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『眩暈の波紋』から読み解く『剣爛業火』ー蒼唯ノア幻覚入門ー

概要

『劇場版 ポールプリンセス‼』が公開され本編を執筆中にはすでに3か月以上が経過する。しかし、その登場人物の1人である『蒼唯ノア』については、いまだにわからないことが多い。
 少しでも多く蒼唯ノアのことを理解しようと、蒼唯ノアについての議論が日夜交わされてきたが、蒼唯ノアのことをわかっているオタクはいまだ誰もいない。
 そのうち遂に蒼唯ノアの幻覚を見るものが出始めた。筆者もその一人である。
 今回は本格的に蒼唯ノアの幻覚を語る前に「蒼唯ノアの幻覚って何?」という蒼唯ノア幻覚入門者のため、表題の通り「眩暈の波紋」と「剣爛業火」関連性から蒼唯ノアについての幻覚を順序だてて見ていこうと思う。

はじめに

 蒼唯ノアの幻覚を見るためには、実際彼女が演じているポールダンスを見ることが、入門編としては最も効率的な手段であると考えられる。
 オリジナルWebアニメや、劇場版を見てももちろんよいのだが、本編で描写されるポールダンス以外では蒼唯ノアの出番は極端に少なく10分にも満たない。台詞や挙動、劇場版で御子白ユカリの異変を察知して流れる不穏な効果音から蒼唯ノア幻覚コンボをキメることもできるが初学者には難しいだろう。
 その点、ポールダンスは良い。日本最高峰のポールダンサー達が振付した最高に素晴らしいダンスを元に、それを支えるCG技術、音楽、舞台芸術、衣装など様々な要素が「蒼唯ノアとはこういう人間である」と心を焼いてくる。
 歌手が「歌でしか言えない」ことがあるように、ポールダンサー蒼唯ノアも、「踊りでしか言えない」ことがあるのではないだろうかと思わされるのだ。
 蒼唯ノアの踊るポールダンスは、2024年2月現在『眩暈の波紋』と『剣爛業火』のふたつがある。今回はこの2つのポールダンスから、蒼唯ノアの幻覚を見ていくのだが、ポイントとなる点をはじめに挙げておく。

 「過去と現在と未来」という時間を横軸にした、「星の温度」「天国度」「蒼唯ノアと御子白ユカリ」である。
 この時点ではよくわからないと思うがいったんグラフにしよう。

図1 蒼唯ノア幻覚グラフ

初めて作る怪文書もとい怪グラフにExcelも驚いている。何だこれは?
ともかく、初めて行こう。蒼唯ノアの幻覚を。

※『眩暈の波紋』を見てから読むことをお勧めします。
 また、剣爛業火は各種サイトで配信中です。

本文

1.「眩暈の波紋」と「剣爛業火」における歌詞の共通点

今回の幻覚を見るにあたって、まずふたつの曲の歌詞に共通する、似通った言葉を知りたい。ChatGPT3.5に歌詞を読み込ませ分析を行ったところ、下記のものを抽出できた。

「私」「夢」「舞う」「道」「燃やす(焼き尽くせ業火)」

 これだけで蒼唯ノアのダンスが「私の舞う道と夢」の話なのかもしれないと考えることができる。最後の単語はいったん見なかったことにした。都合の悪いことから目を背けられるのは、幻覚派のいいところである。
 では、この「私の舞う道と夢」に対して何が起こったのか? の幻覚を見ていきたい。まず初めに着目するのは、ダンスで使用されている『色』である。
 これを『ポールプリンセス‼』にとって最も大切なモチーフであろう「星」に絡めて話をしていこう。

2.蒼唯ノアと星の体温

2024年1月、筆者は蒼唯ノアの幻覚を確認しに熊本・八代市に訪れた。一般的な言い方をすると聖地巡礼である(詳細は本誌とは同日のイベントで頒布予定のポルプリ聖地巡礼『ぽるる』に寄稿したので読んでほしい)。
 そこでの夜『ポールプリンセス‼』の舞台の一つである『さかもと八竜天文台』に伺った。

