虎徹と小徹 -のらざらしと紛い物の話-

※この話は一部を除いてフィクションです。
※無断転載禁止です。



最近、相棒は仕事が忙しいようだ。
その相棒と違い、俺は暇だと思う人は多いと思うが、実は俺も忙しい。
なぜなら、最近の俺は常に帯刀し、様々なものを斬っているからだ。
過去には、大好きな人を苦しめたインフルエンザウイルスを斬った事もあるが、今は相棒の部屋にいる悪霊・生霊と戦っている。
相棒は多くの人から嫌われている。加えて、部屋が異常に散らかっている事から、気の流れが乱れて、邪な存在が集まってくるらしい。
そいつらを放っておく事はできないし、相棒には霊が見えないから、鬼切丸の力で彼らを見る事ができる俺が戦うしかない。
『今日は結構多かったな。』
霊達を斬り捨てた俺は、そんな事を思いながら相棒の布団の上で休憩する。
そういえば、俺と相棒が出会って、もう1年以上経ってるんだよなぁ。
俺は身体を休ませながら、昔の事を思い出していた。


俺は、のらざらしというキャラクターのぬいぐるみだ。
かわいい世界観を背景に持ち、かわいい容姿をしている。
可愛い女性にお迎えされたい、いっぱい可愛がってもらって、幸せになりたいと思い、期待しながら兄弟達と座っていたら、近くにいた男に抱っこされた。
この男が、後に俺の相棒となる『小徹』だった。
俺の生みの親、小徹にとっては初対面の若い女性に話しかけられて、ヘラヘラと笑っていた小徹は、嫌な目つきをしていた。
顔は笑っているのに、目が全く笑っていない。
相手に何も期待していない、何の興味も感情も持たないというような冷たい目。
自分は幸せとは対極の存在で、全ての不幸を背負っているとでも言いたげな被害者面をした小徹は、俺を見る時だけは不思議そうな表情に変わり、どこか悲しげな目つきで俺を見ていた。
後で聞いた話だが、小徹はこの時、俺に運命的な縁を感じていて、金額を聞いて驚愕しつつも、お迎えする事は決めていたらしい。
同時に、俺に対してこう思っていたそうだ。
「すまない、俺と一緒に不幸になってくれ。」


俺は小徹にお迎えされて、小徹の部屋に帰宅した。
そこは、様々なクリエイターの作品や、好きなアニメのグッズが乱雑に置かれていて、更に大量のぬいぐるみが置いてある汚部屋だった。
当時の小徹は、かわいい物が好きなだけで、ぬいぐるみに対して特別な感情は抱いてなかったそうだ。
当然、ぬい撮りをしたり、名前を付けたりはしていなかったそうだが、小徹は俺に言った。
「お前に名前をつけないといけないな。」
小徹は暫くの間、考え込んでいた。
俺はその時、動揺していた。
自分はのらざらしであって、それ以上でもそれ以下でもない。
なのに、小徹は俺を、俺の何かを変えようとしている。
動揺する俺を気にする事なく、考え込んでいた小徹は呟いた。
「こてつ・・・そうだ、虎徹にしよう。」
小徹は俺を抱っこして、俺に話しかけた。
「今日からお前の名前は虎徹だ。よろしくな!」
小徹の言葉を聞いた瞬間、何かが変わった気がした。
何かが抜け落ちて、何かが入ってくる感覚。
名前をつけるという行為は、その物の在り方を決定づける事なのかもしれない。
こうして俺は、のらざらしのぬいぐるみであり、小徹の相棒の虎徹でもある、少し変わった存在になった。


