女子選考2021

 12月30日、プロフィギュアスケーターの安藤美姫が、Twitterで心情を吐露した。


「今回いろんな方々がSNS上で呟いてるのをお見かけしますが」と、2月に行われる北京五輪代表の選考について、SNS上で多くの意見が交わされていることに言及。
「スケーターも目にするような形でネガティブな言葉はSNSで呟かないでほしい…」と、切々と訴えた。一見温かい呟きだが、フィギュアスケートファンの間からは反発の声が上がっている。
 安藤のツイートでは、具体的な名前は明らかにされていない。だが、一連の文章は、
「代表入り確実と思われた選手が落選したことで、選ばれた方の選手に誹謗中傷が行われている」
ことへの警鐘と読み取ることが出来る。
 男子シングルとペアについては、順当に代表が選出された。「実力が逼迫」(竹内強化部長)していたアイスダンスは、2組が五輪と世界選手権の代表を分け合う形で決着。選考が大きく紛糾したのは、女子シングルだ。
 北京五輪代表の座を射止めたのは、全日本選手権3位の河辺愛菜。選考レースでは大きくリードと目されていた三原舞依を抜き去っての選出だった。
 三原は今季、北京五輪のテスト大会で優勝。グランプリシリーズでも2戦連続で4位と、安定した成績を残している。一方の河辺が満たした選考基準は、「全日本表彰台」の1点のみ。同大会で3Aを2本決めたことは評価出来るものの、河辺以上に安定して3Aを跳ぶトゥクタミシェワは、ロシア代表の座すら危うい。もはや、トリプルアクセルだけではロシアの若手に伍する事は不可能だ。実際、全日本フリーの演技直後には、河辺自ら「まだ五輪に行けるレベルには達していない」と神妙な面持ちで語っていた。
 にもかかわらず、河辺は、五輪ばかりか世界選手権の代表にも選出されている。
 実は、五輪年の世界選手権は、いわば「格が一つ下がる」形となる。大舞台を経験しつつ、「最重要試合の重圧」からは解放されるという、若手育成にはもってこいの場となる訳だ。日本スケート連盟の竹内強化部長は、河辺選出について、「大きなファクターとして『次世代』」と述べた。次世代育成がキーポイントであるならば、三原は五輪、河辺は世界選手権に派遣する方が筋が通る。
 あまりにも不可解な選考に、ネットでは不満の声が噴出した。三原の落選を惜しむ発言ばかりではない。「会見では河辺さんの顔が強張っていた。どうしてあんな決め方をしたのか」と、河辺の負担を心配する書き込みも多かった。さらに、
「同門の坂本と三原を五輪代表にすると、国内指導チームのパワーバランスが崩れる。どのみち三原外しの選考で、河辺はそのとばっちりを喰って憎まれ役を押し付けられただけ」
 などという憶測まで飛ぶ始末だ。
 問題は、噂の真偽ではなく、このような推量を招いてしまった選考過程にある。安藤はファンに向けて「結果を受け入れてほしい」と訴えた。しかし本来は、「大多数がすっきりと受け入れることの出来る選考を行う」ことが先である。
 フィギュアの五輪代表選考については、これまでにも、必ずと言っていいほど問題が発生してきた。噴出する批判を単なる「誹謗」として放置しては、ファンも離れて行ってしまう。元選手が個人的に呟いた火消しに頼らず、選手からもファンからも信頼される運営を行う。このシンプルな対応が、今のスケート連盟には強く求められている。

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