人間の都合(ショートショート)

「あいつらに言葉は通じない無駄さ、俺らのことを考えているようなことを言っているが、実際のところ、大規模な開発で山を開いているじゃないか」
山の長である長老のヒグマは、考えを巡らせながらこう呟いた。
すると中年のヒグマは、「そんなことは分かりきったこと、山の中で自由に暮らしたらいい」と言い人間と共存していくことが大切だと持論した。
そんな中、意見を述べる若いヒグマがいた。
「山の中は窮屈だ。人間の育てている木の実や食べている食べ物を摘んだことはあるか。あれは格別だよあの味を知らないことこそ損だね、人里に行き食べ物を探し人間と格闘をする。楽しい生き方さぁ、今度人里に行ってくるわぁ」
すると、長老のヒグマは、悲しい目をして、「そう言って、ここに帰ってこなかったヒグマが昔いてね。そいつは気の荒い雄だった。ちょうど君と同じくらいの歳のね。そいつの親が食べ物を探しに人里に行ったんだが、人間に襲われて命からがら、帰ってきたことがあったんだ。その時、彼は人間に対して恨みを持ったのか、畑の作物を荒らしにいったり、人を襲ったりする暴れ者になったのさぁ、そして、とうとう危険個体と判断されて、発砲されて命を落とした。」
その話を聞いた中年のヒグマは、涙を流し「あいつのことですか」と枯れた声で連呼した。
若いヒグマは、空気を察したのか、「わかった山から出ない」と言ってこの場を去っていった。
若いヒグマが、山道を歩いていると、人間の親子に出会した。
父親が、ヒグマに近づこうとする子供を、必死に止める。
「危ないから、近づいたらあかん、止まって」
必死に止める父親を気にかける若いヒグマは大人しく立ち止まって、子供の頃を思い出していた。
断片的にしか覚えていないが、僕たちは、必死に走っていた何から逃げるように、ものすごく大きな音がなって、一緒に走っていたヒグマの体から赤い液体が溢れ出た日のこと
そのヒグマは、人間に見つかると厄介だから、物音を立てずに、じっと身を潜めれば、人間は僕たちを襲うことはないって、言ってた。
その教えを守れなかったから、あんなことになったんだ。
僕がこの子を襲えば、この子はきっとヒグマに対して恐怖心が芽生えてしまうだろうから、じっと我慢するべきだ。
若いヒグマは、そう言い聞かせて、優しそうな目をした。
父親は、息があがりながら、ホッとした様子で、「人間を襲わない賢いヒグマもいるんだな」と言って子供を抱き抱えた。
その時、若いヒグマの頭の中で、父親の言葉の意味を理解しようとしていた。
つまり、人間を襲うヒグマは馬鹿で、人間を襲わないおとなしいヒグマは賢いということかと解釈した時に、ふつふつと怒りが込み上げてきた。
人間ってのはそんなに偉いのか、素手じゃ勝てないくせに、偉そうにしている態度に腹が立った。
若いヒグマは、怒って、子供に襲いかかろうとすると、父親が狩猟用の銃で、仕留めた。





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