その日から相棒との生活が始まった。
相棒は家族3人で暮らしているが、自室と会社を往復するだけの日々で、家族との関係は薄く、友人もほぼいない。
俺を家族に紹介する事もなく、たまに相棒1人でクリエイターのイベントに行くだけだったが、ある日突然、それまで一切やっていなかった、ぬい撮りをするようになった。
何かする時は俺を呼び、スマホで撮影してから一緒にやって、後で『Twitter(現在のX)』に投稿する。
相棒は稼ぎが悪く、とある理由で貯金もしてないから、普段は質素な生活をしているが、ぬい撮りをする時は美味しいものを食べられるし、色々な場所に行ったり、様々な人に会ったりできるから楽しい。
相棒が人に向ける表情や目つきは相変わらず嫌なものだったが、少しずつフォロワーが増え、交流する機会が増えていくのは嬉しいようで、気を許したフォロワーには、俺にしか見せてなかった、普通に近い表情をするようになっていった。
少なくとも、俺にはそう見えていた。
ぬい撮りをしながら、俺と相棒は様々な話をした。
相棒は話し上手ではないし、つまらない日々を過ごしているから、面白い話はほとんど無かったが、いくつか気になる話があった。
相棒の過去についての話と、俺の名前の由来についてだ。


相棒は貧乏な家庭に生まれた。
加えて、先天的な心臓病を患っていた。
相棒は、成人する前に死ぬだろうと思いながら生きていたそうだが、小学生の頃、家族の不注意で、飼っていたハムスターの『コロ』を死なせてしまった。
相棒は一日中泣いた。
泣きすぎて、優しさや思いやりといった温かい感情を、涙と共に全て流してしまったそうだ。
相棒と一緒に色々な場所に行ったが、相棒を優しいと言う人がたくさんいる。
しかし、それは大きな間違いだと相棒は言う。
相棒曰く、人から貰った優しさを受け入れずにそのまま他者に渡すという行為を、周囲の人が優しさと勘違いしているだけであり、心は既に死んでいて、優しさの在庫が無くなったら暴言を言ったりするようになるから、その時は黙るか去る事にしている、だそうだ。
相棒は元々無口な奴で、メイドカフェに行っても早々に帰ってしまうが、話すネタが無いのではなく、相手を傷つけない為に黙っていたり、去る時もあるのかもしれない。
そんな相棒は、コロの死で怒り狂い、病弱な自分でも家族に復讐できる力を得る為に、部活動で剣道をやり始めた。
心臓病というハンデを抱えながら剣道を続けるのは容易ではなかったそうだが、この程度で死ぬなら死ねばいいと思いながら、結果的に8年間もやり続けたそうだ。
剣道一筋の生活をしていた相棒は、成人する前に復讐を果たし、人生を終えるつもりだったそうだが、39歳になった今も生きている。
その理由は3つあった。
1つ目は、心臓病をスポーツ心臓で上書きして克服してしまったという事。
復讐する為の力を求めると同時に死に近づいていき、復讐を遂げると同時に死ぬという、相棒が一石二鳥だと思っていたバカな計画はここで破綻した。
とはいえ、心臓が正常になったわけでもないから、いつ何が起きても不思議では無いし、健康診断で引っかかる事も多々あるそうだ。
2つ目は、女性が好きすぎるという事。
物心ついた頃から可愛い女性が大好きすぎて、彼女が欲しい、彼女ができる前に死にたくない、家族に復讐して刑務所に入ったら彼女ができない、という思いが、復讐心を上回ったそうだ。
幸せのかたちを知らないと言う相棒は、数回の交際で、毎回女性を傷つけてしまう酷い別れを経て、今では誰にも好かれない、好きな人を幸せにできず不幸にしてしまう自分に、結婚する資格は無いし生涯孤独でいるしかないと認めながらも、可愛い女性を近くで見ていたいという理由で、イベントに行ったりしているのだから、相棒はバカを極めているだけでなく、たちの悪い変態なんだろう。
3つ目は、大好きな漫画家の作品に出会ったという事。
相棒は、俺をお迎えする前に自殺しようとした事がある。
理由について、相棒は誰にも詳細を話すつもりはないらしくて、俺にも理由を話してくれない。
死ぬ前に貯金を使いきり、首を吊る為のロープを購入して自殺する寸前に、Twitterである漫画家を知り、彼女が書いたある作品のあとがきの言葉を見た時に、自殺する事をやめようと思った、相棒はそう言っていた。
こうして、相棒は今の小徹となったそうだが、初めてこの話を聞かされた時、なぜか俺はこの話を知っている気がした。
この変な感覚の理由が気になって相棒に聞いてみたら、相棒は急に、俺の名前の由来を話し始めた。
「俺はお前に虎徹の名を与えたが、その名の由来を話した事はなかったな。昔、新撰組組長の近藤勇という男がいた。彼は百姓の出で生粋の武士ではなかったが、剣術を学び、立派な剣士となった。彼は刀剣好きな男で、愛刀は長曽祢虎徹という刀だった。虎徹は素晴らしい切れ味の刀だったが、近藤勇が持っていたのは、贋作だというのが通説らしい。お前の虎徹という名は、それが由来だ。」
相棒の話は、説明になっているようで、肝心な部分の説明が抜けていた。