図2.1 さかもと八竜天文台 外観
図2.2 さかもと八竜天文台 入口

熊本の澄んだ夜空に浮かぶ浮かぶ文字通り満点の星を見ながら、職員の方に星の説明をしていただいているとひと際強く輝くシリウスを指で示しながら(正確にはレーザポインタを使いながらだが)職員の方がこうおっしゃった。

「星は赤い星と青い星、どちらが熱いと思いますか?」

「青い星ですか」と、答えると少し意外そうな顔をされた。「赤い星のほうが熱いと思われる方が多いんですよ」と職員の方が言う。

「オリオン座のベテルギウスは赤い星で、その右下にあるリゲルは青いですね」

夜空に見える星は大体が自ら光を発している恒星で、表面の温度で色(光の波長)が変化する。この現象を「黒体放射」と呼ぶ。赤色の星はもっとも温度が低く2000~3300℃、よく見る白い星の温度は7200~10000℃、そして青白い星は10000℃以上、青い星はそれ以上だ。青い星は、太陽よりずっと熱い星なのだ。

図3 星の温度と色の関係
※縦軸と横軸のラベル逆になってるので後で修正します

温度と色の違いが分かったが、そこでどうして星によって温度が変わるのかが気になった。聞いてみるとすぐに答えが返ってくる。

「新しく生まれた星ほど発生させるエネルギーが大きいんです。だから、温度が高くなって青くなるんですよ。逆に、年老いてくるとエネルギーが減ってきて温度が低くなる。だから赤くなるんですね」

赤いほど古い星で温度が低く、青いほど新しいので温度が高い(質量の小さい星も赤くなるとのことだが)。なるほど、とを聞きながら、ふと「眩暈の波紋」と「剣爛業火」にそれを当てはめられるのではないかと考えた。それがこの幻覚のきっかけである。

天文台スタッフの方に感謝をしつつ、蒼唯ノアの幻覚に戻ろう。

「眩暈の波紋」は白くかすんだ舞台から始まり、踊っていく間に青く染まるショーである。
対して、「剣爛業火」にも、いくつかの色が印象的に出てくる。もちろん燃え盛る炎の色でもある赤、青の2色だが、一瞬舞台が白く染まる瞬間もある。

東雲 ふいに見え隠れ 浮世の世界

ここのシーンで背景が一瞬だけ白くなるのだ。
浮世とは大辞泉によると「死後の世に対して、この世の中。現実生活。人生」のことである。ここから、白色を現在と仮定し、ほかの色もこれまでの内容をもとに、過去・現在・未来に当てはめてみた。

過去:赤(温度低)
現在:白(中間)
未来:青(温度高)

上記に基づけば眩暈の波紋は現在~未来の話だが、剣爛業火は過去~未来の話となる。眩暈の波紋にはなかった赤(過去)が、剣爛業火では出てきている。
劇場版でエルダンジュの3人が作った大会用のプログラムはすべて御子白ユカリの要請により「これまでのイメージを刷新する」「最高を塗り替える」ことをテーマに作られている。その期待に応えるため、蒼唯ノアが今まで見てこなかった過去(赤)を振り返り、未来(青)の自分を新しく、より熱くすることを試みたという幻覚は見れないだろうか。

ここではそういうことにして、話を進めていきたいと思う。

余談だが、青い炎より熱くなるのは紫色の炎なのだそうだ。白より青より新しく、熱い星になる可能性があるのが紫色の星であるということは、エルダンジュの3人の関係性を考えると少し面白いと思う。

3.蒼唯ノアの天国と地獄

色によって過去~未来の違いがあるのではないか、という話をしてたが、ここではその過去~未来が蒼唯ノアにとってどのようなものである(あった)のか、を考えてみたいと思う。

