四大陸開催 タリンってどんな街?

 1月23日、フィギュアスケートの四大陸選手権が閉幕した。元々の予定地は中 国の天津だったが、コロナ禍で運営を返上。前週に欧州選手権を開催したエスト ニアの首都タリンが、会場をそのまま残す形で引き受けた。日本選手は、8名派 遣された内5名が表彰台に上る大活躍。もしタリンが大会を主催しなかったら、 この快挙も無かったことになる。
 会場では、もちろんマスクの着用が必須。選手が入れ替わるごとにキス&クラ イも丁寧に消毒された。温かな運営で選手たちの好演技を引き出したエストニア のタリン。旅行先としても、魅力にあふれた街だ。
 エストニアに入国するには、フィンランドのヘルシンキ・ヴァンター国際空港 での乗り継ぎが必要となる。フィンランドは「日本から最も近い欧州(ロシアを 除く)」と言われており、直行便で10時間ほど。空路ならば、ここから30分でタ リン国際空港に到着する。だが、ヘルシンキからタリンに入るには別の方法もあ る。船だ。
 バルト海のフィンランド湾をまたぐ、穏やかな2時間の船旅。29ユーロ(4000 円弱)で大型フェリーに乗り込むと、デパートやレストラン、バーを備えた客船 でのクルーズが楽しめる。タリン港に到着すれば、旧市街までは車でほんの10分 ほど。
 タリンは古くから港湾都市として栄え、たびたび近隣各国の侵攻を受けてき た。14世紀、それまで実質的に北部エストニアを領有していたデンマークが一帯 をドイツ騎士団に売却。以降200年ほどドイツの影響下に置かれたタリン旧市街 は、ドイツの古い街並みによく似ている。だが、その後帝政ロシアの支配下に入 ると、今度はロシア風の建築物も建てられた。タリン郊外のカドリオルグ宮殿 は、ピョートル大帝が正妃エカチェリーナ1世のために建てた夏の宮殿だ。
 旧市街の中心にも、ロシア正教の特徴的な玉ねぎ屋根を持つアレクサンドル・ ネフスキー聖堂がそびえ立っている。ガイドなどでは「帝政ロシアの支配を思い 起こさせるため、市民には嫌われている」とあるが、ことはそう単純ではない。
 ロシアはたびたび移民をエストニアに送り込んだため、数世代にわたって同国 に暮らすロシアルーツの人々も少なくない。タリンの観光資源には、前述の宮殿 や大聖堂など、ロシア時代のものも多いことから、現地でガイドを手配すると 「ロシア派」に当たる率が高いのだ。独立の経緯を旅行者に語る誇らしげな口調 の一方で、ロシア文化に対する愛着も捨てきれぬ彼らの複雑さは興味深い。
 一方で、国家としてのエストニアは、いまだロシアとは緊張関係にある。IT 国家として名高い同国だが、きっかけとなったのは、2007年に起きたロシアから の大規模サーバー攻撃だ。旧市街のコフトゥッツア展望台からは、古く美しい街 並みとその奥に広がるバルト海、さらには右手にIT技術の最先端を行く新市街 までが一望できる。
 北欧圏のタリンは、冬場の日照時間が短い。午後3時を回ると、一帯は夕暮れ の濃い気配に包まれる。屋台で供される北欧のホットワイン・グロッグを啜るも 良し、15世紀の商家を模したカフェでオリジナルのフレイバービールを楽しむも 良し。長引く病禍で観光渡航もままならない昨今だが、いつかは訪れてみたい 街、それが北欧のタリンである。

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