突然 (ショートショート)

いつもは、ボッーとしていて、脳みそが半分くらい機能していないにもかかわらず、今日はやけに頭が冴える。
「なんだろう、この感覚は、熱でももっているのだろうか。」
喜ばしい疑問に首を傾げるも、これはきっと、いつもの頭の悪さが大嫌いだから、頭がまわるようになったのだと、自分を納得させる。
「そうだ、頭が賢くなったんだよ、最高だよ」
僕はそう呟いてから、これは、ただの思い込みで、実際は頭は良くなっていないのではないかと思い試してみることにした。
高校時代まで使っていたところどころ落書きやシールを剥がした跡が目立つ勉強机の引き出しから、中学の頃の数学の問題用紙を引っ張り出して解いてみることにした。
僕は馬鹿だから、分かるはずがないと思いながら解いてみたのだが、何故かスラスラと解けてしまった。
「なぜだ、なぜだコサイン、タンジェント、解ける解けるぞ」
ペンが止まらないことに、高揚感を感じ叫んでしまった私は、終わった後に、よぽっど自信がなかったのか答え合わせをしてみることにした。
「全部あっているぞ、これは力試しに、クイズ番組に、挑戦してみるのもありだな」
僕はそう呟くとさっそく過去に放送されていたクイズ番組をみて勉強してみることにした。
いろいろと、クイズ番組を見た結果、挑戦者が、最後に王者と戦う系の、勝ち抜きクイズバトルがいいという結論を出した。
その数日後、たまたまテレビをつけていたら、勝ち抜きクイズバトルがやっていて、挑戦者と王者が戦っていた。
王者である仙道未知瑠さんは、小学生で数学王と呼ばれるほどの天才頭脳を持っていて、挑戦者を苦しませる回答の速さが、人気だ。
対して挑戦者は、栗きんとん きな子さんで、お笑い芸人の中では、頭がいいらしい。
僕が見たこの回では、おかしなことに、珍しく王者の仙道未知瑠さんの手が止まっていて、まったく回答せずに、王者の地位を栗きんとんきな子さんに譲ってしまったのである。
僕は少し驚いて、「えっ、どうしたんやろ」と口を開きながら呟きこの番組を見ているみんなの反応が知りたくて、ツイッターを開いてみると、案の定心配する声が呟かれていた。
「疲れているのだろうな、あんな簡単な問題で答えられないわけないのだから、」
今まで、すごいと思っていた神童が答えられなかった問題を解けてしまった人間は、急に上からの目線で呟き机に肘をつきカッコつける。
「どうしちゃったんだろうな、僕の頭は、栗きんとんきな子さんから王座を奪ってやろうか」
この奇妙な現象である急に、突然数学の才能を得たのを、利用してやろうと心に決めて、番組に出ることにした。
テレビ局に電話をかけると、受付女の松島玲子が電話に出た。
「プリティ毎日テレビの松島玲子です。ご用件はなんでしょうか。」
僕は、なぜかすこしそわそわしながら、歩き回りオドオドした声で、「そちらのテレビ局で、放送されているクイズ番組に出たいんですけど……」と恐る恐る言ってみた。
松島玲子は、はっきりと大きな声で、「わかりましたその、王者である栗きんとんきな子さんに挑戦したいんですねわかりました。次の撮影日に、遅れずにきてくださいね」と言うと電話を切った。
僕はスマホをポケットに戻すと、通話を終えたことにホッとして、胸を撫で下ろし、数学の才能を得た前よりも、人と会話するのに苦手意識を持っていることに驚いた。
クイズ大会の撮影日当日に、プリティ毎日テレビ局の中へと足を運ぶと、松島玲子が受付女をやっていて、控え室まで案内してくれた。
「あぁ、あなたが栗きんとんきな子さんに挑戦されるかたですか。」
僕「はい、そうです。あのう前の王者の、仙道未知瑠さんには会えないですかね」
「会えないですねすみません」
僕「そうですかわかりました。」
仙道未知瑠さんのことを、詳しく聞くのはよしたほうがいいと、直感で思って聴かないことにした。