その時に着目したいのが「眩暈の波紋」、「剣爛業火」両方に共通する仏教の世界観だ。

①仏教における天国と地獄について

幻覚を見る前に、仏教の世界観について狭く浅く整理しておく。
仏教において人が輪廻転生を繰り返す世界、六道(天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道)はそのほとんどが「須弥山世界(しゅみせんせかい)」という宇宙の一部であるという。須弥山世界は一番下から風輪、水輪、金輪という巨大な円筒が積み重なっており、金輪のなかに地獄道や餓鬼道が含まれている。
円筒の一番上には鉄囲山という山に囲まれた海があり、その海には4つの大陸「東勝神州(とうしょうしんしゅう)」・「西牛貨州(さいごかしゅう)」・「南贍部州(なんせぶしゅう)」・「北倶盧州(ほくくるしゅう)」が浮かんでいる。この4つの大陸は人が住むので人道という。須弥山世界の上空にあるのが天道である。

図4 須弥山世界の構成
草野巧|図解天国と地獄 [F-Files No.009]. より引用

初めてこの図を見たとき「ポールだな」と思った。世界はポールでできていて、衆生(生きとし生けるもの)はこのポールの中を回って生きているのだ。これが言いたかっただけなので今書いたことは忘れてくれても問題ない。(しかし人が住む場所が東西南北の大陸であることは、なかなかよい一致だなと思う)

言いたいことは要するに、天国※と現世(浮世・人道)と地獄があって、眩暈の波紋・剣爛業火に共通して言えることは「蒼唯ノアはポールを使って天国を目指しているように見える」ということだ。その理由については後述する。

※「天国」はキリスト教の言葉であり、仏教の世界に「天国」はない。善行を積んでいけば六道の最上位にある天道と呼ばれるところに行けるが、これも結局六道の世界のひとつであり、輪廻転生を繰り返しても解脱をしないかぎり生きる苦しみから逃れることはできない。
この六道の世界を抜け出したときに行く場所が「浄土(極楽)」だが、ここでは「天国」というなじみのある言葉で置き換え、地獄との位置関係をイメージをしやすくしていると考えてもらうとよいかと思う。
幻覚派のいいところは細部がいちごミルクティーより甘くても「だから幻覚って言ってるじゃないですか」と開き直れるところである。

そもそも本当に蒼唯ノアのダンスに仏教の要素はあったか? と問われるかもしれない。ここでサンプルをひとつあげる。「眩暈の波紋」では、(こちらはショーに出てこない二番の歌詞だが)このような歌詞がでてくる。

空の糸を 永久(とわ)に見上げて
ただ心だけが 要返し

ここはおそらく芥川龍之介の「蜘蛛の糸」が元ネタだろう。説明するまでもないと思うが、地獄に落ちた罪人を救うため、天国にいるお釈迦様が空から垂らされた糸のことだ。糸を垂らすのは蓮池から。眩暈の波紋のステージの水面に浮かぶ蓮も、そのイメージにそったものと考えられる。

空から垂らされるひとすじの糸は、銀色のポールを彷彿とさせる。(蜘蛛の糸の罪人たちのように我先にとしがみつくことはなく、ただ見上げて要返しをしていたらしいところに、優柔不断な性格がでているように思えるが)ポールをつかむこと、それを伝って上にのぼることは、蒼唯ノアにとって現在の環境から抜け出すための唯一の救いだったのではないだろうか。というように、こじつけ、もとい幻覚を見ていこう。

②蒼唯ノアの現世(白)
眩暈の波紋」は白く靄のかかったような舞台から始まる。白=現在(現実)という仮定に基づいて考えると、ここが蒼唯ノアの現状を表していると考えられる。現状とは何か、を考えるにあたってひとまずプロフィールを確認する。

ここで「八方美人で事なかれ主義の性格だが空気を読みすぎて『自分』が無いのではないかと悩んでいる」とある。

「白」は、高潔さや素直さ、物事の始まり、何物にも染まっていないというイメージを持たれることが多いが、このステージに用いられている白は始まりを表すとともに「自分がないこと」の表しているのではないだろうか。

