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眠たすぎて年収1000万を失った話

 また90分で目が覚めてしまった。ここ最近、持病の睡眠障害が再発した。一時期治ったかのように思われたそれは、私が弱っていると見るや否や顔を覗かせる。根本の原因となっている精神的な疾患とは一生付き合わなくてはならない。

 明け方にもなると、眠気よりも先に腰と胃が痛くなってくるので仕方がなくベッドに横たわる。目を瞑って眠りに着こうとすると、肩をバンバン!と誰かに叩かれる。「寝てる場合じゃないぞ。寝てる間にお前の近くで嫌なことが起きるぞ」と言われている錯覚に陥る。私の睡眠障害が「不安神経症」からくるものだと診断されたのは、サラリーマンをはじめて3年が経った時だった。

 大学を卒業した私は、もともと興味を持っていたメディアや芸能従事の職には就かなかった。私が卒業した2011年は「就職氷河期」と呼ばれた時代で、東日本大震災に見舞われた年でもある。おそらく100通以上のエントリーシートを提出した記憶がある。おおよそ60社ほど最終面接までは進んだが、実際に内定が出たのは10社程度だった。在学中はテレビ局への就職を目標に努力をしていたが、いざ就職活動が始まるとそういった意欲は急に消えてしまい「どの企業でもいい。東証一部上場していて払いが良いところにしよう」といったマインドに心変わりしていた。私が全く志望していなかったIT業界の企業であるR株式会社を就職先として選んだのは、それだけの理由だった。

 結論から話すと、私はこのR株式会社で6年ほどサラリーマン(広告営業)として働いた結果、私の精神は日々蝕まれていき、最終的には退職を選択することとなった。
 月~金で6時40分に起床し、堅苦しいスーツを来て満員電車に45分揺られて出社していた。当初は始業時間の30分前には到着するよう心がけていたが、連日の終電帰りの疲労の蓄積により、私の出社時間はみるみるうちに遅くなっていった。電車があるうちに帰れる日はまだいい方で、朝4時過ぎにタクシーで帰宅する日も多々あった。その際は暖かいベッドで眠ると寝過ぎてしまうので、浴槽に薄くお湯を張りその中で寝たりしていた(深い眠りに入りそうになると溺れるので必然的に起きるという画期的なシステムだ)

 この頃から睡眠障害の兆しはあったが、そもそもの睡眠時間が短かったため自分では気づけずにいた。業務用のスマートフォン端末を365日持ち歩き、土日だろうが深夜だろうが関係なくひっきりなしに電話はかかってくる。数少ない休日も、会社が体育会系な陽キャイベント(バーベキューやクリスマスパーティなど)をスケジューリングしてくるので気が休まる日などなかった。
 毎月過酷なノルマに追われてはいたが、実は個人目標は毎度のことながら達成していた。ただ部署としては未達成だったため、(自分のノルマが終わっているとはいえ)定時で退社していいはずもなく、終電で帰るのも後ろめたいような劣悪な職場環境だった。(用を足しに行くのも上長の許可が必要だった時期もあり、Googleで会社名を調べると検索候補に膀胱炎がヒットするほどだった)

 日々の業務に飽きた私は、当然の如く副業に手を染めた。転売ではないので叩かないで欲しい。私の睡眠障害が発覚したのは、そのサイドビジネスが順調に副収入としての勢いを増していった時期だった。1週間で合計3.4時間程度しか眠れない週が続いたせいか、私は通勤電車で倒れてしまい、そのまま入院することとなった。診断の結果は不安神経症からくる睡眠障害だった。

 退院後に睡眠薬を処方されたが、これがまた曲者で服用したらしたで、きっかりかっちり8時間寝てしまう。深夜2時に帰宅して薬を飲んで寝たらどうなるか?そう、始業開始1時間後である10時にパッチリ目が覚める。そんなことが月に何回かあった。しかし服用しないと眠れないので否応無しに飲む以外の選択肢がない。

 成績のみでいえば400人いる同期の中でも毎月トップ3に入る実績だったにも関わらず、私は寝坊が多いという理由で課長から昇格することはなかった。会社から薬を飲むのを辞めてはどうか?などと提案があった時「僕を殺す気ですか?」と人事に悪態ついてしまったことを今でも鮮明に覚えている。しかしそれと同時に、全ての物事ががどうでも良くなり、その場で退職を切り出してしまった次第だ。
 退職の申し立てをしてから申請書類が出来上がるまでおよそ45分の出来事であった。6年勤めた会社にも関わらず、引き継ぎ作業も3時間で終わってしまった。数千の社員を率いる大手企業はここがすごいと改めて感じさせられる。トップ3の成績を誇る奴だろうがなんだろうが、そんなやつの代わりになる歯車はいくらでもいるということだ。

 私はネクタイを雑にほどき、特にお礼の挨拶回りなどもせずに(誰も友達がいなかったから)、颯爽と会社のエントランスを出た。二子玉川の涼しい風が頬に当たるのを感じながら、私はとある場所に電話をかけた。「もしもし?今日勢いで会社辞めたんだけど、イベント制作としてそっちで働いていい?」

 会社を辞めてからすぐに睡眠障害は改善された。午前中に起きることもなくなったし、そもそも午前中に予定を入れることすらしなくなってしまった。スーツも着なくなった。満員電車も乗らなくなった。クソみたいな上司もいないし、激浅い陽キャの同僚もいない。

「俺のほうがもっと劣悪な環境にいるよ。お前はまだマシ。気合が足りないだけ。」そんな声が聞こえてくる。知ってるよ、そんなのは。お前が学生時代クソバカだったせいで不幸になった自慢はトイレの壁にでも書いておけよ。お前は自分の環境を変えられるだけの知能はないけど、根性だけは人一倍あるからすごいよね。僕は眠たすぎて6年しか頑張れなかったし、サラリーマンとして年収1000万コースからもはずれたよ。でもお前みたいにITドカタとして生涯を終えるつもりはなかったから、40歳までに不労所得だけで生きていけるだけのシステムも作った。お前はせいぜいクソブスな女とクソバカな子供作った程度でしょうもないマウントとっておけよ、な?それがお前のいう「本物の幸せ」なんだろ?よかったな。イオンモールのフードコートで子供とうどん食べて「美味しいね」とか言っとけ。限られた選択肢しかないド底辺の生活レベルでみじめに生き続けろカス。老害の運転するプリウスに轢かれてさっさと●ね。そうやって自分より下の人を呪い続けないと人生眠たくて眠ってしまうんだよ。

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