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ゴンドウトモヒコさんのソロアルバムが好き(Vol.14)

 音楽家のゴンドウトモヒコさんが毎月配信リリースしているソロ名義のアルバム、2023年7月分で第14弾ですが、今回も感想を書きます。毎月「こういう所が良い」というのを残しているけれど、久しぶりに「今迄で一番好きやわ~」が更新されました。
 公式情報は以下からどうぞ。


Vol.14【Autonomy】

配信リンクはこちら

 2023年7月6日リリース。特に何かしらのコンセプトが示されている訳ではないが、総じて夏を感じるサウンドで纏められている。前作のVol.14【Vortex of Blue】も爽やかな曲が多かったが、今回は生楽器の音が前に出ているものも多く、今年1月にリリースされたVol.8【anonymous lounge】と近い手触りもある。

 「生楽器の音が…」と書いたが、冒頭のM-1[Enigmatic Pathways]は打ち込みの音圧が強い。けれど、フリューゲルの柔らかな音色の開放感や、後半で入ってくるピアノの音が、遠い夏の記憶を呼び起こすような柔らかさを持っている。
 M-2はタイトルトラックの[Autonomy]。繰り返されるピアノの音で過去へと記憶を巻き戻し、繊細なストリングスは巻き戻された記憶を鮮やかに再生する、そんな風に聴こえる曲だ。彩られた記憶の中には、青空と入道雲。夏の天気は安定せず、次第に夕立が訪れる。自分の幼少期の夏の記憶はこの音楽が描くほど美しいものだったかは定かでは無いが、もはや誰かの記憶でも良い、幼少期の夏休みの始まりに思いを馳せるような一曲だ。
 M-3[Summer distance]は、ベタ吹きのピアニカやダブっぽいけれどおぼつかないようにも聴こえるベースラインが滑稽で、これも幼少期の夏休みという趣。これらのピアニカやベースとは対照的な、大らかさを持つユーフォや軽やかなウクレレ、そしてanonymassでも聴けるような少し複雑なハンドクラップがサウンドを支えており、このアンバランス感も面白い。
 M-4[Echoes of Solitude]からM-5[幽玄の調べ]は、大人になってから田舎で過ごす休暇に合いそうな2曲だ。M-4は、縁側で微睡む夏の夕べ。イントロのギターは少しだけ涼しくなった夕方を想起させ、ドラムは遠くでうっすらと響く夏祭りの太鼓のように聴こえる。帰省して、そういえばこの時期は祭りをやっていたんだっけ、と記憶を辿りながら、一人ぼんやりと過ごす暇で贅沢な時間だ。M-5はユーフォの暖かさと電子音の冷たさが交互に訪れるアンビエントで、もう少し時間を進めて夏の深夜といったところだろうか。田舎の山あいの静けさや風の音。少し、お盆というか、ご先祖様が帰ってきていそうな気配もする。ただ、個人的な記憶との結び付きで言うと、何故か去年(2022年)の【Brian Eno Ambient Kyoto】を思い出す。会期後半(8月)の真昼間、京都特有の茹だるような暑さの中で会場に入った時に感じた、避暑としてのアンビエント。これを京都の夏の風物詩にすれば良いのに、とさえ思ったあの展示と似た涼しさをこの曲から感じたのだった。
 M-6[itaru]やM-7[Children's Dream]も夏の曲だと思う。M-4やM-5は山間部での夏の印象なのだが、こちらはもう少し港町の香りがする。M-6はメロディ部分がキラキラした夏の海のようで、ユーフォの音が船の汽笛のように聴こえる。また、他の何曲かと同様に、anonymassを彷彿とさせる曲でもある。後半で少し曲調が変わると、ユーフォ(チューバかもしれない)が刻むリズムから、海を離れて坂道を上るような絵も浮かぶ。M-7は、少しハスキーだけど決してダークでは無いフリューゲルが、カラッと晴れた夏の青空を連想させる。
 M-8[Beethoven's Beehive]は、"ベートーベンの蜂の巣"…?本作の中間部のハイライトと言っても良さそうな、夏の小さな冒険が始まるような、映画音楽のような曲だ。時折入ってくる羽音は勿論、ピアノのフレーズも蜂が飛び回っているように聴こえる。ストリングスが物語を描いていく様子や、終盤にかけてドラムが入って盛り上がっていくエンディングは、Vol.8のM-9[Dear Material]に通じるところもある気がして、やはりanonymassに近い曲が多いのかもしれない。
 この後はクールダウンポイントのようなM-9[Eupho Meets Gamelan part2]とM-10[Radiant Euphony]。今年1月リリースのVol.9【Undercurrent】にも[Eupho Meets Gamelan]という曲があったのだが、今作のpart2の方が柔らかく聴こえるのは前後の繋がりやアルバムのコンセプトが違うからだろうか。そして、冬に聴くのも良いが、夏こそ"Eupho Meets Gamelan"の静かな冷たさに触れるのに良い季節だとも思う。M-10は絶えず流れる水音と真っ直ぐに響くフリューゲルに身を委ねたくなる曲だ。3分過ぎから入ってくるリズムも、曲全体の清涼感からかグラスを叩いているかのように聴こえる(本当は何を鳴らしているのか私にはよく分かっていない)。
 終盤のM-11[Astral Reflection]は、この流れで聴くと夏の星座を探したり星を数えたりするようなイメージだが、冬に聴くと澄んだ空気の夜空を思い浮かべるのだろう。
 ラストはM-12[a day in the countryside]。"田舎での一日"。ここまで、田舎で過ごす夏のようだと感じる曲が多かったが、一番最後にイメージそのままのタイトルの曲が来た。但し、この曲は夏休みというよりも、休みが終わり、繰り返される日常生活の再開のように聴こえる。アルバムの最後で現実に引き戻されるというパターンはこれまでも何度か経験しているが(Vol.5やVol.7、Vol.11など)、この曲もそれに当てはまる。

 全曲に渡って何度も「夏」というキーワードが出てきた本作。自分の記憶には無い筈の夏の思い出らしきものまで次々と浮かんだからか(私の田舎にはM-4やM-5が合うような風景は無いし、実家には縁側も無いし、港町だけど坂は無い)、このアルバムを持って何処か旅に出たい気分になった。
 また、幾つか「これはanonymassっぽいなあ」と思う曲もあったが、anonymass自体にはあまり夏を連想させる曲がないようにも思うので、もしanonymassで夏のアルバムを作ったらこんな感じなのかな、と想像できるのも嬉しかった。ゴンドウさんのバンドやプロジェクトの中で、やっぱりanonymassが一番好きなのである。

楽器の事が気になっていたが…

 前回のVol.13の感想文の最後にフリューゲルとトランペットの話を少しだけ書いた後、【BAND LIFE】という雑誌の2016年11月号にゴンドウさんのインタビューが載っているという旨を教えて頂き、その記事で使用楽器のうち幾つかのモデルが特定できた。本当はもう少し調べて書きたかったのだが、この1か月の間に結局何も調べられず…。当該記事にも書いてあるが、フリューゲルはヤマハのボビー・シューのシグネチャーモデルらしい、ということぐらい。

Vol.15も楽しみ

 既に告知されているVol.15も、引き続き夏らしいアルバムになりそう。
 あれ、【summer distance】って今回のアルバムに収録されている曲と、同タイトル…?