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ぶりかえし童貞マインドの呪縛

小さな恋の物語を少し。

私は2年前に妻と離婚し、一人暮らしになった。

ワンルームマンションに住むようになり、女の子を連れ込む訳でも無い部屋は、無骨で不潔。
家にあるものと言えば『こたつ』『パソコン』『漫画』『レコード』『ガンプラ』と我が城は真性童貞ハウスと化した。
20代に一人暮らしをしていた頃と違う物といえばエロDVDの棚が無くなり、パソコンがエロDVDの代わりになったぐらいだろう。

心臓の病気を患ってからは、めっきりエロ方面の馬力も無くなり、僧侶のごとく慎ましい生活をおくり私のエロパソコンが起動する事は無かった。

私はエロと言うモノを諦めると、物質的は興奮や快楽より妄想へと走って行くのである。
屈折した妄想や思考から生み出されるファンタジーという名の勘違い。 
これぞDT童貞マインド。
思春期、非モテ男子におとずれるアレだ。

その前兆はわたしが入院していた頃には始まる。

心臓の手術が無事終わり看護師さんから、少しリハビリも兼ねて廊下を歩いて下さいと言われた。

ベットから起き上がりゆっくり立ち上がる、目の前が白くなりフラフラした。
ずっとベットに寝ていたせいで血圧が低いのだろうか、まさに病人の動き。
一度ベットに座って窓側の景色を見た、真っ白な景色がだんだん治まって視界が晴れてくる。
窓から見える公園の木が風で揺れているのをしばらく眺めた。
『公園の木、綺麗やなぁ』
生死の淵を渡ってきたせいなのか、今生きている事を噛み締めていた。


廊下を歩く、指に付けた心拍計を見ながら心拍が上がりすぎないように慎重に歩く、小股でゆっくり進むが完全にスターウォーズc3p0の動き。
10メートルも歩いてないのに息が上がってくる。
看護師さんのがんばって!の目配せに、私の頭の中にはスターウォーズのテーマソングが鳴り響く、フォースと共にあらん事を。。。足がツリそ。 

やっとの思いで談話室に着いた。
椅子に座って一息、見渡すと浴衣を着ているご老人で埋め尽くされたテーブルの中に、一人だけカジュアルな洋服の女性に気がついた。

少し前に田村正和さんがお亡くなりになり、追悼番組の『古畑任三郎』が再放送していた。
それをかぶりつくように見る女性。
歳は私より少し下かな?小柄で目がくりっとしててショートカット。

吹雪の中、山をさまよう私が見つけた一輪の花。
仮名『古畑観る子』以下:ミル子
その花はこんな私よりも弱く衰弱してる様にみえた。

生粋のDT童貞マインドの私は声もかける事なく。
夕方の時間にc3p0リハビリを行い談話室まで行く、何時も『古畑任三郎』を見る彼女を何となく見ながら窓から見える街並みを眺める孤高な男を演じる日々が続いた。

そんなある日思わぬ展開が起きたのだった。

ピクチャ 3


第二章 恋は何時も突然に。

病院の1日は長い、朝6時に起きて血圧や体温を測ったら、次のチェックポイントは昼ごはん、そしてゴールは晩ごはん。

そんな単調な日々の楽しみは『金曜ロードショー』しかも今晩は『グーニーズ』(開発せまる港町を舞台に、海賊の財宝を捜して悪ガキ集団グーニーズが繰り広げる冒険を描く、スティーヴン・スピルバーグ監督の80年代映画!)
私が大好きな映画だ。

私は晩ごはんを早々に済ませ談話室テレビの前に鎮座した。
本当ならポテチとアイスクリームをテーブルに用意してソファーに座りながら見たいのだが、食事制限中の私には、水とお茶を交互に飲み味変する事しか出来ない。 
そー言えば今まで何も食べずにグーニーズを見た事がないかも、、、考え方を変えれば、その方が映画に集中出来るではないか!
よし今日はグーニーズに集中する!!
そう心に誓いながら、、

『あの〜リモコン借りていいですか?』
突然ミル子が現れ、私のリモコンを取り上げた。
『え、ええ!?』
『Mステ観なあかん思ってー』
そう言いながらサクサクとチャンネルを変え僕の前の席に座った。
『いや、あ、、。』
私は突然の出来事に何も言えず、ミル子の隙間から見えるタモリだけを見ていた。