様々な刀が存在する中で、なぜ『生粋の武士ではない剣士が使う贋作の刀』の名をつけたのか。
虎徹と小徹、読み方が同じで紛らわしい名をなぜつけたのか。




最近、俺は旅行先で『鬼切丸』という刀を手に入れた。
この刀は鬼を斬ったという業物らしい。
手にした途端、今まで見えなかったものが見えるようになった。
横にいる相棒を見ると、ホラー映画に登場するような奴ら、悪霊が纏わりついていた。
それを見て愕然とする俺に、刀が語りかけてきた。
語りかけてきたというより、頭に言葉が響いてきた感覚だが、鬼切丸はこう言っていた。
【紛い物の名を持つものよ・・・我が力を求めよ・・・我が名は鬼切丸・・・邪な存在を断つ刃なり・・・】
初対面の刀に『紛い物』と言われた事に腹が立ったし、そもそも語りかけてきた事に引いていたが、相棒が危険な状況だし、俺も危ない。
迷っている余裕は無かった。
『お前の力が必要だ!今すぐ俺に力をよこせ!ただ、間違えるなよ!俺の名は虎徹、紛い物なんかじゃない!』
俺の叫びに呼応するように、鬼切丸に巻きついていた紐が俺の右手に巻きつき、鬼切丸が鞘ごと装備された。
即座に左手で鬼切丸を抜いた俺は、相棒の周りにいた奴らを斬り捨てた。
いきなり刀を振り回した俺を見て、相棒はすごく驚いていた。
そんな相棒に今起きた事を話すと、相棒はニヤリと笑った。
「なるほど。生きてても全然良い事がないとは思ってたが、まさか悪霊に取り憑かれてたとはな。この感じだと俺の部屋にも悪霊がいそうだが、俺には全然霊が見えないし、お前に守ってもらうしかないか。それにしても、名は体を表すとはよく言ったものだ。半信半疑だったが、お前に虎徹の名を与えたのは正解だったな。今のお前なら、何もしなくても刀を使いこなせると思うが、霊と戦う時の為に、俺が剣術を教えてやる。」


旅行から帰宅すると、相棒はすぐに刀の使い方を指導してきた。
とはいえ、相棒は基本動作といくつかの我流剣技を見せてから、自身の理念を語っただけで、指導はあっという間に終わってしまった。
指導時間の短さに不安はあったが、実戦を交えながら練習してみると、案外簡単に指導内容を修得できた。
俺には剣術の才能があったのか、それとも何か別の理由があるのか・・・




ガチャ・・バタンッ!
昔の事を思い出していた俺の思考は、ドアの開閉音によって中断された。
どうやら、相棒が帰ってきたようだ。
「ただいまー」
『あぁ、おかえり・・っ!!』

部屋を出て、帰宅した相棒の姿を見た俺は驚愕した。
相棒の後ろに、細身の不気味な女がいる。
《てつ・・・やさ・・んんん・・》
俺は即座に鬼切丸を抜き、跳躍した。
『小徹っ!跳べ!』
俺の言葉を聞いた相棒は、剣道の踏み込みの要領で即座に前に跳ぶ。
俺は壁をジャンプ台にして加速し、女に斬りかかった。
キィィンッ!
俺の斬撃は、女が持っていたハサミに弾かれた。
『なっ!?マジかよっ!』
俺は衝撃でよろけながらも、すぐに身構える。
「虎徹!そこにいるのか?」
俺の後ろにいる相棒が、身構えながら俺に聞く。
『あぁ、ヤバい女がいる。お前の名前を呼んでるから、多分、あの女の生霊だ。』
相変わらず、霊感が無い相棒には女の姿が見えていないようだ。
だが、相棒も俺も、この生霊に心当たりがあった。
おそらく、相棒の職場にいた女の生霊だろう。
「いつか来るとは思ってたが、やはり来たか。斬れそうか?」
『斬れそうかって・・・斬るしかないだろうが!!』