控室にあるポットで、お茶を入れて、休憩していたら、眠気が襲ってきた。
暗闇の中から、ふかふのソファーに座った白い服を見にまとった老人が私を呼んだ。
老人は、「すまないね、凡人として気兼ねなく生きていける保証を君にあげていたのに、先日天才がなくなったものだから、人数を調整しないといけなくなってしまって、君に数学の才を与えることにしたんだ。」と、偉そうな口調で言うと足早に帰っていった。
早く起きないと、撮影に間に合わなくなると思い目を覚ますと、マネージャーが呼びにきていた。
「もう時間なので、スタンバイお願いします」
僕はもうそんな時間なのかと思いスマホで時間を確認する。
まだ20分も前なのに、はやくないかとおもいながら、撮影現場へと向かった。
そして、撮影現場に入ると、画面の向こう側だと思っていた芸能人たちの仲間入りを果たした気分になると、初めての、セットに驚いていたら、初心者だとバレてしまうから、堂々としていなければと自分の胸の高鳴りを抑えながら撮影に挑むことにした。
耳に鉛筆をかけ、壊れたメガネをかけて息巻いているディレクターがいろいろと指示を出し、タレントたちは、やれやれという感じの顔をしながら従っていた。
番組は僕の一人勝ちで、終わってしまったので、なんだかつまらなかったが、オンエアされたら、どうなるのだろうかと考えると、ドキドキが止まらなかった。
王者になると、あの息巻いていた壊れメガネのディレクターが、撮影終わりに声をかけてきた。
「君、天才だねぇ。最初見た時はさぁぱっと見大したことないかなぁと思ってたんだけど、すごく早く解答するし、クイズ番組の盛り上げ役として、すごくいいねぇだけど、君は頭いいから、もっと金になる仕事があると思うんだよ」
僕は冷静に「この才能を活かし方がわからないんです。数学が人よりできたって、只者です。それに突然もらった才能ですし、鍛錬して自分で磨きあげたものではないですから、クイズ番組を盛り上げるくらいが、ちょうどいいんですよ」と答えるとディレクターは頷いて、「そうか、たしかに数学ができたって、初めて問題の解き方を解明した人にならなければ、本当の天才にはなれないだから、こうやってテレビに出るしかないと言うことか。まぁ頑張るといいよ」と言うと、仕事に戻った。
何しにきたのかわからないディレクターに、二度見して、ただ話し下手なりに話しにきてくれただけかと思いなぜだかホッとした気になった。
仙道未知瑠に次ぐ天才発見か。という見出しの記事が、新聞に書かれて、ヤフニュースにも書かれた。
それからも絶好調で王座を維持し続けていると、誰も解くことのできない数式を解いてみないかという挑戦状を叩きつけられた。
その日の夜、またふかふかのソファーに座っている白い服を着た老人が現れた。
老人は、「困惑させてすまなかったねぇ、今度天性の才能を持った子供を産むことになってね。それでせっかく与えた数学の能力返してほしいからごめんね」と言うと足早に帰っていった。
僕がこれから、この才能をうまく活かそうとした矢先にこうゆうことになったので、「ちょっと待って、ください。そんなのあんまりです。」と反論してみるも、聞いてくれることはなかった。
そこから、何もかも答えられなくなって、元の頭に戻ってしまった。
エゴサーチしてみたら、落ちぶれたなどと、散々書かれていた。
ツイッターを見てみると、仙道未知瑠さんにフォローされていたので、ダイレクトメッセージを送ってみることにした。
こんにちは、最近まで王者だったものです。会えませんか。
ドキドキしながら、メッセージを送ると、返信が返ってきた。
「ありがとう、天才になってくれて、君もソファーに座った老人をみたんだろ。」

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