されているのだろうと、思ったが、読んでいくとそういうことではなかった。
学校の休み時間
川西くん「いっぱいコメントきたの読んだか。」
博一「実は怖くて読めてない」
川西くん「そうなんだ、ウォーリーっていう人気YouTuberの人の動画が原因だったんだよ」
博一「ウォーリーさん…-」
川西くん「そう」
僕たちは、ウォーリーさんの動画を見てみることにした。
ウォーリーのウキウキ商品紹介チャンネルに投稿されている動画だった。
ウォーリー「みなさんこんにちは、初めましての方もいるかなぁ……ウォーリーのウキウキ商品紹介の時間だよー、」と言って、中ぐらいの段ボールを持つウォーリーがドアップで急に映された。
博一は、冒頭の挨拶がすごく長いなと思いつつ動画を視聴した。
ウォーリーは、倍速で、ダンボールを開け、中から赤くて丸いぼたんのついた四角い箱を取り出してきた。
博一と川西くんは、なんだよそれと思いながら見ていると、この謎の箱について、ウォーリーが説明をしだした。
ウォーリー「これは、カウントダウンという名前の商品です。私が名付けました。」
博一「…自分で名付けたの」
ウォーリーは「この商品はですね。○月○日に、まるまるが起こる3.2.1と叫んで、この赤いボタンを押すとそれが現実になるんです」と謎の箱についている赤いボタンを指差しながら言った。
博一「へー面白いなぁ」
ウォーリー「試しに、やってみますか○月○日の17時に、カウントダウンという名の二人組の小学生YouTuberが誕生する。3、2、1」
ウォーリーはそう言うと赤いボタンをおした。
そしてその日の17時ごろに、僕たちカウントダウンが動画をあげたのだった。
博一は、カレンダーを確認しながら、「う嘘だろ」と言ってすごく驚いた。
その光景を、川西くんは、冷静に眺めていた…………。
川西くん「だろ、すごいだろ」
博一「うん」
川西くん「なぁ、ウォーリーさんに、TwitterのDM送ろうぜ」
博一「えっ、なんて送るの」
川西くん「かせって」
川西くんは、博一のスマホを、勝手に取り上げて、操作し始めた。
ツイッターを開きウォーリーさんと検索し、カウントダウンです。ウォーリーさんの動画見ました。今度カウントダウンっていう商品をお貸しいただけないでしょうか。とダイレクトメッセージを送った。
その頃、それを読んだウォーリーは、ケタケタと笑いながら、「本当にカウントダウンが誕生するなんて思ってなかったけどなぁ、まぁネタになるからいいかぁ」と呟いた。
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