できない烙印(ショートショート)
この世界には、周りからできない奴という烙印を押された者たちがいる。
彼らは、そんな奴になりたくないと思っているが、気づいたら、溺れて死んでいた。
「言われたことをやろうとして、頑張ったはずなのに、何も成長していない」
ため息とやる気が削がれていく感覚を目の当たりにして、呟いてしまった。
そんな烙印を押された人の一人である中下は、大欠伸しながら、目覚まし時計を止めて時間通りに出勤する。
「おはようございます」
自分なりの精一杯の挨拶をして、調理場へと入る。
料理長以外は、挨拶をしてくれて、「おはようございます」と僕の頼りない挨拶に反応してくれてた。僕は涙をうるうる目に溜めながら、ありがとうと思った。
そしたら、ごそごそと重たい足取りで、料理長がこっちにやってきて、「なぁ、ちゃんと挨拶してる?」と一喝しにやってきた。
僕は冷静に、「挨拶しました」と言うと、「声が小さいねんなぁ、聞こえてなかったら、挨拶してないのと一緒やねん」と言われた。
おそらく聞こえていなかったらしいのだが、周りが挨拶していて聞こえないと言うのは、耳くそが溜まっているとしか思えなかった。
呆気に取られていると、「すみませんやろ」と言ってくる。
「すみません」と謝ると、右耳の方に回り込み「挨拶してなかったら、こっちが怒られるやろ、本部の人から言われてるよなぁ」と切れ気味で威圧的な態度を取られた。
僕の能力が圧倒的に乏しいため、本部の人が心配しにやってきたことがあって、その日に言われたことを思い出した。
「なんでこんなことになるのだろう私は…」
中下は、自分で自分を嘲笑した。
そうだ、仕事で挽回すれば、皆見直すだろうか。
それとも、もう手遅れか。
中下の頭の中では、このことがぐるぐるとまわっている。
明日もそして明後日も仕事だから、気合を入れるべきなのだろうが、疲れた。
明日になれば試練がやってきて、自分の不甲斐なさに傷つき、なんで頭の中がフアフアして、寝ているくせに、不眠症っぽいのだろうかと疑問に思ったり、頭が正常な状態だったら、昨日のことを、引きずってしまうから、シコシコして、忘れる。
この快感と気持ちよさは、もうやめれない……
賢者モードになった私は何かしら、大事なものが抜けて落ちてしまって、ポンコツの誤作動ばかり起こすロボットになる。
きっと、自分でできない烙印をおしているんだ………
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