敷かれた ひとすじの道 迷わず歩いて行けば
誰もが幸せになる 波風も立たずに

ここでうたわれる歌詞の内容からも、自分の行く道を自分で選んだわけではなく、誰かに「敷かれた」と思っていることが伺える。
蒼唯ノアは「有名な日本舞踊の家元の娘」として生まれている。その話についてはWeb版、劇場版どちらにも一切触れられていない。ただ、二番の歌詞に「名前を継ぐ 道のりは非情」とあることから、蒼唯ノアが家を継ぐ立場にあるらしいことはわかる。ここから(現状オタクの妄想でしかないが)「家から跡を継ぐよう言われており(それが既定路線で)ポールダンスの道に進みたいが本音を言えず悩んでいる」という可能性があるのではないかと考えられる。

また、「白」は言うまでもなく御子白ユカリの色である。蒼唯ノアは御子白ユカリに誘われてポールダンスを始めた。詳細はわからないが、八方美人と書かれるくらいなので、ポールダンスも誘ってきた幼馴染にいい顔をしたくて始めたのかもしれない。最初からポールダンスに対して、星北ヒナノのように「これだ!」と思うまっすぐな強い意志を持てたなら、そもそも自分がないと悩むことはないのではないだろうか。

実家が敷いた日本舞踊の道にせよ、御子白ユカリの誘ってくれたポールダンスの道にせよ、蒼唯ノア自身のつかみ取った道ではなかった。故に悩んでいるという状態が現在なのだと思う。では、この白を蒼唯ノアはどのような色に染めていったのだろうか。

③蒼唯ノアの地獄(赤)
眩暈の波紋では、白い舞台が暗転した後、青いステージへ切り替わる。ここで青の話をする前に「剣爛業火」にでてくる赤の話を挟んでおきたい。
ここまで話をしてきたが、赤は過去の色である、という前提で話をすすめる。

「剣爛業火」では最初、ステージの背景に赤い彼岸花が咲いている。死者が帰るころに咲くことから、彼岸花は別名は「地獄花」という少し怖い名前が付けられている。また、タイトルの「業火」は、「地獄の罪人を苦しめる猛火」のことだ。そもそも蒼唯ノアが「鬼は私」と言っていて「ここは地獄ですよ」と全力で教えてくれている。その地獄で何があったのかはわからない。

惨状も干渉も喪失感(かなしみ)も断ち切りたくて
茨の海で 傷を舐めて 生きていたくはない

前述の眩暈の波紋で「敷かれた道」と言っていたことを踏まえると、ここでいう地獄は家のことであり、「実家からの『干渉』があったのかな」と推察することはできる。惨状と喪失感については現状これだと言えるものは何もない。

極端な話をすれば実家の人を殺して家に火をつけてしまった喪失感かもしれないし、朝起きたら実家の母親から「ノアさん、ポールダンスはもうおやめなさい」と100件LINEが届いていて思わずブロックした喪失感(かなしみ)かもしれない。「なんか大変なことあったのかな……」と心配するほかオタクにできることはあまりないのだ。

しかし冒頭の「清し女 不浄を宿して舞うけれど」の歌詞で少しだけ推し量ることはできる。
現状日本で「セクシー」なものと偏見をもたれがちなポールダンスと対照的に、日本舞踊は「清楚」、「上品」という偏見をもたれがちだ。ここから日本舞踊を舞っていた「清し女」がポールダンスという「不浄」を宿したと考える向きもある。
ただ、個人的には日本舞踊を舞っていた過去の自分が不浄(穢れている)と言っているのではないかと考えている。蒼唯ノアは「不浄を宿して舞う」ときはポールに触っておらず、触るのは「浮世の世界」が見えたときであるからだ。

