ポップコーンの授業
私がはじめて学校に勤めた時の話。
そこは通信制高校の技能連携施設。わかりやすく表現するならサポート校に近い学校で、学習障害の生徒やヤンチャな生徒などがごった煮になっている、所謂教育困難校だった。
理科の教員免許を持っていたが、情報科で採用された。まだ、情報科がない時代で翌年から教科として始まる年だった。
採用されたものの、急に渡されたテキストは自分の知らないプログラミング言語のBASIC。理科も物理など専門外含め週22時間持たされ、翌朝から睡眠時間は平均2時間。仕事は深夜までは当たり前で常に疲れていた。
毎日がありえないことの連続で、授業中殴り合いが始まったり、消火器をぶっぱなして教室が薄ピンクの煙に包まれたり…。書けないことも山盛りで学校の概念を見事に壊された。
当然、授業なんか聞かない生徒が多くいる。
普通の授業なんか望めない。
ある時、授業をしていてプツッとキレた私はなぜ授業を聞かないのかと生徒にぶつけた。返ってきた答えは…
「だって、つまらないんだもん。役に立たないし、わからない」
そこで、彼らにどうすれば伝わるのか。
次の時間から“水”の話。スーパーで悩んでいたときにポップコーンを見つけた。
生徒を実験室に集め、「今日は水についてやります」
ポップコーンを炙ってしばらく黙っていると、座ってられない生徒達が集まる。
「先生それ食べたい。くれるの?」
その時を待っていた。「ポップコーンが弾けて膨らむ理由を答えられた人は食べていいよ。」
ポップコーンを食べたい生徒達は色々想像しだした。やっとスタートに立ったと思った。
皆さんなら容易に想像出来ると思います。ポップコーンの種には水分が含まれ蒸発することで種の圧力が高まり弾ける。
彼らは答えることが出来て美味しそうに食べていた。
教える時、考えたいのは今目の前にいる生徒の興味・関心を育てる授業。このような授業は高校生には簡単すぎるけれど、生徒の目線に立つ。
今でもこの授業は覚えていて、私が小道具や食べるものなど手を替え品を替え授業をしだしたきっかけになっている。
当時、拙い授業の技術ではあった。でも、伝えたい心は今も昔も変わっていない。
ポップコーンを見ると初心を思い出す。目の前の生徒に伝えたいという思い。