ゴンドウトモヒコさんのソロアルバムが好き(Vol.15)
音楽家のゴンドウトモヒコさんの月次リリースのソロ名義アルバム、今月リリースの第15弾の感想です。
一連のソロワークスに関する公式の情報は以下からどうぞ。
Vol.15【summer distance】
配信リンクはこちら。
2023年8月4日リリース。前作のVol.14【Autonomy】も夏を感じるサウンドが揃っていたが、今作はタイトルもジャケットも各楽曲のタイトルも含めて、丸ごと夏仕様だ。
そんな夏のアルバムは、スキャットや途中で入ってくる鳩時計やアヒルの声のような音など、ユニークな要素が散りばめられたM-1[Labo Life]からスタートする。アルバム全体を見てもかなり個性の強い楽曲が並ぶが、そんな今作を象徴するかのようなクスっと笑える1曲だ。音数の多さをまとめるような、真っすぐに響くフリューゲルと8分の6拍子のリズムを刻むウッドベースが心地良い。
M-1でウッドベースに耳を傾けていたら、続くM-2[7拍子の西瓜]とM-3[Flow3]でもウッドベースが良いアクセントになっていることに気付く。M-2はタイトル通りの変拍子の中で、ウッドベースがリズムの引っ掛かりのような役割と言えば良いのだろうか。M-3は序盤から入ってくるベースラインが、風の無いじりじりとした暑さを描いているように聴こえる。この、少し乾いた空気を含む風景を思い浮かべるようなベースは以前他の曲でも聴いたことがあるなと思ったのだが、Vol.3のM-5[I Lived the Same]なんかが近いのかもしれない。
M-4[富士山通り]は時報のようなメロディから始まり、女声ボーカルの入る可愛らしい曲だ。グロッケンや各種の鳴り物が清涼感を示すが、チェロの暖かな音色にも注目したい。ところでタイトルの[富士山通り]というのが気になったのだが、実際の地名なのだろうか。東京、関東圏に住む人にとっては、夏の富士山というのは身近なものなのか、日本の西側に住む私にはいまいちピンと来ていない。
ここまでは前作のVol.14収録曲と並ぶような作風のものが続くが、ここからは目まぐるしいほど次々と曲調が変わる。但し、どれも夏の曲だ。
M-5[One Night in Resort Island]は、リリース前の試聴段階で「ゴンドウさん、こんな曲もあるのか」と驚いたバレアリック風味の1曲。今までゴンドウさんの曲を聴いてきて、エキゾチックなものはあれど"湿度"のようなものをあまり感じたことが無かったのだが、この曲は高温多湿だ。誰の曲か知らされないままこの曲が流れてきたら、多分私は、ゴンドウさんの曲だと当てることは出来ないだろうなと聴き進めていたら、聴き慣れたフリューゲルの音が聴こえてくる。
M-5の気怠い夜の景色から一転し、陽気な南国のバンドがやってくるのがM-6[サマーアドヴェンチャーのテーマ]。波音、ウクレレ、スティールパン、ホーンの生音、とにかく夏。こんなに陽気なのに、アウトロのエレピの音が少し寂しく、この時間が現実逃避だったかのように思えてくる。
M-7[神秘の丘]は本作で唯一のアンビエント楽曲だ。クールダウンというと少し違うかもしれないが、3分以内と比較的短いからかインタールードのような役割も果たしているように思う。
懐かしくて少し切ない遠い夏の記憶を呼び起こすのは、M-8[Sentimental Trip]。ゆったりとしたテンポの打ち込みとベースが、なかなか涼しくならない夏の曇天のようで、Bメロのコード進行は、降るか降らないか曖昧な小雨を表しているように聴こえる。私はこの曲が本作で一番好きだが、同時に「えっ、グラウンドビート?珍しい!」と声を出して驚いてしまったのも事実。M-5と同様に誰の曲か知らされずに流されたら、私はきっとゴンドウさんの曲だとは気付けないだろう。このまま90年前後(というのは懐かしいというより自分が生まれた時代になってしまうのだが)のUKソウルを聴きたくなったが、坂本龍一さんの90年代の作品を続けて聴きたくなるリスナーも居るだろうと思う。
聴く度に、(前の曲と比べて)この方向転換は何なんだよ、と心の中で突っ込んでしまうのが、M-9[がんばれ!高校球児]だ。自分の吹奏楽部時代の野球応援の記憶(県大会で敗退、勿論我々はコンクール直前の繁忙期)もほんのりと過りつつも、ゴンドウさんの曲なのでとにかく甲子園での日大三高である。吹奏楽事情に疎い私はゴンドウさんのファンになるまで知らなかったのだが、そもそも野球応援に吹奏楽を取り入れたのは日大三高とのこと(*1)。今年はゴンドウさんもユーフォを担いで甲子園へ足を運んでいたらしい(*2)。話が大幅に逸れたが、野球応援歌のような曲調にボイスサンプリング、途中からヒット連打の景気の良い曲だ。
M-10[thanks to Mr.Kikuchi]は誰かに宛てた曲だろうか。不勉強で分からず…。軽快なテンポのテクノポップで、この曲が好きという人は多そうだ。続くM-11[Talking about Spooky Story]では本作の前半でも見られるエキゾな世界が再び繰り広げられる。2:08頃から始まるシンセソロや、2:46頃から始まる風を吹き込むかのようなフリューゲルソロなど、日照りの中にオアシスを見つけていくような展開が聴きどころだ。
M-12は[閃光花火]。線香では無く閃光。重くどっしりと伸びるホーンの上に、開いては消えていく花火のようなピアノの旋律が響く。お盆を過ぎた頃に、残り少ない夏を名残惜しむかのように手に取る手持ち花火といったところだろうか。それでも終わりはやってくる。M-13[End of Summer]は、前作から本作にかけて続いた夏の締め括りの1曲だ。例年に比べると酷く暑かった今年の夏だが、夜は少しずつ涼しくなってきた。そんな今の時期をそのまま表すかのように、2:50辺りから主旋律とユニゾンで鳴っている少し物悲しいユーフォの音が秋の入り口を感じさせる。
前作は夏の旅に持って出かけたくなるようなアルバムだったが、本作は旅というよりは、都市部の酷暑を乗り切る為に様々な脳内逃避行をするような、そんな1枚だった。
また、去年の今頃のソロワークスは【A Song without Words】と冠したシリーズになっていて季節モノという趣では無かったので、この2か月間でゴンドウさんが描き奏でる夏の様子を堪能できたのも楽しかった。夏に限らず、季節に特化したアルバムは今後もまた聴いてみたい。
*1… 野球応援の為の吹奏楽、私の全く知らない世界だ。
*2… 8/9の第二試合が日大三高の初戦、社(兵庫代表)相手に3-0で勝利(その後も勝ち進むも、8/17におかやま山陽(岡山代表)相手に7-2で敗退)。
今さらながら、Vol.7収録曲[One holy night]について
Vol.15とは関係が無いが、たまたま今回のタイミングで気付いたので備忘メモ。Vol.7【about Boylston street】のM-1[One holy night]、昨年末の【Gondo's Carol Brass Night 2022】でアンサンブル編成でも演奏されていたこの曲だが、どうやら2014年にnoteで販売されている[tonight]という曲のバージョン違いらしい。前者のイントロとAメロ部分が後者に使われている。本件はツイートしたらご本人からリプがあったので、バージョン違いというのは正解なのだろう。
Vol.16は9/1リリース
夏が終わったと思ったら、9/1にはもう次作がリリースされるそう。また何やら面白そうなタイトルだ。