最初に被っている狐の面からもそのことを推し量ることができるかもしれない。一般的に「女狐」は悪女、あるいは娼婦の別称だ。また女狐ではなくても狐には人を化かしてきたということから嘘つき、ずるがしこい、というイメージも根強い。
もともとの案にあったという九尾の狐も元ネタは「玉藻前」という美しい娘に化けた妖狐であり、上皇に取り入って悪事を働くが正体を見破られ、逃げた先で殺される不浄な存在だ。そして彼岸花の別名は「狐の松明」「狐花」ともいう。
初見だと業火に脳を焼かれて「最初の狐面なんだったんだ?」と思いがちだが、こうしてみると、一見関係なさそうな狐の要素もダンスに深くかかわっている。最初に狐の面をはぎ取ることで、過去の自分との決別をしている、そこから抜け出したがっている、と読み取ることもできるのではないだろうか。

炎の色やステージの彼岸花だけではなく、もう一つ赤が印象的に使われている箇所がある。蒼唯ノアの目の色である。

蒼唯ノアの目の色は日常生活ではどちらも青。ポールダンスを踊る際は、右が少し薄い青緑色、左が青色になっている。青緑色は蒼色とも呼ばれる。

この目の色が、下記の歌詞のときに両目とも赤くなる。

色は時間軸を表すという仮定に基づくと、両目が赤くなっているときは過去の自分を表していると考えられる。それを裏付けるかはわからないが、過去の自分であるとき蒼唯ノアはポールにのぼらず触りもしない。「剣爛業火」は荒々しいダンスだが、ここでは日舞を舞っているかのように優雅に踊る。

その目を閉じて塗りつぶせ
退路の目印は

過去のことを思いだすときに人は目を閉じるのではないだろうか。過去を思って塗りつぶす退路の目印は、かつて「敷かれたひとすじの道」への標なのかもしれない。逆に未来を見据えるときは、目を開くのではないだろうか。目を開いた蒼唯ノアは右目は赤いまま、左目が青く光っており、剣から吹き上がる炎もここから青と赤の二種類の炎が混ざり合う。より激しさを増すことになる。

④蒼唯ノアの天国(青)

ここまで「眩暈の波紋」で現世(白)と、「剣爛業火」で過去の地獄(赤)についての幻覚をみてきた。
では、「眩暈の波紋」と「剣爛業火」に共通する未来(青)はどのようなものだろうか。まず、「眩暈の波紋」から見ていきたい。

「眩暈の波紋」の中では「ひたすらに昇るどこまでも」と扇子を空高く投げ上げる。一番高くまでのぼった扇子が星のように強く輝いた後、舞台上のサクラが青白く光ってステージ全体が青くなる。

この前後にこのような歌詞がある。

サクラはきっと強く 命を燃やすから美しい

さぁ巡る季節と ともに生まれ変わる

サクラは歌の中でもよく用いられるモチーフだ。儚い命の美しさをうたわれることが多いが、このサクラはただ綺麗に散りゆくわけではない。命を燃やして生まれ変わる強さを持った存在である。
衆生は輪廻転生を繰り返しながら上の世界を目指し、いつか天国にいけることを願う。ここでの青いサクラ≒蒼唯ノアは生まれ変わり、ポールを回りながら「ひたすらにのぼる」ことで、天国を目指しているのではないだろうか。

ここまで「眩暈の波紋」の青を見てきたが、剣爛業火の青はどのように扱われているのだろうか。

45秒くらいに、蒼唯ノアの目が青くなっていることが観察できる。
「眩暈の波紋」と一番大きく違うところは、青だけではなく赤が混ざっていることだ。右目が赤、左目が青になったことと同じように、ステージ背景の彼岸花も、蒼唯ノアの目のように二手に色を分けて燃え盛る。花が青くなることは眩暈の波紋でもあったが、今回はすべてが青くなるわけではない。我々から見て左側は赤い彼岸花のままで、右側の彼岸花が青く燃える。