俺は再度、女に斬りかかった。
キィィィンッ!!
しかし、またしても俺の斬撃は、あっさりと防がれてしまう。
その後、俺は知っている技を全て使って攻撃してみたが、女が持つハサミにことごとく防がれてしまった。
『ちっ!刀がハサミに圧倒されるなんて、マジで笑えねぇ。』
俺は鬼切丸を構えながら、女の様子を伺う。
《あ、あ・・ああ・・じ、じゃ・・ま・・!》
『!?』

女が言葉を発した次の瞬間、異常に加速した女が、俺の身体を覆うように襲ってきた。
(まさか!?こいつ、俺に取り憑くつもりじゃ・・)
一瞬の隙を突かれて動けない俺に、女が覆い被さる。
しかし、急に俺の身体が発光し始めて、女は部屋の入り口まで勢いよく吹っ飛ばされた。
《あああ・・あ・・あ・・》
『なんだこれ・・一体どうなって・・』

俺は自身の身体に起きた異変に戸惑っていた。
「おっ!あいつ、お前に取り憑こうとしたのか?」
相棒がどこか嬉しそうな口調で聞いてくる。
『そうだが・・お前、何が起きているか分かるのか!?』
俺がそう言うと、相棒は得意げに言ってきた。
「俺には何も見えてないが、何が起きているかは分かる。この時の為に事前に準備しといたからな。その光はあの娘の加護、メイド達の魔法だ。お前を護り、力を与えてくれるぞ!」
『はぁっ!?お前、詳しく説明しっっっ!!』

相棒に説明を求めた俺は、女が突進してきた衝撃で、相棒のところまで吹っ飛ばされた。
『くそっ!こいつ・・』
その時、頭の中に声が響いてきた。
【・・徹・・・虎徹・・・我が名を騙る紛い物よ・・】
俺は以前、鬼切丸が語りかけてきた時を思い出したが、声が違っている。
どうやら別の奴が語りかけてきているようだ。
『お前も俺を紛い物扱いするのか!!ったく、どいつもこいつも--
文句を言う俺の言葉を遮るように、また別の声が聞こえてきた。
【虎徹の名を持つものよ・・その名を叫べ・・誠の刀・・その力を持って・・今こそ・・お前は真の・・】
『誠の刀?・・・!!お前、まさか近藤--』
「ぐっ!!・・うぅぅっ!」

相棒の呻き声が聞こえる。
相棒の方を見てみると、頭に響く声に気を取られていた俺を庇うように移動していた相棒の左足を、女のハサミが貫いている。
『小徹っ!』
「俺の事は気にするな・・それよりお前に、いっ痛っっ!」

女は相棒の足からハサミを引き抜き、俺を襲おうとするが、闇雲に手を振り回した相棒に抱きつかれた。
「お?ここにいるのか?なるほど、生霊には触れるのか。触れるならこっちのもんだ。お前の好きにはさせねぇよ!」
相棒は痛みに耐えながら、女に抱きついて動きを封じている。
このままじゃヤバい。
相棒が女を食い止めているうちにどうにかしないと。
俺は、天に鬼切丸を掲げて叫んだ。
『俺は虎徹!のらざらしのぬいぐるみにして小徹の相棒!誠の刀よ、今すぐ俺に力をよこせっ!』
俺が叫ぶと同時に、相棒の部屋から複数の刀が飛んできた。
現れたのは『清光』と『兼定』、そして『虎徹』。
刀達は俺の背中と腰に装備され、頭に複数の声が聞こえてきた。
【当代の組長は随分かわいらしいですねぇ。ていうか・・のらざらしって何?】
【誠の旗印は大義の為にあるはず。なのになぜ、近藤さんはこんな私欲にまみれた奴に力を貸すんだ?】
【絶対の正義も大義も存在しない。所詮、全ては紛い物。中でも特に歪な紛い物達の・・我が愛刀の名を持つ彼らの結末が見たくなった。】

