見出し画像

モラトリアム

 この話をすると大抵驚かれるのだが、私の名前は ”葵”や”碧”でなければ、苗字が ”青井”や”蒼井”というわけでもない。「アオイ」は私の本名と一文字もかすっていないのだ。十年来の友人の中にも私の本名が「アオイ」だと思っている人はいるだろうし、なんなら職場やお付き合いしてきた彼女に対してすら「アオイくん/ちゃん」で統一していた。もちろん本名は開示していたのだが、その上でこの呼び名が選ばれていた。本名で呼ばれるシチュエーションも、今となっては実家か病院くらいのものだ。

なぜ「アオイ」なのか。それは自分の中でも記憶が曖昧だが
①字面だけで男性か女性かの判別がつかない
⓶字面だけで苗字か名前かの判別がつかない
秘匿性の高い名前にしたかったから、という記憶がある。
(もう一つ理由を挙げるとすれば、人生で一番好きな作品である攻殻機動隊というアニメ―ションに登場する知能犯の名前であったことも大きい)

 私は恐らく2015年頃を最後にインターネット上に自らの写真を載せていない。(他人の写真の映り込み・メディア露出などでは映っていることもあるのだが、それらは見つけてもそっとしておいてほしい)私は自分の素性がインターネット上に晒されることに常に怯えている。年齢は?性別は?住所は?どんな仕事をしている?それらの情報を赤の他人に知られることに何一つメリットを感じられないのだ。

 何故そこまで怯えているのか。2013年頃、当時の私は今以上に尖っており、SNS上でしょうもないオタクを貶めることで自己を顕示していた。その結果として大量のアンチやストーカーを産み出し、とうとう大型掲示板に勤務先と住所が晒され、(現在削除済)アンチの一人が会社に電凸する事態にまで発展していた。

 その凸が原因で、当時社内で誰よりも結果を出していた私は、会社から副業の疑惑をかけられることとなった。会議室のプロジェクターにはドヤ顔でアイドルグループのチェキを販売する僕の写真や、ヴィレッジヴァンガードで販売される私が制作したグッズがデカデカと投影されたりした。結果としてグレー判定で終わったのだが、クロ認定されなかったのはやはりSNSに個人情報を書き込んでいなかったことが大きかった。

 私はこれからも「アオイ」として生きていくと思う。
大型掲示板に僕の悪口を散々書き込んでくれた君たち、ありがとう。
起きている時間のうちの数分を僕のために割いてくれて、ありがとう。
今日も僕は君たちより少しだけいい暮らしをして、少しだけ良い夢を見ています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?