「眩暈の波紋」では白かった世界を青く染めた蒼唯ノアだが、「剣爛業火」では赤を残しているのはなぜだろうか。家の跡継ぎとポールダンス選手としての道の両立を選んだとも考えられるが、退路の目印はすでに塗りつぶしているので、家の跡を継ぐことは斬り捨てたように思える。

ほら 本当の夢に 手をかけた
私でなけりゃ 私にはなれないと

前述したが、ここで、蒼唯ノアはポールを愛おしそうに触る。ここから蒼唯ノアの夢は「ポールダンスの道を生きていくこと」と思われるが、ポールダンスの道であれば御子白ユカリも通る道である。同じ道であれば彼岸花は白くなるはずだ。

誰もまだ 踏みしめてない道 進むよ

御子白ユカリですら通らない道を進む、その道は、赤い過去(日本舞踊)と青い未来(ポールダンス)を融合した新しい踊りのことなのではないかと思う。
「ポールプリンセス‼」ではバレエ、体操、コスプレなど様々な背景を持った人間たちが踊り、そのバックボーンを持つことで自分らしいダンスを見せてくれる。そしてそれゆえに人の心を打つ。
蒼唯ノアのバックボーンは言うまでもなく日本舞踊だ。「眩暈の波紋」まで出していなかった過去と向き合い、過去の自分に戻る道は斬り捨てたうえで、自分にしかできない新しいポールダンスの道を作る。それが蒼唯ノアの剣爛業火に込めた決意表明なのではないだろうか。

先ほどの背景を見てほしい。右目側は赤い彼岸花が青い炎に燃やされているのに対し、左目側の青い彼岸花は赤い炎に燃やされていない。赤より熱い青い炎で過去を燃やしつつ、取り入れていくという意志が強く感じられる。彼岸花の別名についていくつか話してきたが、最後にもう一つの別名を書いておきたい。彼岸花の別名は「曼珠沙華」、サンスクリット語で「天に咲く花」である。地獄の花は、天に咲くこともできるのだ。花言葉は「あきらめ」と「悲しい思い出」そして「情熱」と「独立」である。
もはや白い空間で自分を見失っていた少女はおらず、辛かった過去の地獄を見つめ受け入れることで、「眩暈の波紋の先」に未来という自分だけの青色を手に入れることができたのかもしれない。
その心境になるまでに蒼唯ノアに何があったのか? それは劇中には一切描かれていないのでわからない。「なんか大変なことあったのかな……」と心配するほか、オタクにできることはあまりないのだ。
もし今後「劇場版ポールプリンセス‼  side エルダンジュ」があればわかるかもしれない。おそらく出ることはないと思うが、出た暁には「全然違うじゃん」と笑いながら、うれしく思うことだろう。

4.御子白ユカリと蒼唯ノア

以前Xのフォロワーが「蒼唯ノアがなぜ御子白ユカリの側にいるのか」とつぶやいていたことがあった。せっかくの機会なので今回の話と絡めて、それを最後の幻覚にしたいと思う。

そもそも眩暈の波紋の「眩暈」とはなんだろうか。それは御子白ユカリが「Queen of Fairy Sky」で開始10秒で教えてくれる。なお「Queen of Fairy Sky」は作詞も「眩暈の波紋」、「剣爛業火」と同じマイクスギヤマ氏が担当されている。

魅せつけてあげる
眩暈起こすほどの Fantastic

蒼唯ノアは御子白ユカリに誘われてポールダンスを始めている。実際の動機はわからないものの、御子白ユカリのポールダンスに眩暈を起こされてしまったようだ。

「眩暈の波紋」には「Queen of Fairy Sky」の内容が色濃く反映されている。実質返歌と言ってもいい。

御子白ユカリが眩暈を起こそうとすれば、蒼唯ノアは眩暈を起こすし、御子白ユカリが水面に軌跡を描けば、蒼唯ノアは胸の中で水面に舞う花びらを想う。御子白ユカリが「私以外になれない」と言えば自分のない蒼唯ノアは「眩暈の波紋」で「本当の私をみせたい」と願うし、「剣爛業火」で「私でなけりゃ私になれない」と歌いだしてしまう。