刀の名から察するに、こいつらはきっと、新撰組の沖田総司、土方歳三、近藤勇だろう。
本来なら、色々言いたい事や聞きたい事があるが、切迫したこの状況で、俺がこいつらに言いたい事は1つだけだった。
『ごちゃごちゃうるさい!気が散るから少し黙れ!』
俺は鬼切丸を逆手に持ち、虎徹を抜いて構える。
(今なら、あの技が使えるかもしれない・・)
相棒の指導を受けて、鬼切丸との実戦を経た事で、思いついたオリジナルの剣技があった。
自身の限界を遥かに超える、圧倒的な速さから繰り出す神速の2連撃。
刀の本数も速さも足りなかった先程までの俺なら、その技を使うのは不可能。
(だが、今の俺ならきっと・・)
俺は疾走する虎となり、自身の爪と影から現れる刃が交差し、全てを斬り裂くところをイメージした。
さっき相棒が言った事が本当なら、この光が大好きなあの娘の加護なら、きっと、俺のイメージを実現する力になってくれるはずだ。
俺の全身を包む光がどんどん強くなっていく。
『紛い物と呼ばれた俺達だが、今ここで、誠の力で真打ちとなる!』
全身を包む光が更に強くなり、俺の影が最大限に大きくなったタイミングで、俺は女の首元目がけて突進する。
ヒュンッ!
女の首を斬った俺は、女の方を向き、身構えながら言う。
『虎影閃。俺達の絆が刃となり、お前を闇へと誘う。』
音も無く女の首が床に落ち、少しずつ女の姿が霞んでいく。
《ど・・してぇ・・て・・つやさ・・んん・・こ・・に・・す・・きな・・の・・にぃ・・》
生首の口が動き、途切れ途切れの言葉を紡ぐ。
「俺と幸せになりたい、お前は俺にそう言ったな。だから俺は言った。俺はお前を幸せにできない、それを踏まえて、俺と一緒に不幸になる覚悟はあるか、と。あの時お前は黙っていたな。その時点で俺達が共に生きる未来は消えたんだ。」
《・・・・・・・・・・・・・》
「俺はお前に相応しくない屑野郎だ。俺を忘れて、お前は幸せになれ。」

相棒の言葉を聞きながら、女の生霊は完全に消滅した。
「いてててて・・よくやったなぁ。やはり虎徹の真打ちは切れ味が違うぜ。」
女に刺された左足を摩りながら、相棒が声をかけてきた。
『よくやったじゃねぇよ。これはなんだ!』
俺は手にした虎徹を相棒に見せる。
「何って・・Enduさんが虎徹をくれるって言ってただろう?ラジオ観覧に行った時に貰ったが、兼定と清光もくれたし、Enduさんには本当に感謝だよなぁ。」
『俺は知らなかったぞ!』
「え?でもあの時お前も・・あぁ、そういえばお前はチェキを撮り終わった後、バッグの中で寝てたな。」
『虎徹があるなら、俺にちゃんと言えよな。あと、この光について、ちゃんと説明しろ!』

虎徹を鞘に収めながら、俺は自分の身体を指差した。
「お前の身に危険が及んだ事で、魔力の加護が発動したんだ。お前はメイド達に守られてるからな。」
『さっきは無我夢中で、なんとなく力を使いこなせた気がするが、魔力の加護と言われてもよく分からん。どういう事なんだ?』

