無人の家(ショートショート)


私が小学生の頃、通学路の途中に、もう誰も住んでいないだろう家が建っていた。
雑草が、放置されていて、草木が多い茂っている。
家はボロボロで、年季がはいっている。
住宅の並びに、あるので、かなり目立つ
少し気味が悪いのが、なぜだか、興味をそそられてしまい立ち止まって、その家を見てしまった。
「ねぇ、君、その家が気になるの」
反対側の向かいの隣人が、声をかけてきた。
私は、急いで振り返って、「別に気になるわけじゃないけど、何でこんなにボロボロなのかなぁって…」と必死に誤魔化そうとしたが、隠すことができなかった。
隣人の成瀬葵は、やっぱり、気になっているのに、素直になれない小学生を放ってはおけなかった。
「あぁ、向かいの人は、5年ほど前に海外に転勤が決まって、この家を出って行ったきり、まだ戻ってきていないんだ。しかし、人がいなかったら、家というのは、こんなにも劣化するものなんだなぁ」
以外にも、あっさりと答えてくれる隣人に、優しいなと思った。
ただ、そんなことよりも、私は何でそんなことを知っているのだろうということが、気になって仕方がなかった。
「なんで、そんなこと知ってるの」
すると、成瀬葵は、「向かいの人とは、親しい仲で、出発前にいろいろと話してくれたんだよ」と答えた。
「かなり、親しい仲だったんですね。」
私はそう言うと、成瀬葵の家の敷地にそびえ立つ、
松の木を眺めていた。
一直線にそびえてるのではなく、幹が少し曲がっており、葉も綺麗に整えられている。
おそらく庭師が施したのだろう。そんな気がした。
やっと、友達の恭介が、息をあげながら、トボトボとやってきた。
「T字路まで、競走だといってたのに、なんで、ちょっと進んでるんだよー」
「ごめん、ごめん、」
「別にいいんたけどさぁー」
「なら、そんなに怒らなくていいじゃん」
「うるさい、そういう問題じゃない」
成瀬葵は、家の前で、ぺちゃくちゃと小学生二人組が喋っているのを、聞いていた。
話が長くなりそうなので、家に招き入れてみることにした。
今時の小学生は、知らない人について行ってはいけないという教えを受けているはずだから、そそくさと帰るだろう。
「私の家にあがらない」
「結構です。これから、こいつの家に行く予定があるので」と恭介が言おうとしたが、私がそれを止めて、「お言葉に甘えて、上がらさせていただきます」と言って、玄関の方へと歩いて来た。
予想外の出来事に、少し驚きが隠せない成瀬だったが、平然と装い「そんなに無理して、寄ってて行かなくてもいいのよ。また今度ね」と念押ししたが、無駄だった。
「お構いなく」
そう言うと、私は恭介と一緒に家の中へとお邪魔した。
客間らしきものはなく、玄関を入ると、リビングに通ずるドアがあり、その横に階段がある。
リビングに通ずるドアを開けると、フローリングの床に青い無地のラグが敷かれており、その上に机、机の上には、リモコン
があり、机から離れたところに、テレビが台に置かれている。
机の手前には、ソファーが置いてあり、そこに座って、テレビドラマやバラエティを主にみるらしい。
私たちは、ソファーに腰掛け、恭介が私に追いつくまでの間、成瀬葵と何の話をしていたのか はなした。
「海外に転勤だって」
「あぁ、そんな外資系の仕事をしてる割には、家がしょぼいのが引っかかるんだよ」
「家は高いから、案外実家の家を使ってるのかもよ」
「例えば、両親が亡くなった後も住んでるとか」
「なるほどなぁ」
「でも、それだったら、増築とかリフォームとかすると思うんだけど」
「たしかに」
すると、成瀬葵は、「増築とか検討はしてたみたいだよ」と声を張り上げ、会話の仲間入りを果たそうとした。
「ぶっちゃけ、殺人事件だったら、どうする」
恭介が、突拍子もないことを急に言い出した。
私は「まさか、そんなことあるはず」と口を濁しながら、成瀬葵の顔をまじまじと見つめてしまった。
「わたしが向かいの主人を殺したと疑ってるの、全く心外だわぁ」
成瀬葵は、急に悪態をつき、不機嫌そうな空気を撒き散らせて、「私が殺したとして、凶器は何だっていうわけ、ミステリー好きなのもいいけど、そうやって人を疑わないことね。もし、何もなかったら、私あなたのこと嫌いになるわよ」と言い出した。
「葵さんは、失礼ですがご職業は何をされているのですか。」
私は火に油を注ぐ行為だとわかっていながら、聞いてみた。
「専業主婦で、作家です。」
「ということは、家にいる時間が長いということだね」
それだけで、決定打を打ってしまう頭の弱さを、恐れて、成瀬葵は、「だから、何、」と言った。
「だからって、いつでも、向かいの家に侵入して、主人を殺すことができた。主人と親しかったあなたは、いつ行けば、主人が家にいるかわかっていたんですよ」と私が言うと、恭介と成瀬葵は、爆笑した。
「そんなことで、犯人扱いは、焦りすぎてる」
「向かいだぜ、殺したら、すぐに足がつく、こんな馬鹿なこと、社会人の私がすると思うのがおかしい」
成瀬葵と恭介は、口々に言い出した。
一方その頃、成瀬葵の家の敷地内にある松の木の葉を整えた庭師が、ハサミをパチパチとさせていたー。






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