洗い物競争(ショートショート)

「本日始まりました洗い物競争、優勝者は誰になるのでしょうか。最後まで目が離せない大会ですご覧ください」
私は、洗い物競争というものを、世間に浸透させた人間といっても過言ではない。
もう22回目になる大会の司会も第一回目の大会と比較すれば、楽なものだ。
だからこそ第一回大会はすごく印象に残っている。
たしか会場は、介護施設の調理場だった。
施設長「なんかイベントを開催したいと」
私「はい、洗い物の速さを競う大会を開きたいのですよ」
施設長「まぁ、入居者の方々に迷惑をかけなければいいですけどね」
私「わかりましたありがとうございます」
この時私は施設長に、洗い物大会をするという話をした。
すごく緊張して冷や汗をかいた。
だけど、この時の緊張は、序の口で、開催日当日がもっとも、緊張したのである。
喉仏を触ったり、咳き込んでみたり、緊張のあまり、奇怪な行動をおこなってしまっていた。
私はカメラレンズに向かって、「ついに、第一回洗い物大会を開催する日がやってきました。
では、選手の紹介を始めます。エントリーナンバー1番居酒屋のアルバイト歴21年、効率の良い洗い方を日々研究してきた研究家、日の出省吾選手」と言って、選手の紹介をした。
そしてルールの説明に移行する
「本日のメニューはカレーです。初の大会からかなり手強い、今回日の出選手には、50人分の洗い物をしていただくということになります。
そして、この後控えている選手に脅威となるタイムを出すことができるのかスタートです」
たまたま、大会当日の昼ごはんがカレーだったのだ。
日の出選手は、返却されてきたお皿を洗い物していただくことになるのだが、前半20分程度は、全然返却されてこなかった。
司会者である私は「おそらく、カレーということで食べるのに時間がかかっているのかもしれません」と視聴者に説明をした。
その後、流れるように返ってきて、洗い物が渋滞し始める。
私「おっとどうする日の出選手、洗った食器をカゴに入れる作業をしてますね。おっと、洗い残しかぁー
水が溜まってるシンクに、食器を戻しました」
この時かなり会場がざわついた。
日の出選手の後に控えてる選手が、「えっ、洗い残してたらやり直ししないといけないの」と呟いた。
私はすかさず「あたりまえです」と選手控え室に言いに行った。
そんな時でも黙々と日の出選手は洗い物をしていた。
私が安堵していると、日の出選手は、漂白剤を持ってきて、シンクに溜まっている水に入れた。
私「おっーと、日の出選手、漂白剤を入れました。おそらくカレーの汚れを取りやすいように、入れたと思われます。」
皆が日の出選手を見守った。
選手控え室の選手たちは、日の出選手の行動に、「なるほど…」と言って感心しているようで、洗い物攻略法を熟知している一番手に相応しい選手だと私は改めて感じた。
その後、洗い物が終わり、何時間かかっていたのかという結果がでたのである。
私「日の出選手のタイムなんですが、1時間15分です。」
すると、選手控え室にいる選手たちが、「カレーで、このタイムは、すごい。」や「1時間の壁は手強い」などと、口々につぶやいていた。
そして、次の選手の番となり、次々と洗い物をしていき、それぞれの選手のタイムがでたのである。
私「では、発表します。1番はやかった記録を出したのは、高野選手です」
この時は、日の出選手が、優勝にならなかった。
この大会は、かなり運が左右する大会で、高野選手の優勝に疑問視する声が出た。
高野選手が洗い物をした時のご飯は魚の塩焼き、煮物、などで、カレーに比べると比較的、優しいのではないかという指摘があったのだ。
高野選手が、受賞されてる時、私は日の出選手に少し理不尽な扱をしてしまったことを申し訳ないと思っていた。
それから、大会の見直しがあった………
そして、日の出選手は、第5回目の大会で優勝を果たした………
私は日の出選手が優勝した時嬉しいと思った。
だが、優勝した選手は、優勝しても何も嬉しくない大会だと気づいたと言って参加してくれなくなってしまう。
よく22回目も続いたものだよ
わたし「この大会が、最後になります……選手の皆さん心して頑張りましょう」







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?