実際蒼唯ノアが御子白ユカリへの持っている感情がどのようなものかはわからないが、蒼唯ノアに対して大きな影響を与えている存在であることは間違いない。

ただ、なぜそこまでの存在になっているのかは、「剣爛業火」のこの箇所が考える際のヒントのひとつになると思う。

東雲 ふいに見え隠れ 浮世の世界

前の項でも出てきたがこの歌詞をうたうとき、ステージが一瞬だけ白く光り輝く。これまでの仮定の通り、白は現在を表すとすると、これが御子白ユカリのみせた世界のことではないだろうか。

蒼唯ノアにとって過去の地獄とは惨状であり茨の海である。不浄を宿して舞っていた清し女が、御子白ユカリに新しい世界を見せられ、上にのぼろうと本当の夢に手をかけることができたとするならば、蒼唯ノアにとって御子白ユカリは天国への道をくれた救いの神である。ストーリーの中で紫藤サナが「ユカリ様とペアだなんて、え? ここ天国? って感じです!」と言っていたが、蒼唯ノアはすでに御子白ユカリのおかげで天国への道をつかんでいたのかもしれない。
その存在をとても大切に思うことは自然な成り行きかと思う。だからこそ、御子白ユカリとは違うポールダンスの道を歩いたとしても、蒼唯ノアは御子白ユカリの側にいるのだろう。

ところで、御子白ユカリのことを特別に思っていることは眩暈の波紋に出てくる扇子からも読み取れる。蒼唯ノアの持っている青い扇子には白鳥が描かれている。白鳥は御子白ユカリの好きな動物だ。
扇子は表と裏どちらにも白鳥が描かれており、金の川に流されるように浮かぶ白鳥と、その川から飛び立ち空に舞う白鳥の絵がそれぞれ描かれている。川の流れに従う白鳥は、敷かれた道に従う人間、川から飛び立ち空に舞う白鳥は、そこから抜け出し自分の道を行く人間のことを指しているのだろう。この白鳥は蒼唯ノア自身のこと、もしくは御子白ユカリへの憧れを意味していると思われる。どちらにせよ、御子白ユカリへの強い想いが反映されていることは確かだろう。

「眩暈の波紋」では川に浮かぶ白鳥の絵のほうが多く出ているが、空に舞う白鳥が出てくる箇所はどれも印象的なものだ。

敷かれた ひとすじの道 迷わず歩いて行けば
誰もが幸せになる 波風も立たずに

一番最初に扇子を開くのはこの場面である。本文の中で何度かでてきた歌詞だが、「波風も立たずに」と歌った後に開いた扇子の絵では白鳥が羽ばたいている。実質、波風立てるぜ宣言である。

水面に舞う凛とした微笑
本当の私を見せたい

ここでも白鳥は空を舞っている。水面に舞うのはもちろん御子白ユカリだ。蒼唯ノアが「本当の私を見せたい」のは御子白ユカリだけなのかもしれない。

眩暈の波紋の先へ

そして最後に歌い終える時にも、白鳥は空を飛ぶ。

「眩暈の波紋」は蒼唯ノアが自分をつかんで高みにのぼりたいという願いであり、同時にそう思わせてくれた御子白ユカリへのラブレターのようなものだ。分かりやすい言葉や仕草で伝えているわけではないので、御子白ユカリに届いているかは分からないが。

結論

ここまで「眩暈の波紋」と「剣爛業火」というふたつのポールダンスについて、長い幻覚をみてきた。そろそろまとめに入ろう。
まず、過去と現在と未来という時間軸に対して、星の温度の低い順から、赤は過去を表し、白い星は現在を表し、もっとも温度の高い青い星は未来を表していると仮定した。
ここから色によってそれぞれのポールダンスを読み解いていくと、「眩暈の波紋」は、現在(白)と未来(青)、「剣爛業火」は過去(赤)と未来(青)の要素が組み合わさったダンスであることがわかる。過去の世界は赤く燃える地獄であり、白い浮世を通って青く光る天国に行こうとしている。
この際、蒼唯ノアにとって御子白ユカリはとても大切な存在であり、彼女の存在と共に上を目指していることも伝えられる。
これらをまとめたうえで、最初に提示した怪グラフに戻ろう。

