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読書高等学校(入江貴文編⓹)

読書部の部室では、閻魔の星の感想会が開かれていた。
貴文のことになると、惚れ込んでしまう木島でさえ、本になったことが奇跡だと思う出来であった。
木島絵梨花「正直に言うと、設定が詰め込んでて、とっつきづらい才能のパレードという言葉がお似合いの、文学小説ですねクソですよ。今回ばかりは、恵美先輩の言う通りですね」
その言葉を聞いて、貴文は下を向いて、なんとなく思い当たる節と反省したくてもできないプライドに悩んでいた。
そんなこととは、知らずに、さらに追い打ちをかける。
「そもそも、閻魔様がいる黄泉の国の話が実は、宇宙にある惑星の話だったって結論に、誰が行き着くんですか。それに理解したとしても、ふわふわした印象のまま、スルーされるだけです」
ストレートな批判に、押しつぶされ、ぺちゃんこになってしまった貴文は、後輩である長嶋篠に、助けてほしい何かフォローして欲しいと、淡い期待をしていた。
すると、「そこがいいんじゃないですか、ほらぁ主人公が、死んだ母親に会いに行くところは、感動しますよ」と、長嶋篠が期待通りの、フォローを入れてくれたと思ったら、ガラガラという音がして、恵美先輩が部室に入ってきた。
「全くわかってないわねぇ、そのベタすぎる展開が、この作品の評価を落とす決定的な要因だと言うのに、今の話、丸聞こえだったわよ」
長嶋篠「おはようございます。国岡先生から大事な話があるから恵美先輩は当分休みって聞いてたんですけど」
やはり、生徒の混乱を避けるために、私が停学処分を受けたことは、伏せているのかと学校のやり方に少し嫌気を感じながら「今日から当分休むことになるから、少し挨拶に、実は馬鹿なことやらかして停学になっちゃって」と呟いた。
「なにをしたんだよ、」
少しキレ気味で、貴文が聞くと、少し物怖じしながら、「ちょっと本屋の店長をからかって、ケツを触らせてやったら、それが大ごとになってしまって、停学になってしまいました。」と報告した。
本当にこの人は、何をしているんだという空気感が、漂う
「本当、お前なんだよ、篠の作品に泥酔して、自分が勝手に作ったイメージを押し付けて、ちょっと違った感じで、お話を考えていたからって、がっかりして、急に帰っていったと思ったら、そんなことしてたの、気色悪すぎるんだけど」
めったに怒らない貴文でさえ、この時ばかりは、感情を抑えることができなかった。
恵美は、臨機応変に嘘をつきこの場を乗り切りたかったが、言い訳が思いつかなかったし、したところで、貴文の怒りが収まらないだろうと思い平謝りした。
すみませんの蓮子に、適当さ加減を感じながら、「わかったから、とりあえず反省して、ゆっくり休み」と声をかけた。
その様子を見ていた木島絵梨花は、貴文の優しさに、感銘を受けますますファンになり、入部を決意する。
翌日、小説のために、貴文がバスケ部の練習に参加するというので、長嶋篠は、付きそうことにした。
第二体育館は、男子生徒の汗の匂いが床に染み付いていて、重い扉を開けると、風と共にその匂いが襲ってきた。
むっむっと、顔を顰めながら歩き、溝又先生に声をかけた。
先生は、座りごこちが悪そうな、折り畳みの椅子に腰掛け、うつむいていたが、貴文たちに気がつくと、顔を上げて、ふりかえった。
「大会に向けての練習試合をしてます。へー、後輩さん。貴文くんのファンなの。」
長嶋篠は、初対面なのに、馴れ馴れしい溝又に、すごく仲良くしようという真剣味を感じて、笑ってしまった。
部員たちの練習を、眺めていると、脳裏に、表現したい音、雰囲気が、焼きついた。
勝つために必死な者、嫌々やってる者、体が追いついてない者、すばしっこくって身軽なやついろんな奴らが一つのスポーツを、体育館シューズをキュッキュならせながら、している。
同じく練習を見ていた貴文が「今日は、北川は見学なんですか。」とぼそっと呟いた。
すると、溝又が、「実は、練習中に、足を怪我して、3日後の大会に出られないんです。でも、チームの一員として見届けないと、松葉杖を、使ってまで来てくれました。」と半泣きになりそうなくらいに、瞳をうるうるさせながら、言った。
さっきまで、涙をうるうるさせていたのに、急に、耳の裏を少し掻きながら、「北川の代わりに、試合出てくれへんか。いつも見学させてやってるからいいやろぉ」と言い出した。
貴文は、バスケをやったことがないので、断ろうと思ったが、すこしやってみたいなという気持ちに駆られ、返事に困って口を噤むと、溝又に、「返事がないなら、嫌ってことやねんなぁ」と詰められてしまい「出ます出たいです」と言ってしまった。
長嶋篠は、二人の話を聞くと、大会に応援に行こうと思ったが、ルールが全くわからなくて、練習試合を見てもなぜ反則になるのかさえもわからなかったので、少し勉強でもしてみるかという気になった。
そういうことを思うと、一時的にやってみようと思い立つのだが、3日くらいで辞めてしまうの性分なのである。

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