『あ!もしかして何か観てました?』
『いやグーニーズ観よかな思って』
『え!グーニーズ懐かしい〜〜!』
『確かファミコンとかもありましたよね!』

そんなきっかけで私はミル子ちゃんと仲良くなり、自分の病気の事や、病院食の不満などを話した。
お年寄りばかりの病棟だったのでお互い年の近い人を見つけて嬉しかったのだろう。
話はつきなかった。

グーニーズなど何処へやら。。。

話を聞けばかなり重い病気でもう2ヶ月ぐらい入院しているそうだ。
この場所には病気や症状が違えど、共通の一体感がある。

『今日を一生懸命生きる』

2ヶ月、一人で毎日頑張ってきたミル子ちゃんを見てると、私の頭に山下清のドラマ『裸の大将放浪記』の挿入歌が流れ出した。

野に咲く花のように 雨にうたれて
野に咲く花のように 人を穏やかにして

そんな野に咲く花を見つけた、そんな穏やかな気持ちだった。

そんなこんなで、談話室で話せる相手が出来たのも嬉しかったし、退屈な毎日に光がさした。


ミル子ちゃんは焼肉が大好きだそうで僕のオススメのお店を教えた。
『もし退院して教えてもらった焼肉屋で偶然再開したら嬉しいですね!』
『それまでお互い頑張って生きましょう』
『絶対死んじゃダメですよ!』
名前も連絡先も知らないどうしの約束。
ましてや退院出来るかも分からない。
『約束!』
必ず焼肉!死んでたまるか!と言う強い思いの約束だった。

『あ、そういえば、コレ渡そうと思ってて』
ミル子ちゃんがポケットの中から飴玉を出してきた。
『甘いものとか食べてないでしょ?内緒でコンビニで買ってきたんですよ』
『食事制限大変だって言ってたし、内緒で!たまには良いでしょ。』

ミル子ちゃんが笑顔で飴玉を差し出した。

『あ、いや、あ、大丈夫!いらない』

『えっ!』

ミル子ちゃんのびっくりと悲しいの間ぐらいの顔お観て気付いた!

あれ!俺なんでいらないって言ったの!
あれ!あれ!
絶対欲しいヤツやん!何で断るの!
え!嘘!いや!えーーーー!

DTマインド炸裂!!!!

もちろん変な雰囲気になり二人とも病室に帰った。

病室のベットに入り布団を頭までかぶり思い出していた。
中学生の時に同じ様なトラウマがあった事を、、、、。

私は部活を終えて帰宅の準備をしていた、部室に忘れ物をしたので取りに行くと部室の前で同級生のヤンキーが立っていた。
ヤンキーだがオシャレで美人、クラスではイケてる組で目立つ存在だったが、私とはほとんど会話した事がなかった。

『あのコレ渡したくて。。。』

そこ子はチョコレートらしき物を差し出してきた。
そう、今日はバレンタインデー。

ちょと待てぇーーーい!
ええええ!俺にぃぃいいいいい!!
神様仏様こんな僕に良いのですかぁーー!!
坊主で童貞の僕に良いのですかぁーー!!
神様!まだ歯を磨いていません!
仏様!リップクリームをかしてください。
やったあぁぁぁぁああああ!!

『いらんわぁ!俺そんなん興味ないねん』

その時のヤンキーの子の顔も、びっくりと悲しいの間ぐらいの顔をしていたのを今でも鮮明に覚えている。
タイムマシンで戻れるなら殴ってでも助言したい。

『黙ってもらっとけ』

なのに、、私はまた同じ事を繰り返している。
中2の真性DT童貞マインドをぶり返している!

正しく ぶり返しDT童貞(通称ぶりD)

昔からDTマインドの呪縛に囚われ、ど真ん中のホームランボールが来ると打てない症候群だった。
女の子からしたら、ただ軽い気持ちで渡そうとした物がDTマインドのフィルターを通ると。

『おっぱい舐めて。。。』

と聞こえてしまうのである。
無理そんなん無理!
無理やって
まだキスもしてないのにぃ
いきなりおっぱいなんて無理ぃ〜〜〜〜〜!

このマインドがおっさんになってから、ぶりDとして舞い戻ったのだ。

おわた。

そんなこんなで、ミル子ちゃんは翌週めでたく退院し、連絡先もインスタのアカウントも聞く事なくさよならした。

コレが私の小さな恋の物語。ぶりかえし童貞


ぶりDの呪縛から解き放たれる時は何時なのか。
神のみぞ知る。

それまで今日を生きて生きて生き抜くのだ。

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