四大陸2022

 1月21日、四大陸選手権で村元哉中・高橋大輔組が銀メダルを獲得した。アジア代表カップル史上最高位、同大会最高齢メダリスト、2つのカテゴリで表彰台に上がったのも大会史上初(どちらも高橋)と、並べきれないほどの初物が並んだ快挙である。


 決してベストの演技では無かった。リズムダンス、高橋はいくぶん強張った表情でリンクに上がった。冒頭、上がりきらなかった村元の脚を高橋がくぐれず、村元が大きく転倒。フリーダンスでも、ここまで得点源としてきたツイズルに微妙な乱れが出るなど、昨年11月にワルシャワカップで記録した自己最高得点には10点ほど及ばなかった。
 しかし、ミスがありながらもベースバリュー(技術基礎点)は全組中トップ。優勝したグリーン・パーソンズ組との差はGOE(出来栄え点)の占める割合が大きく、改めて「かなだい」の技術力の高さが明確となった。精度さえ上げれば、世界トップランクに食い込む可能性もある。伸びしろの再確認という意味でも、大きな収穫となった筈だ。
 高橋にとって9年ぶりのチャンピオンシップは、過去2度の頂点を含む4つのメダルを獲得してきた大会。しかも、今回自己最高点では全組中2位と、世界中から表彰台への期待が高まっていた。
  四大陸選手権は、国内選考を経て代表として派遣される重要な試合でもある。2018年のシングル復帰以来、これほどの重圧を負っての競技参戦は、高橋にとっては初めてのこと。試合後の記者会見でも、海外メディアからプレッシャーについての質問が飛んだ。帰国子女の村元は「ストレスは全く無かった」と流ちょうに即答したが、高橋が「a little bit」(ちょっぴりは)と自ら身を乗り出して付け足したシーンは、印象的だった。
 しかし一方で、この重圧を背負いながらの銀メダルは、「かなだい」の意識に前向きな影響を与えたようにも見える。全日本選手権終了後には、現役続行について慎重な姿勢を崩さなかったふたり。だが、今回の記者会見では、「今年はシルバー・コレクターだったが、違う景色も見てみたい気持ちが芽生えてきた」という言葉も飛び出した。
 時に過大になりかねない周囲の期待を、自らを鼓舞するモチベーションに転換できるのもトップアスリートの資質。転倒のあったリズムダンス終了後、自らへの怒りをかみ殺しているかのような引き締まった高橋の表情に、「勝負師の帰還」を見たファンも多い。
 かなだいの次戦は、南仏・モンペリエで開催される3月の世界選手権。この試合は、翌2023年にさいたまで開催される世界選手権の出場枠を賭けた戦いとなる。今季最終戦を終えて2人の視界に広がるのはいかなる景色か。2か月後がますます楽しみだ。

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