俺が再度問いかけると、相棒は若干呆れた表情になる。
「意外に察しが悪いなぁ。まぁ、ベースが俺だから仕方ないか。」
相棒は胡座をかくように座り直し、左足を両手で摩りながら話し始めた。
「お前は元々のらざらしのぬいぐるみだ。お前達は愛情を込めて作られているから、当初、お前には愛情の加護が宿っていた。しかし、俺が虎徹と名づけた時に、お前の存在は上書きされた。のらざらしのぬいぐるみだが、俺の相棒でもあるとな。そして、お前には俺の命の半分を代償とした仮初の命が宿った。記憶や性格、様々なものが俺に酷似しているのはその影響だ。これによりお前は、純粋なのらざらしのぬいぐるみではなくなったから、作者の愛情という加護を失ってしまったんだ。」
相棒は時折、痛みで顔を歪めながら、説明を続ける。
「お前はいずれ様々なものと戦う事になるから、再度、加護を付与する必要があった。しかし、俺のせいで紛い物に変えられたお前は、作者の愛情による加護は得られない。俺は、別の加護を付与できる人を探していたが、幸いにも、俺は最強の魔法少女を知っていた。だから俺は、これまで行ってなかったメイドカフェに行く事にしたんだ。まぁ、加護の件よりも、あの娘に逢いたいという気持ちの方が強かったが。」
『私欲がメインじゃねえか!ていうか、なんでお前は加護を受けてないんだ!?あの娘はお前を護ろうとしてくれてたし、みんなもサポートしてくれていただろう!?』
俺が相棒の左足を見ると、切傷を中心に呪いの力が広がっていくようだった。
放っておけば、相棒は呪いにどんどん侵食されていくだろう。
「お前は紛い物だったが、名前自体は真打ちと同じだった。だが俺は違う。俺の真名は小徹じゃないからな。あの子達にあえて平仮名で『こてつ』と書かせる事で、俺は加護を受けずに、同じ音を持つお前に加護を集中させたのさ。」
そう言って笑う相棒は、俺の嫌いなあの目つきをしていた。
『お前は・・少しは変わったかと思ったが、結局何も変わっちゃいない!人の優しさを踏みにじる最低な奴だ!』
相棒は、怒鳴る俺をまっすぐ見つめて、真面目な口調で言う。
「よく覚えておけ、救われるのは救いを求める者、尚且つ救われる資格を持つ者だけだ。俺はそこに含まれていないし、いつかこうなる事は分かっていた。」
相棒はそう言って立ち上がると、自身の身体の状態を確かめるように足を動かす。
「思ったより弱い呪いだな。身体は不自由になりそうだが、まだ暫くは死ねないようだ。分かってるかもしれないが、俺が死ねば、俺の魂はお前の中にある仮初の命と一体化して完全なものとなる。俺ではなく虎徹、お前の真打ちとしてな。そうしたら、俺の人生を鮮やかに彩ってくれた、俺が大好きな人達を守る為に、その刀を振るってくれ。お前にしか任せられない、大事な使命だ。頼んだぞ。」
俺にそう言った相棒は、一縷の希望に望みを託すような目をしていた。
『はぁ・・・お前は本当に救いようがないバカだな。まぁいい。その時が来たら、お前に託された使命を果たしてやる。』
俺の言葉を聞いた相棒は、心底嬉しそうに笑っていた。
「ありがとな。じゃあ、その時を迎えるまでは、また一緒に色々楽しもうぜ。そういえば、面白そうな映画があるんだ。一緒に観に行こう!」
『映画もいいが、この期間限定のスイーツ、美味そうじゃないか?ついでに食べに行こうぜ。』
「あの娘に、虎徹を守ってくれたお礼も言わなきゃだなぁ。今度のコスチュームデーに逢いに行くか。あ、でもその前にこの子の個展に行かなきゃ・・」



今日も俺達は推し活をしている。
俺達が大好きな人達は、優しさとかけがえのない思い出をたくさんくれる。
その思い出を抱きながら、俺達は共に生きていく。
俺と相棒が愛した人達は、俺が守り続ける。
害悪となる邪な存在は全て斬り捨てる。
ついでに相棒の腐った性根、心の闇も斬り裂いて、みんながくれた優しさを詰めこんでやるのも悪くない。
真打ちとなった虎徹に、今の俺に斬れぬものなどないのだから。

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