図1 蒼唯ノア幻覚グラフ(再掲)

星の温度が熱くなるほど、より未来へ、より高みへのぼっていく蒼唯ノアと御子白ユカリの幻覚はもう見られているだろうか? もっと熱く、もっと高くへのぼりたいエルダンジュの今後を、今からとても楽しみにしている。

ところで最後までほぼ触れられていない紫藤サナについてはどうしたんだ? と思うかもしれない。「眩暈の波紋」と「剣爛業火」からは紫藤サナの要素が一切なく、ほぼ蒼唯ノアと御子白ユカリのことばかりしか読み取れない。
ただ、前述したとおり紫の星が青い星より熱く、未来に生きる星なのだとしたら、蒼唯ノアと御子白ユカリの物語は紫藤サナによってより熱く高くのぼっていくのかもしれない。紫藤サナの今後に注目である。

おわりに

始めに書いた通り、蒼唯ノアの情報はとても少ない。台詞は5分とないし、元となったポールダンスは10分にも満たないだろう。ただ、それだけでも1万字を超える幻覚をみることができた。1万字は超えたが、幻覚はまだすべて書き切れていない。
タイトルに「幻覚入門」と書いたとおり、ここに書かれていることは蒼唯ノアでよく見られている幻覚の一部にすぎない。蒼唯ノアにかぎらずほかのキャラたちについても同じようにたくさんの幻覚を見ることができるだろう。

「ポールプリンセス‼」の魅力は星の数ほどあるが、そのうちの一つが、少ない情報量からもそのキャラがどのような性格で、どのような悩みがあるのか、人それぞれ思い描くことができるような懐の広さがあることだと思う。それはポールダンスの良さにかぎらず、ストーリーや演出がとても丁寧につくられているからであり、何度見ても新しい発見がある。そのことが多くのオタクたちを惹きつけてやまない理由なのではないだろうか。改めてこの素晴らしい作品に出会えたことを幸運に思う。

ところで、これは「考察」ではなく、あくまで「幻覚」である。断定表現はできるだけ控え、あくまで可能性として「そういうこともあるかもしれないね」というスタンスで書いた。蒼唯ノアの過去になにかあるかもしれないと書いたが、無くてもまったく構わない。
蒼唯ノアの幻覚を楽しく見つつ、いつか新しい蒼唯ノアが見れることを、わくわくドキドキしながら待ちたいと思う。

などと言っていたら、4/15に作詞家のマイクスギヤマさんが、ポルプリ楽曲についてのスペースが開催されるとのことなので、いきなり答え合わせがきてしまうかもしれない(あるいは、わんぷりの話になるかもしれない)と、今からいろんな意味でドキドキしている。

最後に、「ポールプリンセス‼」制作関係者の皆さま、ポールダンスに関わる皆さま、ポールプリンセスを応援するすべての人々に感謝をささげます。ポールプリンセス、本当に最高の作品です。

参考資料

・草野巧. 図解天国と地獄 [F-Files No.009]. 新紀元社, 2007
・芥川龍之介.芥川龍之介全集2.ちくま文庫,1971
・中嶋浩一.天文学入門 星とは何か.丸善出版,2009
・weathernews「青白い星は2万度超え!?星の表面温度と色の関係」https://weathernews.jp/s/topics/201710/250125/
・国立科学博物館-宇宙の質問箱-恒星編
https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/stars/stars02.html
・仏教ウェブ入門講座(日本仏教学院)
https://true-buddhism.com/teachings/gokuraku

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