夢の化身(ショートショート)

佐藤夢夫には、これといって、目指すべき夢がない。
普通20歳くらいの年齢になれば、やりたいことの二つや三つ出てくるものだが、出てこないのである。
実は夢夫は、高校の時に、父親が資格を武器に、今の職で働いていることを知っていたので、資格というものに憧れを抱いていた。
「なんか、資格を取りたい」
こんな、漠然とした動機と自分にはIT系は向いていないだろうという理由で、介護の道を選び、高校卒業と同時に初任者研修をとった。
しかし、一生介護士として、生きるのは嫌だと思い料理の専門学校に入学した。
料理の専門学校にそういう理由で入り、卒業し、就職した。
就職先に就いたら、コロナが蔓延して、危うい状況になる。
そして、出勤日数は、だんだん減って、2021年の1月からはゼロになった。
少ない出勤日で頑張るが、そのうちだんだん仕事も楽しくなくなった。
親が初期費用を負担してくれたマンションの家賃と携帯代を払い少ない給料を崩す毎日に飽き飽きしていた。
このままだと、仕事もクビになりそうだと思い仕事を探さなきゃと思うが、なんだかやる気が湧いてこない。
そんな時に、調理専門学校時代に知り合った友人から連絡が来た。
友「おぅ、久しぶりやなぁ」
夢夫「どうした。急に連絡してきて」
友「あぁ、心配になって」
夢夫「俺、実は転職しようと思ってんねん」
友「そうかぁ、なぁ夢を売る商売に興味あるか。」
夢夫「夢を売るなんか宗教かぁ」
友「いや、宗教じゃない商売として夢を売る」
夢夫「わけわからんねんけど」
友が「まぁ、来いよ」と言うと同時に電話は切れた。
後日、待ち合わせの日がやってきて、集合場所へと向かった。
そこには、大きな看板で与夢店とかいてあった。
「やれやれなんと読むうんだ。あたえゆめてんか。」
友「そうや、夢の種を作ってる工房でもあるねんでぇ」
「はぁ」
夢夫が、ため息をすると、テレビが騒がしくニュースをしている。
人がバタバタと倒れる不可解な現象と大きな植物が現れたらしい。
夢夫たちは、与夢店の店長に挨拶しに行った。
すると、店長はすごく慌てた様子で、右往左往していた。
夢夫が、「どうしたんですか」と尋ねてみると、店長は、「あの植物は、間違いない夢の種が発芽して、成長した姿だ。夢のエネルギーを全部吸い尽くされてしまう前に早く逃げるんだ。」
夢夫「夢のエネルギーってなんですか。」
店長「叶えようとする夢を必死に追いかけようとする活力のことだ。それを吸われてしまった人間は、抜け殻のように、夢や希望を失い目の前が真っ暗になる。」
夢夫「よくわからないけど、逃げた方がいいんですね。植物が襲ってくるってわけでもないみたいですけど」
店長「馬鹿だなぁ、あの植物は、他人から吸い取った夢エネルギーを消費して成長しているんだ。成長すればするほど、範囲も拡大する」
夢夫「えっー」
友「まじか」
「はぁはぁはぁ…ここまでこれば大丈夫だろ」
夢夫たちは、かなり遠くの高台まできた。
夢夫は、山頂から見える大きな植物を指さして「あれの正体はなんなんです。」と店長にきいた。
店長「あれは、夢の種を地面で育てるとあぁゆう植物がはえてくる。」
友「それってつまり、与夢店で作っている種があの植物を生み出したということですか。」
店長「そういうことだ。」
友「そんなぁ、ぼくたち捕まるんじゃ」
夢夫「あの植物を倒す方法とかないんですか。」
店長「ひとつだけある。あの植物をきることだ。」
友「だめだ近づくと、夢エネルギーを吸われて倒れてしまう」
夢夫「こんなろくでもないぼくでも役に立ちたいんです。いきます」
店長「いいか与夢店の奥に、クワがある。」
夢夫「わかりましたいきます。」
店長「いい友人持ったなぁ」
友「はい」
夢夫は、与夢店に向かって、走った。
なんとか、与夢店にたどり着いて、くわを見つけ出し植物を切ることができた。
そして、平和になった。
倒れていた人は、起き上がって、何事もない毎日は戻った。
みんな意識を失っていたので、店長と友が捕まることはなかった。
それから数日後、夢夫は与夢店の面接をうけることにした。
夢夫「佐藤夢夫です。面接よろしくお願いします」
店長「よろしく、佐藤くんは、やりたいことはあるかなぁ」
夢夫「夢がないので、なんでも、挑戦したいです。」
店長「そうですか。合格です。これから、夢の種について説明します。夢の種は、かならず食べさせてください。体内で発芽させるものですから、これをお客様に説明できるように覚えてください」
夢夫「わかりました」
その後、夢夫は、夢の種を作れるようになり、はじめてのお客さんがつくことになった。
客「これを目指して頑張ろうって思うくらいの活力が欲しいんです。どの夢の種を食べればいいですか。」
夢夫「えっ、えっと……」











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